音楽経験もセンスもない自分がアカペラアレンジする中で役に立った勉強

題名が長いよ。

【記事を書こうと思ったきっかけ】 

 年末にいくつかのサークルライブオーディションの審査員をさせて頂く機会があり、とあるサークルの子達からアレンジに関する相談の連絡を頂きました。
 やりとりをしている中でその時ふと思ったのですが、

 昔より明らかにアレンジに求められるスキル上がっているよな…

 自分が一年生の頃なんてまーひどかったサークル内で書ける人も限られていたし外注の文化なんてなくて数少ない販売サイトを頼って買って自分たちのスキルや読解力のなさのせいで成立してないのに「なにこれ意味わからん」とか人のせいにしてみたり云々かんぬん……昔話は置いといて。

 すごい人のすごいアカペラをSNSで身近に聴くことのできる今の時代、書く側のハードルは高い。正確には書いている最中やそれ以降のハードルが高い。アレンジしてみたい人、しているけれど理想に近づけない人、原因がわからない人がいるかもしれない……。
 というわけで自分がアレンジスキルを磨く上で有用だった事を列挙します。
アカペラアレンジで困っている人達のヒントに少しでもなれば幸いです。

1.自分が感動したアカペラの耳コピ

 感動した、とつけたのは最初から勉強目的で耳コピするのはしんどいからです。
           「うわなにこれ!すごい!好き!」
となったアカペラの特に感動した箇所の耳コピはおすすめです。最初は全編じゃなくてもいいんです。そして自分が何に感動したのか、頭で理解することを目指しましょう。頭で理解したら、自分の引き出しに入っていつか役に立つ日が来ます。

自分が最初に耳コピしたのはHuman NatureカバーのLast Christmasでした。
(パーカッションやシンセパッドがいるので厳密にはアカペラではない)

 この曲、大学一年生の僕はリバーブによる空間の雰囲気や字ハモで気持ちい〜ってなっていましたが、今改めて聞くとその緩急にグッときました。

 例えば、ユニゾンからのハモリの広げ方
 例えば、ベースの出入りや音域でコントロールされた縦の音像の幅感

 一年の冬ライブに向けて真夏の自室で耳コピしながらキレ散らかした記憶が今でも鮮明です。オーディションには間に合わなかった上にそのバンドは落ちました

 基本的にプロが編曲したものはアイディアや心遣いや教科書的な音作りの宝庫なので、余裕がある方は好きなプロアカを一曲コピーしたいですね。
 具体的な心遣いをあげると、この曲ではユニゾンが多用されていますが、転調の前後もユニゾンを使っているため、演奏すると事故になりづらいです。(別に事故になりにくいからそうしたわけではないのでしょうが)
 また、プロアカはじめバンド全体で和音を鳴らしてハモっている感の強いアカペラはボイシングがアレンジ始めたての人のそれと明らかに違う場合が多いです。最初からしっかりハモれるボイシングを積める人はセンスあるのでブラウザバックしてください。
 あと今の時代あまりないですが、ライブ音源を無理に耳コピしようとすると演奏者のミスから勘違いが起きて悲劇を生むこともあるので、配信されているプロの音源やしっかり編集されたYouTubeの動画から選ぶことを推奨します。

2.以前やったことはやらない

 これは自分が何曲も書いていく中で意識したことです。
 はじめのうちってどうしても同じようなアレンジになってしまったり、
前の曲で使ったアイディアの使い回しが起きてしまったりします。なんだったら無自覚にやってしまうことも。

 沢山楽譜を書いた上での所感ですが、手法の焼き増しで書いた10曲と毎回違うものを目指してもがいた3曲だったら間違いなく後者の方が経験値につながります。
 勿論瞬間的なクオリティは前者の方が上がる可能性はありますが、次年度の成長は後者だと思います。
 とはいえすべて違うことをやるのは難しいので、最初のうちは「何か一つでもやったことない何かを」「構成を変える」ことから始めてみましょう。

 例えば、「いつも下からドミソってコーラスを並べていたけど、思い切ってミドソを使ってみたぜ!」とか「こないだ書いた曲の落ちサビはボーカルとベースの二人だったから、今回はボーカルとコーラスにしてみよう」とか。
 次にまた落ちサビを使いたくなったら「次はコーラスはユニゾンにしようかな……」「リード・トップコーラス・ベースにしちゃえ」とか、まだやったことない手法を探してみましょう。練習で変だったら変えればいいのです。そもそも落ちサビやめるのもありです。

