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モバイルヘルスを活用した行動変容介入に関するガイドライン読んでみた。(NICE guideline [NG183])

今回はイギリスの国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:以下、NICE)より2020年に出版されたBehaviour change: digital and mobile health interventionsを読んでみたので記載していきます。

NICEガイドラインとは?

・NICEについて

イギリスの医療の質を改善することを目的に設立されたイギリス政府の管轄下にある機構のNICEで作成されるガイドライン。

以下の3領域のガイドラインを策定している。

①国民保健サービス(National Health Service:以下、NHS)が用いる医療技術。
②臨床適用(疾患および徴候別ごとの手技、治療法の適応)。
③健康づくりと防疫について、公的機関に向けた情報提供。

また、ガイドライン上で各治療に対する費用対効果を示している点が特徴的となっています。

↓Wikipediaで日本語の説明もありました。

リハビリテーション領域でも様々なガイドラインが提示されているので興味があればご参照ください。

このガイドラインを読むメリット

・そもそも誰向けに書かれている?
①地域の政策立案者および責任者
②医療・福祉サービス提供者との連携を希望する個人や組織
③デジタルおよびモバイルヘルスの介入およびプログラムの設計者および提供者
④行動変容の実践者
⑤市民と接触する医療・福祉サービスに従事するトレーニングを受けたスタッフ
⑥健康に関連した行動(食事や運動、喫煙、飲酒、安全な性行動など)を改善したいと考えている人、その家族や介護者、その他の一般の人々

このガイドラインを通してどんな情報が得られるのか?

以下に関連する推奨事項の概要を得ることができます。

・デジタルおよびモバイルヘルス介入の発展
・デジタルおよびモバイルヘルス介入の委託
・デジタルおよびモバイルヘルス介入の利用
・食事や身体活動 
・喫煙 
・飲酒
・安全でない性行動

それでは、ガイドラインで言及されていた各項目の説明に入ります。

1.1 デジタルおよびモバイルヘルス介入の発展

1.1.1. 行動変容のためのデジタルおよびモバイルヘルス介入を開発・評価する際には、デジタル技術に関するNICE evidence standards framework for digital technologiesを参照する。

1.1.2. 行動変容のためのデジタルおよびモバイル健康介入を開発・評価する際には、評価のための専門のフレームワークに従う( Public Health England's guidance on evaluating digital health products, NHS Digital's digital assessment questions, the Department of Health and Social Care's code of conduct for data-driven health and care technology)。

1.1.3. デジタル・モバイルヘルスの介入を設計する際には、人々が変化を開始したり維持するのに役立つエビデンスに基づいた行動変容のテクニックを使用する。これには目標と計画、フィードバックとモニタリング、社会的支援が含まれる(詳しくはNICE's guideline on behaviour change: individual approachesを参照←めっちゃ勉強になります)。

1.1.4. 利用者が自分のニーズに合わせて目標を調整できるような介入を設計することを考える。

1.1.5. 不健康な目標や危険な目標を設定できるような介入や構成要素を開発してはならない。例:痩せにつながる目標。

1.1.6. 介入は柔軟に対応できるように以下の点を考慮する。
・スケールアップ(使用する利用者が増加することに対応できる)。
・地域のニーズや用途に合わせてカスタマイズする。

1.1.7. 以下の情報を利用可能にする。
・個人情報およびデータの使用方法について、利用者がどのように確認し、設定できるか。
・介入がいつモバイルデータを使用する可能性が高いか、どの程度のモバイルデータを使用する可能性があるか。
・あらゆる追加費用。
・規約と条件。

1.1.8. デジタルおよびモバイルヘルス介入を開発する際には、可能な限り早期に、また開発全体を通して潜在的なユーザーを含む幅広いステークホルダーを巻き込んで、以下のことを行う。
・介入の内容、構造、インターフェース、流れを開発し検討する。
・対象者に最適なデジタルプラットフォームを特定する。
・不公平感やDigital exclusion(人々がデジタルサービスを利用できない、または利用したくない状況)を意図せずに増加させる可能性のある介入のあらゆる側面を特定し対処する。
・介入が誰のためのものなのか、どのような行動を変えようとしているのか、その目的、起こりうる害、行動変容を確立するために必要な時間、そして利用者が介入をどのくらいの頻度で受ける可能性があるのかを議論し、利用者が理解していることを確認する。

