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第三回オモイカネ杯出題について

どうもはじめまして!さっきのななと申します。今回は第三回オモイカネ杯で僕が出題させていただいた問題の解説をしたいと思います。

今回の出題
わし座ロー星が現在所属する星座はどれ?

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答え ④いるか座

コンセプト

今回のコンセプトは、「一見わからなさそうなんだけど、考え抜いたものだけが到達できる問題」でした。

初めて出場したときに感じたのが、作問って結構難しいなぁと言う事。
正直誰も答えられない問題を作るのは簡単なんです。正答率の縛りはありますが、どんな難問でも4択にすれば25%強でしょって主張できちゃう。でもそれじゃあ折角の選りすぐりの回答者がもったいない…
ここでは、最も思慮深く、学問に対する真摯な姿勢を持った人に正答を持ち帰って欲しい・・・そう考えました。

そこで、ただの知識問題ではなく、知識を”使って”考えて解答する問題にしようと決めました。
そして知力とは関係ないメタ読みをする人はなるべく間違うような設計に..

詳解

さて、問題の解説に移ります。
問うているのは、IAU定義の星座のみ領域である、他の伝統的星座定義(バイエル符号含む)は違う事星は動く事(固有運動)の3点を理解できているかです。

IAU定義の”星座”とは、空にある星々を決められた境界線に沿って区切った領域のことを指します。もともとは目立つ星の集まりを思い思いの順番で結び、人に見えるだとか犬に見えるだとか、その星の並びの特徴から連想した名前を付けたものでした(こういうのをアステリズムといいます)。ところがこれでは、複数の星座にまたがる星や、どこにも属さないためなんて呼んでいいのかわからない星が出てきてしまい、学術上支障が出てきてしまいます。そこでIAU(国際天文学連合)は1922年に全ての星座を領域として、線で引いてただ一つに決めました。これによりすべての星は必ずどこかに所属することになり、あぶれたりダブったりする星はなくなりました。

バイエル符号とは、ヨハン・バイエルが1603年に記した星図「ウラノメトリア」のなかで使っている星の命名方法のことです。星座ごとにギリシア文字のアルファベット(αβγδ)と組み合わせて星の名前にします。例えば、α Lyrae, β Leonisという具合です。基本的に明るさ順という説明がなされますが、これはちょっと注意が必要で、バイエルが感じた明るさ順です。当時は観測技術が未発達で精度が悪く、順番という意味では間違っているものが多数あります。ですが、名前を修正されたりすることはありません。ウラノメトリアに書いてあるものが絶対で、当時の定義から後世変わることがないということを頭に入れておいてください。

最後に、固有運動ですが、一言でいうと星の動きです。皆さん学校では星の位置関係は変わらず動かない(そして動いて見えるのは地球が回っているから)と教わると思いますが、実はほんのちょっとだけ星も独自の運動をしています。とはいえ、大きなものでも一年に1/6度程度で、普通に暮らしていれば気づくことは難しいです。ですが、チリも積もれば、、速いものでは数百年単位で見比べるとわかる程度に動いており、実際固有運動の発見は2000年近く前の星図とその時の星図を見比べて発見されました。

以上は一応詳しく書きましたが、もっと大雑把な理解で全然問題ないです。星はちょっと動いてるよな~とか、星座って普通は星の並びだけどIAUのは領域だったよなぁとか、でもα星とかの名前は変わらないんだよなぁとか、その程度で十分です。

その上で想定した解答の動きは次のようになります。
1. わし座ρを発見するも、違和感を感じる
2. もし仮に星座名と違う所属になる場合はどんな場合か考える
3. 星が端に位置し、境界を超え固有運動で動けば変わる可能性がある
4. 実際に確認するとρが端にある。但し、速度的に隣くらいにしか行けない
5. IAU星座は領域なので、境界線がパズルのように嵌るものが選択肢にあるはずで、嵌る位置に同じ星がある
→④いるか座

