職場体験がゴミ収集車だった
1台のゴミ収集車が、僕の隣を走り抜けていく。
その数秒後、もの凄い腐敗臭が風に乗って僕の鼻に届く。
数十メートル先のゴミ集積所で停車しているゴミ収集車を、僕は歩いて追い抜く。
その数秒後、ゴミ収集車が僕の隣を走り抜けていく。もの凄い腐敗臭が風に乗って僕の鼻に届く。数十メートル先のゴミ集積所で停車しているゴミ収集車を僕は歩いて追い抜く…
さっきから、僕とゴミ収集車の抜きつ抜かれつの並走がずっと続いている。
ずっと臭い。
今僕は可燃ゴミと同じ道を辿っているのか。
僕の将来を暗示しているんじゃないだろうな。
思い出の匂いでもある。
中3。夏。酷暑。職場体験。
ゴミ収集業者に配属された。
ちゃんと天下一品鈴鹿店を第一希望に、くら寿司鈴鹿店を第二希望にしていたのに…。
「お前なら文句言わんと思って!笑」
笑いながらそう言い放った教師のことを僕は、数学のテストで95点だったのに評定が4だったことも相まって未だに許さない。今から文句を言う。
クラスのみんなが、自分の職場や仕事内容を聞いて色めき立っている。
まぁでも、実際にゴミ収集して回ることになるかはまだわからない。そもそもあんな過酷な仕事を、仕事の本質すら理解していない甘ちゃん中坊に任せられるはずがない。仕事を舐めるな。きっと事務所での事務作業がメインになる。配布されたプリントに目を通す。
《持ち物》
・お弁当
・汚れてもいい服(上下長袖長ズボン)
・汚れてもいい靴
・汚れてもいい手袋(厚手のもの)
収集だ。収集をさせる気が満々だ。
《集合時間》
・6:45(社員全員で朝のラジオ体操を行います)
収集だ。逆に収集以外あり得ない集合時間だ。
当日朝、僕を出迎えてくれたのは、サンドウィッチマン伊達さんを一回り大きくした風貌の男性、呂布カルマさんの襟足を20cmほど伸ばした風貌の男性、中田翔選手の3名。
圧倒的な威圧感。
6時45分。放送でラジオ体操が流れて始めたが、誰一人としてラジオ体操をする社員はいなかった。この職場で僕は5日間働く。
サンドウィッチマン伊達さんのゴミ収集車の助手席に乗り込む。いよいよだ。
「なんでこの仕事希望したの?」
唐突な伊達さんの質問に頭をフル回転させる。伊達さんは僕が進んでこの仕事を希望したという認識なんだ。本当は天下一品鈴鹿店を希望していたのに、文句を言わなそうだからという理由で先生に勝手に決められた。失礼過ぎる。あの教師の顔が頭によぎる。脳内でよそ行き用の回答に変換する。
「ゴミ収集車の後ろに足かけて車体に捕まりながらゴミ集めてくの、小さい頃からずっとやってみたくて…笑」
ゴミ収集への自然な興味の湧き方から、この仕事への憧れも表現しつつ、また、変に建前を織り込まない中学生らしい無邪気さと可愛げも残したナイスな回答。我ながらあっぱれのアドリブ力。
「あの乗り方は違法だからな!絶対やるなよ!」
…。
気まずい空気の2人を乗せて、ゴミ収集車は走り出した。
めちゃくちゃキツかった。
可燃ゴミ、プラスチックゴミ、資源ごみ、可燃ゴミ、不燃ゴミ。
5日間、全ゴミちゃんとキツかった。
記録的猛暑。長袖長ズボン。汗だく。
毎日助手席で聞いた伊達さんの上司への愚痴。
いや、暴言。
途中の自販機で伊達さんに買ってもらったアクエリアスの味。
「なんでこの仕事しようと思ったんですか?」
「給料良いから。」
「…なるほど。」
「じゃなきゃこんな仕事やってられんやろ?
ガハハハ笑」
無給で5日間働いた僕って一体。
「将来働きたくなったらいつでもおいで!笑」
別れ際、伊達さんはそう言って手を振ってくれた。
「伊達さん今日もご苦労様です。」
そう思いながら僕は今日も可燃ゴミを出す。
卒業アルバムには職場体験中の生徒の記念写真が掲載されていたが、朝早く各ゴミ集積所を転々と移動した僕の写真は無かった。
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