見出し画像

はがせる壁

本日も、本業の左官屋さんのお話を書こうと思います。
壁は頑丈であればあるほど良い。というのも一つの価値観ですが
違う側面からのお話をしようと思います。


セメント最強説

最近の左官屋さんのお仕事のメインはセメントを扱うことが
大半になりました。
セメントとはいわゆるセメントになりますw
砂と水を加えるとカチカチになるあれですね。
コンクリート。ビル。地面。壁。ダム。高速道路。などなど
セメントの誕生で今日の文明があると言ってもいいでしょう。

セメントは主流の建築資材

凄くカチカチになります。しかもものすごく早く固まる。
セメントに水を加えるとおおよそ半日でそこそこかたまり、
一日で結構カチコチになります。
セメントの誕生は生産力を爆上げした発明品だと思います。
と言いましても、セメントが主流の世の中では当たり前すぎて
「なんのこっちゃ?」となるのかもしれません。

例えば、土壁。こいつは乾いてくれるまで硬くはならない。
湿度が高いところでは根気よく乾かさないと固くならないのですね。
なので昔の住宅は建てる時期が決まっていたと言われています。
春先に土壁塗って秋ごろから中塗り~仕上げと。
そんな悠長なこと言ってらんないよwというのが現代の産業のスピードなわけです。
そんなものでセメントは画期的な素材なわけですね。雨にも強いですしね。
そんなこんなで「固く頑丈な壁」がもてはやされている時代になったというのが私の見解です。

固く丈夫な事が裏目にでることもある。

土で作る土蔵

ということでなんでもかんでもセメントで!みたいなことになりつつありますが、最近施工した土の蔵(土蔵)を修理したときに、土の上にセメントを塗ってあったのですが、セメントの部分で剥がれ落ちてしまってました。
原因は強度の違いがある事と、土は呼吸するので湿気がセメントと土の境界のところで溜まって土の表面が弱くなったのが起因しているかと。
また、昔の土壁の上に白い漆喰を塗ってあっても同様なことが起こっている
事もあります。
以前参加した伝統工法の講習会で学んだのは、土の強度と漆喰の主成分、石灰の強度がやはり大きく乖離しているのでこのような現象が起きる。
なので、漆喰の強度を土の強度に近づけるために砂を混ぜて強度を落とす。
だそうです。なるほど。ようはバランスが大事なんですね。

そうなると、丈夫な壁が良い壁なのか?という疑問が。

そうなんですよね。現代の建築のデザインは軒があまり無いので
外壁に雨がじゃんじゃん当たるようになった。
そうなるとセメントで作る外壁は有効かなと思います。
ただ、内装の壁が頑丈であることのメリットってなんなんだろう?
と考えます。
小さいお子さんが傷にしてしまうから。とか、
家具をぶつけて。とかとかとか。
どうも、住む人の事よりも、家の方に気遣いが傾いている気がしますw
賃貸物件ですとか、公共の場。例えばお店とか人通りの多いところ
などは、強度の高い壁が求められますが(最近そうはいっても店舗で土壁を使うところも結構あります)

土壁で出来たスタンドカフェ

そうでなかったら、柔らかい素材で出来た壁でもいいのではないか?
というのが、左官屋としてのマーケティング的な主張ですwwww
住む人を優しく包みこむ素材。やわらかい素材。という視点で
考えてもいいんじゃないかな?
和む空間、安らぐ空間。というコンセプトでは土壁や珪藻土などは
有効な素材だと思います。

木と土の住宅は柔らかい空間

柔らかい素材のデメリット

そりゃすぐ傷がつきますし、気をつけないといけないですね。
ただ、それはどんな素材でも同じなのではないか?
たとえクロスであったり、木材であったり、鉄板であったり
人工大理石であったり、傷の大小や深さに違いはあれど、
傷をつけない暮らし方が大事なのではないかな?そのように
思います。
昔の住宅は土と紙と木というとても華奢な素材で構成されていました。
そこで立ち振る舞いを身に付けたそうです。
現代にその価値観を強要するのはどうかと思いますがw
ただ、その気付かいは大切だなと思います。
私も、お茶を学んでそういう感性を学んだりしてます。
ただ、実践は子どもたちと格闘してドッタンバッタンしている
我が家は漆喰で出来ておりますw

はがすことを前提にする壁

住宅も年数が経って、リフォーム・リノベーションするときが
来ます。その時に、今塗ってある壁が「はがせる」
というのも結構重要な気がします。
例えば、左官材で結構メジャーになった「珪藻土」
数ある商品のなかで、霧吹きで水を加えるとはがせるものもあります。
昔流行りました、「じゅらくかべ」「京壁」は
水ではがすことが出来ますし、土壁もはがせます。
また、土壁で下地を作って漆喰で仕上げた壁。
これも容易に表面だけはがすことが出来ます。
今、お寺さんの改修工事していますが、次回の改修工事も考慮して
土壁で下地を再利用して作成して漆喰で仕上げています。

土壁+漆喰は、はがすの楽ちん

これも現代の工法で施工すると頑丈な壁にはなるのですが、次回塗り替えるときは樹脂系の物を使わないと難しいなぁと。
そうなると、漆喰の呼吸する機能を損ねてしまうので
もったいないと感じます。

「しなやかさ」最強説を私は主張したい!

私的には、「しなやなさ」にとても憧れがありますし
日本的な発想だなと感じます。
強さとやさしさを兼ね備えた日本の建築は
西洋の思想とは違う、民族性も反映されていて
美しいなぁと思うのです。
地震に対する考え方も、傾くことがあっても倒壊しない作り方。
とか、火災を起こしても隣家に移さない工夫などなどなど。
きめ細やかで機能的て美しさも兼ね備えていたと思います。

どうか、現代の住宅にもこの
しなやかさを取り入れた住宅を提案できるよう
私もしなやかに取り組んでいきたいとおもいます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?