僕はお土産のお菓子を何個まで取っていいのか


『静岡のお土産です。みなさんで食べてください。』



アルバイト先の休憩室に置かれていた富士山型のクッキー。30枚ほど入っているそのお土産は、従業員の数に対してかなり多い。


このバイト先への貢献度から算出される僕の取り分は3枚といったところか。


ワンオペの夜勤に週5で入り、ダンボールのまとめやビン缶ペットボトルの分別とゴミ出し、フライヤー清掃等を担当している。
単純な貢献度だけで計算すれば、5枚はもらっても良さそうな仕事量だが、他の従業員全体に定着している普段の僕の謙虚なイメージも加味する必要がある。


他の従業員の頭の中にほんの少しでも、
「え、お前がそんなに取ってくの…?」という言葉がよぎらないギリギリのラインは3枚だ。



お土産は、取り過ぎず、取らな過ぎず。お土産の総数と、お土産をもらう人数を把握し、さらにそのコミュニティ内での自分の立場、キャラクター、関係性などを考慮して自分の取り分を正確に算出しなければならない。


一歩間違えばバイト先内で、「あいつはせっかく買ってきた俺のお土産を食べなかった。」
あるいは、「あいつは私のお土産をめちゃくちゃ取っていった。」などの悪評が回りかねない。この辺りのバランス感覚は経験を積み上げていくしかない。




もらう枚数が決まったら次に、その3枚をもらうタイミングがポイントとなる。
なぜか無駄に、がめつさが目立ってしまう一番最初と一番最後にもらうのは当然NG。

(※僕がお土産を置いておく際は、まず初めに自分で1つか2つ取って、自らがめつさが目立つ役割を引き受ける。後から取る人が取りやすくするため。主催ライブで自らがトップバッターを担うお笑い芸人よろしく、重苦しい雰囲気を打ち壊すんだという気遣い。)

個人差があるが、僕のベストのタイミングは、もう他の従業員の半分以上がもらい終わり、残り枚数も後半に差し掛かるところ。


他の従業員の取り分から、自分の取り分を相対的に見直せるし、僕が取ることでお土産が無くなってしまうこともない。
これが一番波風立てずにお土産をもらえるタイミング。



お土産をもらう手順としてはまず第一に、お土産を買ってきた人、もしくは既にお土産を食べた人からの「事務所にお土産置いてあるから食べてね。」という言葉を待つ。


そんなことはとっくに知っているけど、
「え!いいんですか!?ありがとうございます!いただきます!」と、お土産に対する無頓着さをアピールしつつ大袈裟に答える。


既に半分以上減っているのを確認した後のバイト終わり、休憩室に一人。
帰り際に3枚取っていけばいいのだが、ここで最終関門。
やっかいなことにうちのバイト先には休憩室も含めた店全体に監視カメラが設置してあり、社員がリアルタイムでその映像をスマホで監視していることがある。


富士山型クッキーを一気に3枚も取っていくところをカメラで見られたら、今まで作り上げてきた僕の謙虚なイメージが崩れてしまう。


自ら謙虚なイメージを作り上げた結果、今回僕は3枚しか富士山型クッキーが取れなくなってしまっているのに、その謙虚なイメージを守ろうとしている自分の不可解さに首を傾げながらエプロンを脱ぐ。


ここからは仮に監視されていても、謙虚な坂﨑くんのイメージを崩さないための演技を披露。



①まず、富士山型クッキーへの興味を悟られないようにおもむろに富士山型クッキーに近づき、パッケージの箱を見つめ、何かをじっくり読んでいるかのように数秒間静止。


②次に1枚手に取り裏返して成分表をよく読んでいるふうに何度か小さく頷く。


③そしてようやくパッケージから目線を切り、富士山型クッキーを一枚を小さく天に掲げると同時にお辞儀するような仕草をする流れでそのままトートバッグに入れる。



これなら仮に監視されていたとしても社員は、「坂﨑くんてやっぱり思慮深い人なんだ。」、「坂﨑くんてどんな時でも感謝の気持ちを忘れない人なんだ。」などといった良いイメージを持ってもらえそうだ。



それでも一気に3枚だと欲張りに映ってしまうため2枚+1枚、あるいは1枚+2枚というように2日に分けてもらうのがベター。



このように、自分の評価とお土産の相関性を把握することは大前提として、これ以上何日間も余っていたら気まずいなというタイミングを察知し、自分の評価以上に取っていく臨機応変さも必要である。



以上が、さかざき流お土産のもらい方。




ただお土産をもらうだけなのに、なぜこんなに疲れなければいけないのか…。



俯きながら食べた富士山型クッキーは、抹茶風味で少しほろ苦かった。

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