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第24回 強制結婚の恐怖を知ってるか!(イギリス)


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その小さな墓石には「バナーズ・マームード、1985年12月16日生~2006年1月24日没」とあった。僅か21年の生涯は、ロンドンの警察や検察庁の先入観を打ち砕いた。

イラクのクルド地区生まれのバナーズの一家は、1995年、サダム・フセインの弾圧を逃れてロンドンに亡命した。バナーズは10歳の物静かな少女だった。

17歳のとき、父親によって同じクルド系の男性と強制結婚させられたが、暴行と強姦に耐えられず何度か家出をしては連れ戻された。何回かの家出の末に恋人ができた。

2年前、バナーズが警察署で供述している録画を含むドキュメンタリー映画『バナーズ』を見る機会があった。

尾行されているとわかったバナーズが警察に駆け込む。痩せ細った顔面蒼白の彼女が、小さなメモ用紙を手に、警察官に話し始める。

「彼は私を強姦し、髪の毛をつかんで引きずり回しました。唇や耳から血が吹き出し、私の左手首の骨はねじ曲げられました」

「私は追われています。私の身に何か起こったら、犯人は彼らです」

しかしロンドン警察は、強制結婚や名誉殺人の怖さが理解できなかった。彼女が行方不明になってから、やっと捜索が始まった。だが、時すでに遅し。ある家の裏庭に埋められたスーツケースの中から、強姦・絞殺されたバナーズが出てきた。

離婚は一家の恥辱だとする因習で始末されたのだ。父親と伯父が逮捕された。しかし共犯者たちは国外逃亡。捜査の手はイラクにまで伸びて、4年後に全員が逮捕された。

事件は、このポスターの作成元「イムカーン」を動かした。

イムカーンとは「選択」という意味のウルドゥー語で、90年代末にロンドンに設立された。「正義」と「自由」と「平等」をめざす黒人フェミニスト組織だ。「黒人」の概念は広く、英国に暮らすアフリカ人、アフリカ系カリブ人、アフリカ系英国人、南アジア人、東南アジア人、クルド人の女性が含まれる。「強制結婚」「性器切除」「名誉殺人」を撲滅するために、相談、自己啓発、駆け込み施設運営、調査、研修、政策提言を行なってきた。

イムカーンなどの運動によって2008年「強制結婚に関する法」が施行された。強制結婚させるために娘を国外へ連れ出す親に対して、英国政府が娘を英国に戻す命令を出すことが可能となった。

2010年に出された命令は149件。被害者の半数近くが17歳以下だった。また警察官には、強制結婚や名誉殺人についてイムカーンの研修を受けることが義務づけられた。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2015年4月10日号)


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