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俺はこのクソみたいな人生に中指を立てる(中編)

**前回のあらすじ

同じバイト先のYとなんとなく良い感じの雰囲気になってきた﨑原。そしてついに一緒にラーメンを食べに行く約束をするところまで漕ぎつけた。場所は赤羽。果たしてどうなるのか...**


そこに脈は通っているのか

緊張のせいか、遅刻常習犯であるのにその日は定刻5分前に集合場所に着いた。Yは大学の授業と電車の関係で20分ほど遅れるらしい。とはいえ遅刻常習犯である自分にしてみればその程度は誤差だし、むしろ遅刻連絡が来たことによって「Yは今日来てくれる」ということが確定した安心の方が大きかった。
赤羽の街は今日も賑やかだ。仕事から解放され息抜きのビールを飲みに行くのかそのまま帰宅するのか、早歩きをするサラリーマンたち。「タピオカドリンク」(もはやアクセサリーと化している飲み物)を片手に、広がって歩く高校生たち。派手なコスプレで看板を持ち駅前をウロウロするキャッチ。現代の僕たちを縛る「時間」の概念から解放されてしまっているかもしれないホームレス......
そんな彼らに囲まれながら、﨑原は時間をつぶすため、そして心を落ち着けるために動画サイトで「ダイヤのA actⅡ」を柱にもたれつつ視聴する。まだその週の放送回を見てなかったので、Yが遅刻してくれてありがたいなとも思いながら見ていた。と、見終わったころにYが現れた。

遅刻の謝罪もそこそこに、お互いお腹が空いていたので一路ラーメン屋さんへ向かう。訪ねたのは「麺処 夏海」。味やサービスはもちろん、店主さんとは顔見知りだから、なんか「業界に通じてる感」も出そうだな、とか汚い考えも混じった動機からの選店。
店主さんは女性と入店してきた﨑原を見て、雰囲気からすべてを察してくれたのか、いつものように話しかけることはなく、しかし紙エプロンを黙って与えてくれたり味玉をサービスしてくれたり、ますますこの店が好きになってしまった。ラーメンもとても美味しく、Yも満足してくれたようでとりあえず第一関門は突破した。
そのあとは近くにあるスポーツバーに行った。ざわざわした雰囲気の中、初めてYと対面でまともな会話をした。互いの価値観や第一印象のこと、普段の過ごし方...LINEでも似たような会話はしていたが、互いの息遣いや間の取り方、イントネーションなどが加わった分会話に「脈が通っている」気がした。そして「やはりいくら電子技術が発達しても、空気を共有している状況下で行われるリアルな会話独特の空間はなかなか作れないだろうな」とも思った。楽しく会話できた気はしたので、第二関門もなんとか突破したと言えるだろう。
バーを出た僕らはYの提案で赤羽周辺を散歩することにした。高校生の時Yはよくこの辺を散歩していたそうで、そのコースをなぞることにした。「散歩が好き」と言うYを見てまた気持ちが高まった。晩春~初夏にかけての涼しげな夜風を浴びながらおしゃべりをし、アイスを食べながら歩いたあの瞬間、自分の気持ちが固まったような気がした。そのせいで急に帰りたくなった。もう平常心ではいられない。散歩の終わり際は焦りを少し見せてしまったかもしれない。
とかなんとかありつつ散歩コースを終え、駅へと向かった。何となくそうしたほうが良いと思って駅内広告の前でツーショット写真を撮り、ボヤっと「次の約束的なやつ」をしてその日は解散となった。

帰路につきながらその日の反省をしていて、「とりあえずは大丈夫、ちゃんとした約束はLINEでやろう。とりあえず初めてのおでかけは合格ラインを越えた。」と結論付け、その日の自分をほめた。次の課題は「次の約束」をどうするか、そして「いつ告白をしようか」ということである。また「Yとの間に脈は通っているのか」、たしかに今日の感触は上々。しかし実情は?途端にこれまでのトラウマが胸を締め付ける。考えれば考えるほど自分の現状がわからなくなってきた。
と、頭の中がグルグルしてきたところでその日は寝た。おやすみ、﨑原。

**次回予告

初めてのおでかけはなんとか成功を収めた。そして自分の気持ちが固まったのを感じた﨑原は、この「旅」に終止符を打つための施策を考え始める。「次はどこに行こうか」「何回目のおでかけで告白しようか」「告白の場所は?タイミングは?」
山ほどある課題を解決し、﨑原は無事「未来」を手にすることができるのか…次回、クライマックス。**

#日記 #長編 #次回クライマックス

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