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時を経てふたたび

 今年の4月下旬~5月末まで、ジャズピアニストの小曽根 真さんの自宅からのライブ配信、「Welcome to Our Livingroom」を視聴していた。

 このLivingroomで様々なご縁ができ、それはとても素敵なことだったが、私が最も素敵だと思ったご縁は、小曽根さんご本人とのものだった。

 私が小曽根さんの名前を聞き、そのお姿を拝見したのはまだ私が20代、音大を卒業してとある大手音楽教室の講師をしていた頃の話だ。
その大手音楽教室は、年に1回講師の大きな大会のようなものがあった。
教員への夢破れ、とにかく仕事を、ということで請われて中途採用で講師になったものの、もともと上から押し付けられるのが大嫌いな気質。自分で創意工夫したい、そもそも大企業に合わない体質のまま閉塞感を抱きながら講師をしていた頃だった。

 まだ小曽根さんも若く、尖っていたころだと思う。
その日、私は前夜に先輩講師や所属先の上司に半ば強制されて飲まされた酒が抜けない二日酔い状態という最悪の体調で、「オゾネマコト」という名前を聞いた。
歯に衣着せぬ毒舌にも取れる言動に
「この人、怖い」
と思った。だが、演奏は素晴らしかった。

 クラシックが専門の私には、ジャズはよくわかんない、大人にならないと聞いちゃいけないって勝手な印象を持つ音楽だった。
それから私もいろいろあって会社を退職して別の仕事をし、縁あって結婚し子育てに入って、いつしか小曽根さんどころか「音楽を聴く」ことすら忘れかけていた。
 友人の音楽ライター、山本美芽さんに教えてもらって聴き始めたライブ配信。仕事の時間によっては、半分しか聴けない日もあったが、ほぼ3分の2以上のライブ配信を聴きながら、私はふたたびジャズにはまっていくのを感じた。そしてなぜ彼が、クラシックの大御所にも認められているのかが分かった。

 自分の好きな音楽、自分がやりたい音楽が分からない頃に小曽根さんの演奏を聴いていたら、ひょっとしたらかえって混乱したのかもしれない。
 今だからこそ心に響いたのかもしれない。そんなふうに思える。

 Livingroomは、真さんのパートナーである女優の神野三鈴さんのプロデュース力も大きいと思う。知らないで見ていた、三鈴さんの出ていたドラマ。学生時代一瞬だけ演劇に触れたことのある私は、彼女との縁も強く感じた。

 つまり言いたいのは、ありがとうってこと。
 出会えてよかったってこと。

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