法的用語問題あれこれ

はじめに

 法曹業界の用語の中には,用法からいって混乱をきたしてしまうものがいくつかある。ここでは主だったものを挙げてみようと思う。

「被告」と「被告人」

 民事訴訟で訴えられた側を「被告」,刑事訴訟で検察官から公訴提起(起訴)された人を「被告人」という。「人」とつくかつかないかで全く別の概念である。したがって,刑事事件の報道などで「被告」と報じるのは誤りであり,早急に「○○被告人」としてもらいたいものである。
 これのせいで,たまに民事訴訟で訴えられた側の相談を受けるとき,「私が被告だなんて,原告や裁判所は私を犯罪者扱いしているのですか!?」ということを相談者から言われることも時々ある。こんなときは「あくまで訴えられた側という意味しかないので,落ち着いてください」と説得するのに一苦労である。

「申立人」と「相手方」

 離婚調停や遺産分割調停などの調停手続においては,調停を申し立てた側を「申立人」,申し立てられた側を「相手方」という。
 相手方代理人になった場合,相手方は「申立人」で,こっちは依頼者なのに「相手方」…となると,呼び方に混乱をきたしてしまう。「被申立人」と呼ぶ方法もあるかもしれないが,これでも「申立人」「被申立人」で混乱が起こらないとも限らない。
 こういった混乱を避けるため,私の場合は申立人であると相手方であるとに関わらず,「○○さん」と名前で呼ぶようにしている。

「和解」

 民事訴訟である程度期日が進むと,尋問の前に裁判官から和解の打診をされることも多い。そこで依頼者に和解の話をすると,稀に「相手を許せとでもいうのですか」「相手と仲直りなんてできません」と言われることがある。訴訟上の和解にはそんな意味はもちろんないのであるが,和解の一般的な用法から考えたらそのように考えてしまうのもわからなくはない。
  そこで和解に代わる呼び方がないかと考えていたら,「手打ち」「損切り」という呼び方はどうだろうと思うに至った。別に相手を許すとか仲直りするとかではなく,ここらへんで手を打って矛を収めようということで,「訴訟上の手打ち(損切り)」,我ながらふさわしい呼び名ではないかと自負している。

おわりに

 ここで書いたものはほんの一例に過ぎないが,法律用語は字句が少し違っただけで全く違う意味になってしまうため,細心の注意を払わなくてはならない。「言葉を大切に」,これが法律家の基本というわけである。

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