もしくは

1,わし座とρを発見する
2,かなり端にあることを認識する
3,この場合本当に絶対にわし座が解答なのか自問し、IAU定義と伝統的定義は違うため、食い違いが生じうることが思いつく
4,領域端にいた星が固有運動で動けば変わりうることを思いつく
5,だとすれば隣の星座に行くはず
6,IAU星座は領域なので、境界線がパズルのように嵌るものが選択肢にあるはずで、あわせてみると同じ所に星がある
→④いるか座

もちろん知識として知っていれば答えられますが、以上はオモイカネ杯出場者なら考えればほとんど入り口には立てると思います

なので、一見課題に見えるものは全てわし座に誘導するためのものです。
・普段は表示されないρの添字を星図にわざわざつけました。
・ρは全画像中一つだけになるようにしました。
・ローはわざとカタカナ表記にしてあります。
・わざわざラテン語名も置いてあります。
(日本語で書こうかと思いましたが、流石に露骨すぎるので辞めました)
・形がわし座とややこしい星座もありません。
・季節だってほとんどバラバラです。
つまり多くの場合わし座は見つけられてρもある。でもこれは考えるためのただの素材です。まだ休んではいけない。

そこで考えるのを辞めずに、さらに先に進む意思のある者だけが、答えにたどり着けます。

最初に得られた答えで満足してしまえば確実に不正解。そして、メタ読みだけだと20%のギャンブル。とはいえ、とても取りやすいところに餌がつるされているのにギャンブルに出るでしょうか…

一方で、考えるのを諦めない人をサポートする工夫は惜しみませんでした。
・考えられるようにわし座をわざわざ選択肢に入れ、一番大きくしました。
・まず描かれないであろうρ星をわし座にも書きました。
・しかも良く見れば線からはみ出してます。
・問題文に違和感を感じるようにまだるっこしい表現にしました。
・さらには、わし座に隣接しているのはいるか座だけです。
・パズルをしやすい様に余計な模様は全部消しました。
・パズル時に紛らわしい形の星座は採用しませんでした。
・そもそも、ほかがバラバラなのに隣接している唯一の星座でなんでマイナーなものが紛れ込んでるのでしょうか?

はたして結果は、、これは推測するしかできませんが、正解した人の分野や、回答に書いている内容を見る限りでは意図している通りに答えてくれている方もいらっしゃるようでした(正答率5/16=31%~33%)

出題意図

最後に、この問題を出題に使った理由ですが、、

「星座は星の並びじゃなくて領域だ」と言われることが多いです。
この手の話をしているときに使うのは大抵はIAU定義の星座ですし、一般民衆はきっと、国際天文学連合っていう偉い人たちの組織が決めたことが絶対なんだろうなぁと思っているわけです。

しかし本当は、IAU定義ではそうなってるというだけで、実際に自然にできた星座たちはみんな星の並びか集まりを星座と読んでいます。本来大元はこっちです。ですが、そんな事を言っても話がややこしくなるため、普段は口を挟みません。

「星座は領域」は基本のお話ですから、理科のお勉強中に相対論的補正を持ち出したり、さんすうで非ユークリッド幾何学の公理とか持ち出したりするようなことは、するべきではないのです。普通は。

ですが、ここなら、、叡智を競い合うレベルの高い人たちが集まるこの場所なら、普段は黙っている本質的な話題をだしてもいいかな、とちょっと思ったんです。星座は領域とは限らないよ、と。国際天文学連合がつい最近定義した星座だけが絶対じゃない、数千年前から人類の営みとともにある、星座と星たちの残り香(バイエル符号)と、その歴史の長さと変化(固有運動と)とをこの問題を通じて感じてもらえるだろうかってね。

そんなわけで、この問題の裏テーマは「人類と星座の歴史」でした。

お楽しみいただけたでしょうか。やっぱり作問はかなり難しいですね。まだまだ改善点が多いなと思っています。もしまた機会があればもっと良い問題が作れるように、頑張りたいと思います。ではまた皆様と相まみえる機会を楽しみにしております。

さっきのなな

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