1.1.9 介入を継続的に改善するために、テストや介入のリリース後のフィードバックを利用する。

1.2 デジタルおよびモバイルヘルス介入の委託

 ここでの推奨事項は、本ガイドラインで取り上げられている健康とライフスタイルの分野(より健康的な食生活・身体活動、 禁煙、節酒、より安全な性行動の実践)で健康的な行動に適用することをサポートしている。

1.2.1. 行動変容のための選択肢として、デジタルおよびモバイルヘルスの介入を検討する。

1.2.2. デジタルおよびモバイルヘルス介入を委託する場合は、代替としてではなく、既存のサービスの補完として行う。

1.2.3. Digital exclusionへの対応の必要性を含め、ニーズ評価を用いて、特定のデジタルおよびモバイルヘルス介入が地域住民のニーズの一部を満たすことができるかどうかを評価する。

1.2.4. 地域のニーズを満たすことができるエビデンスに基づいた既存のデジタルおよびモバイルヘルス介入について、専門家の情報源(NHS apps libraryなど)を確認する。新しいものの開発を委託する前に行う。

1.2.5. デジタルおよびモバイルヘルス介入の開発と使用に関する現行のフレームワーク、規制上の助言およびエビデンス基準を満たす介入を選択する( NICE evidence standards framework for digital technologiesを参照)。

1.2.6. 新しくデジタル・モバイルヘルス介入が必要な場合、地域レベルでの集学的連携や他のヘルスケア組織との協働が開発コストをシェアするのに適切かどうかを評価する。

1.2.7. デジタルおよびモバイルヘルス介入を委託する際、Equality impact assessmentの一環として、アクセスの均一性を考慮に入れる。
例;
・介入の有用性を制限する可能性のあるもの(識字率、感覚障害、言語の障壁など)。
・利用者への負担額(アプリのコストやデータ利用)。
・必要なハードウェアとオペレーティングシステムの利用可能性。
・インターネット、電話、ネットワークへのアクセス(例えば、農村部、閉鎖された施設、拘置所など)。
・個人情報とDeprivation※の程度。
Deprivation:収入、雇用、健康被害と障害、教育・技能・研修、犯罪、住宅やサービスの障壁、生活環境などの貧困の程度を示すための指標の総称。

1.2.8. 広告のない介入が望ましいが、広告付きの介入は利用者のコストを削減するのに役立つかもしれない。

1.2.9. たばこ産業が資金提供や開発しているデジタル・モバイルヘルス介入に委託してはならない。

1.3 デジタルおよびモバイルヘルス介入の利用

1.3.1. 既存サービスの補助であり行動変容のための選択肢として、デジタル・モバイルヘルス介入を検討する。その有効性は様々であることに注意する。

1.3.2. デジタル・モバイルヘルス介入の利用について議論する際、以下を考慮に入れる。
・利用者の好みと行動変容の目標、およびそれらに合わせた調整を可能にする介入
・利用者の能力、変化へ機会やモチベーション
・デジタル・ヘルス・リーディングリテラシー
・利用可能なデジタルプラットフォーム
・介入の目的
・どのくらいの頻度、強度で介入を利用したいと考えているか
・介入の中には有効性のエビデンスがないものもあること
・現在のクリニカルパスとどのように適合するか

1.3.3. デジタル・モバイルヘルス介入を使用する可能性のある人に次のように助言する。
・安全性、有効性、データの安全性が評価されている可能性が高いので、専門家の情報源(NHS apps libraryなど)があれば使用する。
・個人情報やデータの使用方法を確認し、設定する。
・追加費用がかかる可能性があることを理解する。
・あらゆるコストを負担する意思があるかどうかを確認する。
・ダウンロード後にモバイルデータを使用する可能性があることに注意する。
・介入中に健康上の懸念がある場合、医療従事者に助言を求める。
・規約を読む。

