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ブッダ・タングの懐柔

 ブッダ・バッラーの弟弟子、ブッダ・タングは頑なだった。ブッダ・バッラーとともに修行をした彼は、開眼した後の兄弟子ブッダ・バッラーの教えを最上のものと考えた。ブッダバッラーの兄弟弟子の中でも理論派で知られ、その弁舌を聞いて納得しないものはないとまで言われた。ただその理論に頼るあまり他の教えはすべて排除しようとする。ブッダ・バッラーのような懐の広さは持ち合わせていなかった。
 ブッダ・バッラーの復活ののち平和が訪れたこの国には、ありとあらゆる国から人が集まり、繁栄を極めていた。異国人が入りいろいろな宗教が広められ始めると、ブッダ・タングはいち早く異教徒排除を唱え、ブッダ・バッラー教の守護を訴えた。

「この国にクリスマスなど要らぬ。商業主義は民を堕落させるだけ。
このような催しを許すべきではない!」

それに対しブッダ・バッラーは、

「タングよ!何をそのように心を閉ざそうとする?よいではないか。    かのキリストの教えも我が教えも、民の心安らかなることを       望んでおるのだ。家族、友らが仲良く集い、楽しく過ごすことの     何がいけないというのか?」

「うわべだけの平穏など何の意味がありましょう、バッラー!
我々がたどり着いた心の平安は、苦しき修行の末にあるのです。
民は間違った道へと導かれているのです。今こそ我らの戒律を民にも課し、真の心の平安へと導かなければなりません。」

「そのようなことをせずとも、みんなわかっておるのだ。
今この時だけ目を瞑っておればよい。終わればまた元の生活へと      戻っていくのだ。寛容も心の平安には欠かせないのではなかったかのう? タングよ。」

「あなたからそのような言葉を聞こうとは・・・ 
私は私の道を求めます。」

そういうとタングはバッラーの元を離れ、山に籠ってしまった。

 彼の極端にストイックな考え方を心配したバッラーは、高弟ピー・メンタゥンを彼のもとへ送った。彼は見た目の青臭さとは真逆、接するものの心を和らげ、またその新たな魅力を引き出す天才であった。彼は異宗の大御所サル・ディーニャをも懐柔したほどのつわものだ。復活後拡大を広げるブッダ・バッラーをよく思わないサル・ディーニャは、ことあるごとにバッラーに反発し、聖戦も辞さないと豪語していた。争いを好まないバッラーのため、ピー・メンタゥンは一肌脱ごうと、ある夏の日サル・ディーニャのもとへ、トマ・ティーニャ、ペップ・ピーノらと赴むいた。まず彼はサル・ディーニャの心を開くため、プールサイドで甲羅干しする彼の隣にいきなり寝そべり、特段難しい話をするわけでもなく世間話をし、サル・ディーニャが彼を受け入れたところでトマとペップを呼び夏の宴を盛り上げ、懐柔に成功したのだった。
今回はバッラーの弟弟子。すべて手の内は知れている。同じ方法は通用しない。ピーはまず、タングの怒りはもっともだと同調し、バッラーを批判した。そして手土産に持ってきたタングの好きな酒を飲ませとにかく酔わせた。いい加減酔ったところでキレイどころのスボーラ、マサンを呼びタングにはべらせた。タングは実直な性格だが、意外にも色仕掛けにもろかった。スボーラとマサンの体がタングにまとわりつくと、思考は停止。もういつものタングではなかった。さらにピーはインドの媚薬を盛り、快楽の淵へといざなった。かつてここまで乱れたことのないタング・・・ 一夜が明け、正気に返ったタングに、ピー・メンタゥンは聞いた。

「たまには羽目を外すのもよいでしょう?
 禁欲だけでは、民はついてこれませぬ。
 バッラー様のお気持ちをお汲みくださいませ!」

自らの醜態を見られた手前、タングはうなずくしかなかった・・・

             

                       お終い


登場人物

ブッダ・バッラー:豚バラ                      ブッダ・タング:豚タン                        ピー・メンタゥン:ピーマン                     サル・ディ―ニャ:鰯                        トマ・ティ―ニャ:トマト                      ペップ・ピーノ:胡瓜                         スボーラ:玉ねぎ                          マサン:林檎

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