電力需給ひっ迫から考える電力事業制度の課題の一考察

電力の需給はひっ迫している。SNS等では、電力自由化の制度設計に問題があるという指摘もある。しかし、具体的にどこに問題があるのか指摘したものが無い。現在の電力事業制度を見直して、どこに課題があるのかを考察した。これは、筆者の一個人の見解であり、一つの見方でしかないことに留意いただきたい。

供給能力確保義務

電気事業法には以下の条文がある。

(供給能力の確保)
第二条の十二 小売電気事業者は、正当な理由がある場合を除き、その小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保しなければならない。
2 経済産業大臣は、小売電気事業者がその小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保していないため、電気の使用者の利益を阻害し、又は阻害するおそれがあると認めるときは、小売電気事業者に対し、当該電気の需要に応ずるために必要な供給能力の確保その他の必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

小売電気事業者は需要に合わせた供給能力を確保することが義務付けられている。これは、供給能力確保義務とも呼ばれている。

具体的にどうすれば、供給能力確保義務を満たすことになるのかは、以下のリンク先の資料が参考になる。

添付資料の"旧一般電気事業者(小売部門)の予備力確保の在り方について(2018年10月31日改定)"のp7に供給能力確保義務の明確化として、以下が記載されている。

1)スポット市場入札時点及び一時間前市場開場時点において、実需給時点までの需給変動を想定して必要な供給力(事業者によって異なるが、従来はスポット入札時点で自社想定需要の5%、一時間前市場開場時点で自社想定需要の3%など21,22)23を自社想定需要に上積みする形で確保

つまり、スポット市場入札時点(前日10時)に、自社想定需要×105%の供給能力を確保するということである。そして、本資料のタイトルは旧一般電気事業者(小売部門)となっているが、注釈20のとおり、新電力にも適用される。

20 当該明確化の内容は、ガイドラインが適用される旧一般電気事業者(小売部門)のみならず小売電気事業者に対し共通に適用されるものである。

現状の供給能力の確保状況

実際にどの程度の供給能力を確保しているかは、公開されていない。このガイドラインに従い、最低どの程度の供給能力が確保されているのかを推定する。

新電力の供給力確保状況

まず、新電力の確保状況を考える。以下のリンク先の"資料5 自主的取組・競争状態のモニタリング報告(令和2年7月~9月期)"を参照する。

p42より、新電力のスポット市場からの実質買越し量は約40%である。スポット市場からの調達ということは、前日10時までに供給力を確保できていないということと同じである。つまり、新電力はスポット入札(前日10時)までに、自社需要の60%しか確保していないといえる。

新電力のシェアは、p46より、総需要の約19%である。よって、新電力は総需要のうち、11.4%(=0.6×0.19)の供給力を確保している。

旧一電の供給力確保状況

旧一電は、ガイドラインに従い、自社需要の105%を確保しているとする。総需要の81%が旧一電の需要であるので、総需要のうち85%(=0.81×1.05)の供給力を確保している。

送配電事業者の供給力確保状況

送配電事業者は調整力公募により電源Iとして、最⼤3⽇平均電⼒ × 7%確保している。(以下のリンク先資料参照)

よって、総需要の7%を確保していると考えられる。

全体の供給力確保状況

これまでに試算した情報を整理すると次のようになる。

新電力:総需要の11.4%

旧一電:総需要の85%

送配電:総需要の7%

合計:総需要の103.4%

よって、供給力は、総需要の103.4%しか確保されていないこととなる。使用率は96.7%(=1÷1.034)であり、スポット入札時点で、予備率が3.2%しかなく、需給がひっ迫してもおかしくはないといえる。

また、新電力と旧一電の供給力を合計すると、総需要の96.4%であり、総需要を満たすだけの供給力が市場に投入されないこととなる。

まとめ

現状の新電力のシェアなどから、供給力の確保状況を推定すると、需給がひっ迫してもおかしくはない状況であることが分かった。

もしすべての小売電気事業者がガイドラインに従い、自社需要の105%の供給能力を確保していれば、送配電の電源Iと合わせて、総需要の112%の供給力があり、使用率は89%で、予備率10%以上を確保できていた。

現在の需給ひっ迫の状況についての分析は、監視委員会からの報告が待たれるところではあるが、現状の電力事業制度の運用にも問題があったのではないかと考えられる。

最後になりましたが、この需給がひっ迫した中で、安定供給のために尽力されている電気事業者の皆様に感謝いたします。私自身は何もできませんが、少しでも節電に協力していきます。

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