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第34回 赤いバラの闘い(アムネスティ)


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20年以上前のことだが、マレーシア・クアラルンプールで、通訳の女性に「あなたの国が抱えている最大の女性問題はなんですか」と尋ねてみた。

すると声をひそめ、絶対匿名を条件に「女性器切除の慣習です」。

マレーシアはマレー系、中国系、インド系の主要3民族のほか、たくさんの民族が混じる多民族国家だが、国教はイスラム教だ。マレー系女性は、宗教・文化的慣習から幼い頃、ほぼ全員が性器の一部を切除されるのだという。通訳は中国系マレーシア人だった。

「でも、あなたは仏教徒ですからしなくていいんですよね」

「実は姉はマレー系男性と結婚したんですが、彼は性器を切除してない女性とは結婚できないと言い張るので、ついに姉は女性器切除をされました。姉のような例はたくさんあるのに、誰にも話せないので、社会問題にならないのです」

女性器切除(FGM)は、アフリカの国々の村で行なわれている伝統的儀式だとは聞いていたが、高層ビルが立ち並ぶアジアの大都市でも行われていると聞いて、怒りがこみあげた。

多くの場合、カミソリやガラスの破片で麻酔なしで切りとり、縫い合わせる。激痛と出血のショックで精神に障害をきたしたり、排尿障害、感染症、貧血、腎障害、性交時の激痛、難産、月経困難症…死に至ることもある。生後1週間から初潮を迎える頃の15歳までに行われる。

蛮行の理由だが、結婚前の女性は純潔でなくてはならない、よって性的快感を得る女性器の一部は切除しなければならない、という偏見に基づいている。女性器切除をしないと女性は結婚できない、という迷信もあるという。

ユニセフ、WHO、国連人口基金なども根絶に乗り出した。アフリカでは禁止法を制定する国も出てきた。しかし、世界30カ国で2億人以上の少女・女性が犠牲になっており、今も毎年、約300万人が危機に瀕している(2016年、WHO)。

このポスターは、FGM根絶の世界的キャンペーンを展開するアムネスティのために2009年、スウェーデンのデザイン会社「ヴォロンテール」が無料で提供を申し出た。

ひとつ間違えば扇情的に陥りかねない、このタブー中のタブーをどうすれば目を引く広告にできるか。デザイナー2人は、真っ赤なバラの花びらを縫い合わせて、見事な芸術作品にしあげた。

白い小さな字いわく

「これは明らかな人権侵害である。いかなる政府もこの犯罪に目をつむってはならない。少女・女性への暴力を許さない、このたたかいに力を」

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2016年4月10日号)

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