デスゲームマスターのおしごと


『ようやく目が覚めたようだな?今からお前には、命を懸けたゲームに参加してもらう。』



モニター越しに別室から語りかけるデスゲームマスターは、一体いつからそこにスタンバイしていたのだろうか。



何かしらの方法で気を失ったまま無理矢理会場まで連れてこられた参加者が、自ら意識を取り戻し、目を覚ますタイミングは人によって異なり予測できないはずだ。


それまでずっと待機していたのだろうか?
顔を隠すための金属製、あるいはプラスチック製のマスクを装着し、比較的フォーマルな衣装を着こなして。


そもそも、第一声のテンプレとして『ようやく目が覚めた』というセリフを用意している時点で、ゲームマスターサイドもハナからある程度の待ち時間は覚悟しているという証拠だ。


ただし、待機といってもいつ参加者が目を覚ますかわからないため、単なる休憩とは違う。
目を覚ましたタイミングを見計らって、『ようやく目が覚めたようだな』を言うために常に参加者を注意深く監視しておく必要がある。


『ようやく目が覚めたようだな?』はタイミングが肝心。参加者が目を覚ましてすぐの寝ぼけ過ぎているタイミングは、夢と現実の境界線がはっきりしていないためあまり効果的ではない。
かといって、起きてから間が空き過ぎてしまうと参加者も徐々に勘付いてしまい、せっかくの『ようやく目が覚めたようだな』を待たれてしまう。


いかに参加者のパニックを煽る絶妙なタイミングで『ようやく目が覚めたようだな』を言えるかがキーになってくるのではないか。


となると、監視途中の私語やスマホの操作はもちろん禁止。トイレにすら行くことができないため、オムツを履いておく等の対策も必要になる。 


デスゲームマスターは見た目以上にタフな仕事であり、ここまでして収入にならないどころか逆に報酬を支払う可能性があるという理不尽さ。
僕らが今まで当たり前のように見てきたデスゲームマスターは、これらの苦境に耐え、それでもデスゲームで生活することを選んだほんのひと握りの成功者に過ぎないということだ。




●デスゲームマスターのおしごと

〜デスゲームマスターが実際にデスゲームを開催するまでのスケジュール(一例)〜


・デスゲーム本番10ヶ月前
事前に、参加者となるターゲットを選出するための何かしらの会議を行い、それと並行してゲームの内容の案を出し、内容を詰めていく。


・デスゲーム本番5ヶ月前
ゲームを行なう会場を押さえ、会場手伝いの人手を確保するために求人サイトに広告を掲載する。
会場を長期間押さえることになるため、長期利用プランなどお得なプランを利用して経費を削減できる可能性を検討する。


・デスゲーム本番2週間前
会場にセットを作りつつシミュレーションを繰り返し、本番で失敗が起きないよう入念にリハーサルを行う。
正念場。徹夜、会場で寝泊まりも覚悟する。


・本番5時間前
当日リハーサル。この時点ではゲームマスターはまだスウェット姿。合間合間に仲の良いスタッフたちと談笑するリラックスした様子も見られる。


・本番3時間前
別室からオンラインで中継を行うモニターのチェックが行われ、液晶の汚れや画質、音ズレ等の不具合がないか確認。


・本番30分前
衣装に着替え始める。


・本番15分前
楽屋から中継先の控え室へ移動。


・本番スタート
気を失ったゲーム参加者が会場に運び込まれ、いよいよ本番スタート。まだ全く起きる気配はない。


・1時間経過
まだ参加者が起きる気配はない。


・3時間経過
まだ参加者が起きる気配はない。ノンレム睡眠を確信。


・5時間経過
まだ参加者が起きる気配はない。尿意を催し、参加者が起きないうちにトイレに行こうか葛藤。3分ごとに、「葛藤している時間があったら今の時間でトイレに行けばよかった。」と後悔。


・7時間経過
まだ参加者が起きる気配はない。オムツを履いておいて良かった。


・9時間経過
ようやく参加者が目を覚ます。しかし、起床予定時間を大幅にオーバーしたため、会場の完全撤収時間との兼ね合いで、用意していた後半の2つのゲームを泣く泣くカットすることになる。


・10時間経過
参加者死亡。速やかに遺体を回収。「来た時よりも美しく」の精神で、スタッフ全員で血痕を丁寧に清掃。


・12時間経過
完全撤収。会場近くの魚民で打ち上げ兼反省会。次回へ向けた新たなゲーム考案。



好きなことで食っていくためにはそれなりの覚悟が必要。


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