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救いの『友』

同じマンションに、私の音楽活動を再開するきっかけをくれた友人が住んでいる。

同い年の子どもを介して仲良くなった友人。
子どもがまだ1歳の頃に出会った。

初めて会ったのに、ぐいぐい色んなことを聞いてくる。
なのに不思議と失礼だなぁとは思わなかった。

彼女は結婚前、地方紙(新聞)の文化芸術面を担当していたこともあって、
絵画や音楽に詳しく、話しぶりも魅力的だ。

私がピアノを弾けると知ると、
あっという間にホームコンサートの計画を立て、ぜひ実家の両親にも聴かせてやってほしいと言ってきた。

「曲目はベートーヴェンの『月光ソナタ』とショパンの小品ね」と、リクエストを頂いた。

私は息子が亡くなって以来、ピアノが弾けなくなっていた。

私が弾くと、上手に歌う可愛らしい息子だった。まだまだ小さいのに、リズム感も音感も良くて夫婦で喜んだものだった。

ピアノを弾いたら思い出してしまって、
自分でいられなくなりそうだった。

ホームコンサートの日は近づいてくる。

弾かないことには何も始まらない。
兎にも角にも弾いてみた。

意外にも爽快だった。
久しぶりに弾いたのに、よく指が動いた。
新鮮だった。


ホームコンサートには彼女のご両親と旦那さまが来てくださった。
狭いピアノ室にぎゅうぎゅう詰めで聴いてもらった。

このことが、演奏活動を再開するきっかけになった。
練習を聴いていた近所の人から演奏依頼が来たり、そこからまた広がったりして。

大学や自宅で教えながら、娘が独り立ちするまで、演奏活動が続けられたのは彼女のお陰。
彼女は私のピアノの恩人だ。


この15年ほどは、彼女も仕事を初めて忙しくて会えなかった。
会っても挨拶してすれ違うだけ。

いつの間にかお互いの子どもたちも自立し、今度は親の介護が始まり、一緒にお茶しながら喋るなんてこともできなくなっていた。

そうこうしているうちにコロナ禍。

それがつい先日のこと。
車で仕事に行く時、駐車場で彼女と
ばったり会った。

いつもなら
「どない?元気にしてる〜?ほなね〜」
と、風のように去っていったのに、
その日は様子が違った。

車のそばまで寄ってきて
「あのな…人生ってわからんもんやな」
と突然言い出した。
話し聞いてほしい…
すでに目に涙がうっすら浮かんでる。

彼女は以前、パニック障害に罹っていたこともあったのでだいぶ心配した。

仕事が終わってスマホを見ると、
「心配かけてごめんな。妹のことやねん…」
と。

ドキッとした。
私も妹のことで苦しんでいる。

彼女は、心を掻き乱されて血尿と不眠症に悩まされ、だいぶ痩せていた。

翌日、
長い時間、お互いの妹の話をした。
なんだかよく似た感じだった。

彼女の妹は夫と娘二人が居て、さらに後ろに夫の家族の存在があって、
それはそれは複雑だった。

私の妹は気分にムラがあるのは昔から承知なのだが、家族で楽しく暮らしたいと、古民家に引っ越してきたのに何故か突然、家族皆出禁になってしまった。

私も彼女も妹に絶縁を言い渡された。
どちらも強力な妹たち。

どちらの家も、母親が姉妹の狭間でふりまわされている。

私は妹に出禁を言い渡された時、あまりのショックで熱が出てしばらく寝込んだ。

「私ら妹の心配で身体壊してんなぁ。もう体力ないし、言い争う気力もないし、妹を心配するの諦めたわ。」

全く同じ気持ちだった。

この一年、妹のことで大いに悩み、
妹と母と家族(夫と娘)、
どうしたら皆が仲良くできるか考えてきたけど…
2人でとことん喋ったけど、妹の件は解決はしない。

『私たちは何年もかけて自分の家族を大切に築き上げてきた。
それで充分や』
二人で同じ見解に達して笑った。

タイミング良く彼女と駐車場で会えて良かった。

そういえば、初めて会ったのも駐車場だったな。






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