さくら貝キラキラ
小学生の頃、毎年
夏休みになると
母方の祖父母の家に遊びに行っていた。
小さな離島。
船で約2時間もかかり、
海が荒れることもあり
決まって船酔いした。
苦しいから船に乗るのは嫌でたまらなくても、
海のそばの祖父母の家には行きたかった。
何故なら、夏休みのレジャーはそれだけだったから。
あとは自分で、友達と市民プールに行ったり、ガールスカウト活動でキャンプに参加したり。
父親は教師で、夏休みは、
ほとんど家で
だらだら過ごすのに
どこへも行かない、家族サービスは無しの人だった。自分は出張やら何やらでどこでも行ったから、旅行はめんどくさいと言っていた。
あの、1970年の大阪万博にも連れて行ってはくれなかった。クラスの友達から
「月の石を見たよ！凄かったあ。石よりさ、人が凄かった、ものすごい人でびっくりしたよ」、と何度も聞かされた私は、
父に何度も何度も
大阪に行きたいと頼んでみたが無理だった。
おそらく、今考えると、
教師だから
どこへ行っても人に会い
「 先生！」と声をかけられ、よそ行き顔で接しなければならないからめんどくさいし、プライドが異様に高く
並ぶのは大嫌いで、
プライベートを隠したかった？のかもしれないと推測できる。しかし、当時は子供だったので
「どこにも行かないなんて、ケチだし優しく無い。お母さん かわいそうだな。」と思っていた。
学校へ行けば、とにかく良い子を演じて
テストは100点を取らないと恐ろしいことになる。
家に帰っても、夜、
父が飲んだくれて
同僚やら部下の先生を連れて帰ることも時々あり。
携帯電話など無い時代、連絡もなく突然の夜遅くのお客様、。
私は、母を手伝い、
お客様の話し相手をしながら、冬ならお酒の燗をしたり、。
ある時
酔っ払いの先生は、
「お嬢ちゃん、お手伝いありがとうね。これ、あげる」と、お財布から一万円札を出して渡してくれたことがあった。
当時の一万円は大金だ。
私はびっくりして、いやしかしこんなことも偶にはあるのかと受け取って翌朝。
案の定その先生は、昨夜とはうって変わって小さくなり、、
「お嬢ちゃん、あのお金が無いとタクシーにも乗れないから返してください。
お父さんとお母さんには内緒ね」と言う。
母には、
「いやあ、昨日のことは何も憶えてないのですよ」と言っていたのに。
そんな時いつも私は、
「ああ、大人はみんな嘘つきでバカだな。
こんな家、早く飛び出そう。とにかく勉強して
なるべく遠くの学校へ行かなくちゃ。
お母さんには悪いけど」と考えていた。
そんな日々の中での
唯一の楽しい旅が
海辺の祖父母宅への帰省だったのだ。
母と私は、
7月末の
ほんの三、四日の
夏休み旅行へと
いそいそと出かけていたと憶う。
祖父は、おおらかで大柄で
博識で優しい人。
夜に自分の小さな船で1人 イカ釣りに出て、
翌朝はイカのお刺身が山盛りのこともあった。
お皿の上のイカ🦑は、水イカ？
ピカピカキラキラ光って
動いていた！食べると口に くっついてくる
甘くてプリプリの
イカ刺しの味が懐かしい。
祖父は畑で野菜や果物も育てていて、もぎたてのトマト🍅の味を教えてくれた。
その小さな平家の
すぐ向こうは、
海だった。
船着場にはフナムシがたくさんいて気持ちが悪いし、私は潮のニオイが苦手。
そしてその家のお風呂は
五右衛門風呂で、入るのが難しかった。
それでも、広い広い青空の下、
白い砂浜や 海で遊んで。
夜眠る時には、
蚊帳の中の布団に入って、
波の音を聴きながら
「地球って凄いなあ」と思った。
空も海もどこまでも蒼く、
泣きたいほど美しかった。
祖父母の家では
毎日、早めのお昼寝を少し してから
海で泳ぐのがお決まりで。それを守らないと祖母から叱られた。たしか
朝早くや夕方は、
海に呼ばれて溺れるからと聞いていたような気がする。
泳ぐ、と言っても
私は平泳ぎは不得意だったから、
海で泳ぐのは難しかった。もっぱら浮き輪で波に揺られていたいのだが、
祖母から
「平泳ぎ、何回教えても下手くそねえ」
と言われて私は悲しく、
母は、ただ笑っていた。
母は日焼けするからと
海には入らなかった。確かに
色白で美人さんの母。
私は、親戚中から
「あんたはお父さんにそっくりね、お母さんに似ればよかっのにもったいない」と言われていた。
そんな私の
海辺の家での1番の思い出は、
朝早くの散歩。
空の色が灰色から薄い水色に変わり、
さくら色がさして
青に変わっていくさまが好きだった。空が青くなると海も青くなる。
そうして、
白い砂浜を歩いていると、足元に
さくら色の キラキラを見つけた。しゃがみ込んで目をこらし、
ここにも、あ！
こっちにも、と夢中で拾っては
さくら貝を母に渡した。
薄い さくら色の小さな貝や、
濃いピンクの大きいの、細長い紅色の貝もあって夢中で拾う。割れたのや 穴のあいたのも何だか綺麗だから捨てられない。
薄くって、
握りしめると割れてしまうから、
そっと、ワンピースのポケットに入れていたっけな。
短い旅行は終わり、
自宅に帰って
夏休みの作品を作る時には、
白い綿花をお菓子の箱や缶に敷いて、その上にそっと桜貝を置いていたような、。
そんな時 私はいつも
「探せば
こんなに綺麗な貝がらが見つかるのだから、
頑張って生きていれば、この先きっと私は幸せになれる。
なれ！きっとなる！」
と、意味も無く ただ念じていた。
あの海の向こうには、
広くて
素晴らしい世界があり、
私はきっと自由に生きて、幸せになるんだと
念じるしかなかったのだろうか。
当時のさくら貝の写真は無いので
Yahooで探すと 、
桜貝は少なくなっていて、でも
鎌倉ではまだ見つかるようだ。
こちらのページの写真を
見出し画像にお借りしました。ありがとうございます。
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あの頃の私の宝物
さくら貝は、
たくさん集めたのに
今は無い。
どこへ？どうしたのか？
思い出せない。
でも、私の心の中には
今も あの
美しいさくら貝がある。
キラキラの
さくら色は
幸せの色。
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