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第27回 もう、不法占拠しかない(デンマーク)


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冬の月が冴える夜。

闇にまぎれて、どこからともなく現れた女たち4人。屋敷に侵入し、懐中電灯で足元を照らしながら階段を一歩一歩上っていった。

門の横に、また10人。先発隊の後を追って、階段を上った。10分経過すると、また10人、そしてまた10人…。

全員が大部屋に入ったことを確認し、いっせいに手元の懐中電灯をつけた。パアーッと室内全体がライトアップされた。

「やったぁ、この家は私たちのものだ!」

1979年11月2日深夜、「ダナーの家」占拠の瞬間だった。

コペンハーゲンにある女性のシェルター「ダナーの家」。それは19世紀に、王妃ダナーが建てた邸宅だった。

ダナーは国王に見初められて結婚したものの、家柄が貧しい上、前の恋人との間に子を持つ未婚の母でもあったため、生涯、正式の王妃にしてもらえなかった。国王の死後、莫大な遺産を譲り受け、その一つを王妃は「貧しい女たちの駆け込み施設に」と遺言に残した。しかし、時は流れ、遺言は忘れられ、ダナーの家は管理費を賄えずに朽ち果てていった。

これに目をつけたのが女性解放運動団体「レッド・ストッキング」。

当時、社会問題になりかけていたDV被害者の避難所として、この家をよみがえらせたいと考えた。管理していた財団に話を持ち込んだが、不動産会社への売却が決まっていて、話し合いは決裂。

「もう、不法占拠しかない!」

こうして月夜の侵入となった。マスコミが大々的に報道して、不動産会社も軟化し、「それほど欲しいなら売ってもいいですよ」と言い出した。

ここから、不法占拠→募金活動→屋敷の取得→改造工事→女性シェルター創設、とトントン拍子に進み、全国民をまきこんだ一大社会運動劇としてデンマーク女性解放史の1ページを飾った。

今回のポスターは、80年代初頭の募金活動のもの。このポスターで280万クローネ、約1億2000万円という大金が集まって、屋敷を手に入れることができた。改造工事も女性だけでやってのけた。

19世紀、20世紀と高揚していった女たちの変革を求めるエネルギーを、みごとに結実させた「ダナーの家」。21世紀の今は、総合女性支援センターとして活用されている。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2015年7月10日号)

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