六甲ビールで多額の追徴課税 なぜ起こったのか考えてみる(修正版)

9/26 発酵後に加えられる原料に関する法律に関して重大な間違いがございました。再度法律文を読み直し訂正を行いました。訂正以前に読んでいただいた方には誤った情報を伝えてしまったことになりまして申し訳ありません。

初回なのになかなか重いテーマになってしまいましたがタイムリーなので。

神戸の有名クラフトビール「六甲ビール」を作っている「アイエヌインターナショナル」が多額の追徴課税を受けた。(詳しくは朝日新聞デジタルで記事が無料で読めるので一読してもらうといいかもしれない)

概要をざっとさらうと、2020年ごろから、六甲ビールがコンビニ向け等に出荷していた缶製品で缶詰め時に品質保全のため砂糖を添加していた。これにより本来この製品は酒税法上「発泡酒」となるところ、「ビール」であると申告し小規模ビール醸造者向けの酒税の減免処置を受けていた。これが税務調査により発覚し追徴課税となった。ということである。

まず誤解してほしくないのは税務調査についてだが、酒造業では、いわゆる税務調査のように何か問題がある、あるいは疑惑があるから税務調査が入るというものではない。酒造業では数年おき(大抵3~5年)に税務調査が入るものなのである。なので今回の件も通常の定期的な税務調査の中で見つかったものであると思われる。

ここからが本題だが、六甲ビールは税金をごまかす意図があったのかどうかだ。これについて僕はその意図はなかったと考えている。むしろ単純な勘違い、というか酒税法の解釈、読み取り間違いに過ぎないと思う。その理由について説明していきたいと思う。

まず、なぜ「ビール」ではなく「発泡酒」になるかについて説明していきたいと思う。一部の例外を除いて、完成(製成)したビールにそのほかの原料を加えることはできず、何かを加えた場合は発泡酒となる。というルールがある。この時のビールの完成(製成)とは主発酵(アルコール発酵)が終わった瞬間を指している。

六甲ビールはこのルールを勘違いをしてしまったと考えられる。では一部の例外とは何なのか、これは一度完成(製成)したビールにホップ、果実等を加え再度発酵させた場合はこれもビールとするといったルールである。わかりやすく言うと、一度ビールを作った後に、果物や果汁、ホップなどを加えて、そのあとに一定のアルコールが増えれば、あとから原料を加えているけどビールとして判断してあげるよということである。
これはドライホップという完成したビールにホップを加える醸造法や、フルーツエールなどをビールとするためのルールである。

六甲ビールはこの一部の例外の際に添加する原料に関して勘違いをしてしまったことが考えられる。六甲ビールは、コンビニ等のため缶ビールを常温で流通させるために砂糖(糖類)を添加していたようである。これは常温流通のため、缶内で微量に発酵を進める事で溶存酸素をなくし常温流通できるようにする目的で砂糖(糖類)を添加していたのではないかと考えられる。ビールに添加できる原料としては砂糖を含む含糖質物が認められている。では砂糖の添加は問題ないように見えるが、この含糖質物に当てはまらない糖を使用してしまった可能性がある。含糖質物とは砂糖や糖蜜、蜂蜜などの糖分とそのほかのものが混ざったもので、その糖分を主に利用されるものを言う。そのため一般的な砂糖を使っていれば問題はないはずだが一般的な砂糖ではないものを使用していた可能性がある。ではそれは何か、考えられるものの一つとしては廃糖蜜がある。廃糖蜜とは砂糖を作る際に結晶化せずに残る糖液で、廃とはついているものの製菓材料や原料アルコール材料にもなる立派な糖である。廃糖蜜には40%~60%の糖分が含まれる、同時にミネラルを含み、味としては黒糖のような糖蜜である。味が多少あるとはいえコストが安く、缶内発酵に必要な量は少量のため問題がないと判断した可能性はある。しかし、廃糖蜜成分の大半は糖分ではあるものの、そのほかの成分も多く含み、黒糖様の味を持つため含糖質物に当てはまらない糖と判断された可能性がある。実際に黒糖を使用しているビールは発泡酒となっており、黒糖は含糖質物に当てはまらない糖と判断されている可能性が高い。となれば廃糖蜜も同様の判断となっても疑問はない。廃糖蜜でなくとも精製度の低い糖などを使用しそれが含糖質物と認められなかったために発泡酒となったことは十分に考えられる。

もう一つの可能性としては完成したビールを常温で流通させるため、加熱処理などを行うことで冷蔵流通品と味が異なってしまったため、調味のために少量の砂糖を加えた可能性である。これは例外関わらず完成したビールに原料を加えているので発泡酒となる。(ただ、さすがに20年以上ビールを作ってきたメーカーがこんな基本的なミスはしないと思うのでこの可能性は考えにくい)
追記、六甲ビールでは非加熱でビールを詰めているということなのでこちらの可能性はほぼない。

どちらにしても完成したビールに砂糖を加えたことが原因であり醸造の段階で砂糖を添加しておけばよかったじゃないかということだが、醸造前に砂糖を加えるというのはそう単純な話ではない。発酵前に砂糖を加えるということは当然アルコールだけでなく香味も変わるだけでなく、缶内発酵を行う場合でも税務上の処理の違いが生まれる、つまりその仕込みは丸々缶ビール用に使用しなくてはならないということになる。缶ビールには当然賞味期限があり、一回に大量に作ったとしても売れなければ廃棄になってしまう。中小のブルワリーでそのリスクはなかなか取れないのが現実だろう。であれば、通常通り仕込みを行い、一部は生樽として、一部は冷蔵流通瓶ビールとして、一部の缶ビールにする分だけ後から再発酵させ常温流通にするほうが現実的である。そんな中小ブルワリーならではの理由からあとからの砂糖添加という方法をとったのではないかと思われる。
また、含糖質物に当てはまらない糖と判断されたために今回の事故が起きたとしても、その糖(廃糖蜜とか)が当てはまるかどうかは一見してなかなかわかりにくいものがある。

このように酒税法には細かなルールが決まっているのである。大企業ともなれば酒税を専門に管理する担当者がおり、定期的に国税局とコミュニケーションをとって確認しながら醸造ができるだろうが中小ではそれも難しいだろう。クラフトビール人気からコンビニなど、広域的な店舗での取り扱いも増えている。一方でそのような業態で扱ってもらうには、独自の規格やルールに従わなくてはいけない。クラフトブルワリーにとってはコンビニなどでの取り扱いは大きなチャンスであるのと同時に、新たな規格に対応が求められる。その時には再度酒税法や国税局に照らし合わせての製造が重要になってくるだろう。

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