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【感想】地球星人

2時間遅れの東海道新幹線、その車中で一気に読んでしまった本。読み進めていくにつれて嫌悪感が増していき、駅のホームに捨ててしまおうかとさえ思ってしまった本。決して本棚に並べたくはない本。
それでも、池に投げ込まれた石の波紋が広がっていくように、日を追うごとに地球星人のことを考える時間が増えていく。感想なんて書く気すらなかったけれど、これはひょっとしてとんでもない作品なんじゃないかと思い、キーボードを叩いている今。

倫理観やモラル、マナーなんてものは社会が円滑に回るように、後付けで考えられた思想だ。善も悪もわからない、まっさらな子供の内に、大人の「地球星人」によってそれを教え込まれる。地球星人の正しさから道を外れる人もいるが、大きく逸脱する人は稀だ。仮にそんなはみ出しもの、宇宙人であっても最終的には社会に殺される。宇宙人は地球では異物だから、徹底的に排除される。輪を乱す宇宙人は地球人には危険だから。地球星人の社会はそうやって保たれている。

布団は敷くものだし、人が育てた野菜を盗んではいけないし、親戚と結婚してはいけない。結婚したら子供をつくるのが幸せだし、人を殺してはいけない。地球星人なら当然のことだ。だから作中で宇宙人たちがする行いに嫌悪感をもってしまうのも当然である。作者の狙い通りじゃないか。

ぼくは地球星人として30年以上生きている。おおよそ社会のレールに沿って生きているからこの本にアレルギー反応があった。でももし地球星人として洗脳されきっていない子供がこの本を読んだらどうなる?宇宙人が増えたらどうなる?この本にはそんな想像をさせる怖さがある。

自分のものさしで測れない人は宇宙人に喩えられる。宇宙人が少数派だから、地球星人も笑っていられる。回転寿司で醤油差しにイタズラする宇宙人を地球星人は殺そうとしている。この社会を円滑に回していくにはそうするしかなんだろうと思う。これから起こることに正解も不正解もない。その価値観はきっとあなたのものではない。



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