1.3.4. デジタル・モバイルヘルス介入の使用をアドバイスする際、内容が利用者にとって適切であるかどうかや起こりうる有害事象を以下の例を含め考慮に入れる。
例:
・臨床的な専門知識、対面での交流や治療を伴う既存の医療や社会的ケアサービスでより効果的に行動を修正できた時、デジタル介入で人々を自己管理するように導くことが可能か。
・脆弱な人々が対面式のサービスや介入にアクセスするのを妨げる可能性があるか。
・過度の運動や乱れた食生活など利用者の不健康な行動を促す側面を持っているか。
・ソーシャルメディアの要素を使用することで、一部の人々の精神衛生に悪影響を及ぼす可能性があるか。
・健康への不安が高まり、医療従事者への相談が多くなることにつながるか。

1.4. 食事と身体活動

1.4.1. 既存サービスの補助として、食生活の改善や身体活動レベルの向上から利益を得ることができる人のための選択肢としてデジタル・モバイルヘルス介入を検討する。その有効性は様々であることに注意する。

1.4.2. アクティビティトラッカー、食事や身体活動の日記などによる記録のようなセルフモニタリングを含むデジタル・モバイルヘルス介入を利用することを推奨。これは食事や身体活動の目標に向けた自分自身の進捗状況の確認に役立つ。

1.4.3. 利用者が摂食障害や過度の運動などの別の不健康な行動に発展したり、再開したりするリスクがあることを認識している場合は、セルフモニタリングを含まない介入を検討する。

1.5 喫煙

1.5.1. 既存サービスの補助として禁煙を支援するための選択肢としてデジタル・モバイルヘルス介入を検討する。その有効性は様々であることに注意する。

1.5.2. デジタル・モバイルヘルス介入を用いて禁煙を希望する人に、他のデジタル・モバイルヘルス介入と比較して個別化したテキストメッセージベースの介入が効果的である可能性があることを助言する。

1.5.3. たばこ産業が資金提供または開発していることが知られているデジタルおよびモバイルヘルス介入を提供しない。

1.6 飲酒

1.6.1. 既存サービスの補助としてアルコール摂取量を減らすための選択肢として、デジタルおよびモバイルヘルス介入を検討する。それらの有効性は様々であることに注意する。

1.6.2. 介入の中には、利用者に適した特定の構成要素が含まれており、アルコール摂取量を減らすことができる場合があることを伝える。例えば、ある利用者の摂取量を他の利用者と比較する(個別化された標準的フィードバックアプローチ)などである。

1.6.3. 複数回の介入は単発の介入よりも効果的な可能性があるが、単発の介入は介入しないよりは良いことを利用者に伝える。

1.7 安全でない性行動

1.7.1. 既存サービスの補助として安全でない性行動を減らすための選択肢としてオンラインでの簡易的な介入を検討する。その有効性は様々であることに注意する。

1.7.2. オンラインでの簡易介入を利用することを助言する場合、選択肢の要点が組み込まれた動画、台本付きのシナリオ、または脚色を含むものを検討する。

1.7.3. オンラインでの簡易介入の利用を助言する場合は、性的に露骨な内容のものがあるかもしれないことを利用者に伝える。

感想

以上が今回まとめられていた内容になります。

あくまで既存の介入に対して以下に補助的に活用していくか、またエビデンスの構築が重要になってくるんだなぁと改めて感じました。
また、デジタル技術の活用におけるフレームワークや健康に関連するアプリケーションの評価機構の存在も知ることができ大変勉強になりました。

推奨事項の列挙なので「ふーん」「それどういうこと?」みたいな内容ばかりですが、各推奨事項の理論的な背景やエビデンスレビューも公開されているので是非ご参照ください。先行研究をPICOに落とし込んで非常に分かりやすくまとめられていたり、費用対効果の分析も記載されていました。(食事と身体活動のとこだけで400ページ以上ありました・・・)

このガイドラインを通して、興味深い文献やガイドラインなどたくさんの資料の存在を知ることができたので今後の随時報告していけたらと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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