 自分は割とバンドごとにこの縛りを設けていました。
 なのでHi-DRYDEとか時系列で並べて聴くと苦労が見て取れる気がします。

 Hi-DRYDEで一曲目。ともおがまだいない。
 落ちサビでいうと「リードとベースとパーカス三人で行って、次いでコーラスがユニゾンで高音から降りながら和音を広げる」みたいなやつやってます。
 お前困るとすぐこれ使うな ←悪い例

 Hi-DRYDEで六曲目くらい。
 ここに至るまでに落ちサビのアレンジで「全員でユニゾン」「字ハモがだんだん増えた後にコーラスいなくなる」を使用し、「2サビ後のCメロで落として盛り上がりながら間奏行きリズムブレイクでラスサビ前に弾みをつける」ことに

 Hi-DRYDEの10曲目くらい。他の曲で「ベースを4thとして使用して四人でfuハモ落ちサビ」を使用済。ぼちぼち吐きそう。
 「ZEDDのSTAYみたいなことしたいな」と思ったので「全員字ハモとリードソロの掛け合いちっく落ちサビ」に。

 ZEDDのStayのサビはこちら。これはボコーダーという機材を使用してるので厳密にはアカペラではないけど。
 というわけでお次は、

3.沢山書く(ただし2.の条件は満たす)

量は質を産む
でも質にもこだわりたい

 同じ曲をブラッシュアップするのも重要ですけど、新しい曲をアレンジする=触れたことのない音楽に触れることは間違いなく大きな経験値になります。新しいものを聴くことでアイディアが身体に要素として残りますしね。
 ですが手癖でアレンジすると残念なことにそれほど経験値にはなりません。なんでもいいから、一つでもいいから新しい要素を!
 そうして自分の中にあるものを出し切った後に1.に戻ると吸収率がまるで違うので、一回アウトプットを枯渇させるのも荒療治としていいかもしれません。
 ちなみに自分はバラード書きすぎてアップテンポのが得意な気になる→アップテンポ書きすぎてバラード得意な気になる を何回も繰り返していた時期があります。
 枯渇を繰り返していてマジ砂漠でした。

4.メンバーに合ったアレンジについて思いを馳せる

 これは一見すると「いい演奏をするための要素」っぽいんですけど、楽器についての理解はアレンジにおいて非常に重要です。メンバーを楽器と呼ぶな。

 アレンジの悩みで「musescoreの時は良かったのに」という話をよく聞きます。ですが個人的に目指すべきは「musescoreより全然いいね!」だと思います。
 あれはピアノだったりエレピだったりシンセボイスだったり、言ったらあくまで全体の雰囲気をつかむためのとりあえずの音でしかないので、そこでの雰囲気に惑わされないようにしたいです。
 (かつでYouTube上でカバーアカペラチャンネルを席巻していたくねともはアレンジャーによる多録音源が共有されていたので回答としては満点ですが、アレンジャーがみんな歌上手いわけではない(死にたい))
 逆に難しい和音を低めのボイシングで積んだ時、musescoreだと濁るのに声だと最高にハモったりもしますよね。声とピアノは音の鳴り方が全然違うので、最終的には練習で判断しましょう。ここら辺の感覚を学ぶのにも1.はいい。
 メンバーの声が脳内再生(推測でもいい)できるようになると、楽曲が最高潮に盛り上がる瞬間に誰にどこを歌ってもらいたいとか、そういうイメージが膨らみますし、メンバーの声がアイディアに発展したりもします。考えているのは自分だけれど、自分一人ではたどり着けない場所へ連れて行かれたりするので、アレンジする時のmusescore音声は参考程度にとどめたいです。

5.音楽理論やコード進行を学ぶ

 天才達は言います。

「感覚が大事」「音楽理論は頭でっかちになる」

僕は凡人未満のセンス皆無野郎なので感覚に頼ったら崩壊しました。

 センスも音感も素養もない自分にとっては、音楽理論を学ぶのがスキルアップ量でいうと一番効果があったかなぁと思います。何がいいかって、歩いていて変な道を通らなくなります。

 素人の奇抜な発想が成立しづらくて玄人のそれが成立しやすいのってなんでだろうって考えたりしたのですが、演奏の上手さという根本は無視するのであればその発想の前後の繋ぎや、大元の土台の安定感によるものだろうなと思います。
 ちゃんとした要素があるからこそ敢えてに聞こえる。ちゃんとしてない人の奇抜なアイディアは成立させるための心遣いに欠けてしまう。ファッションとかも多分そうなんだと思います。
 (余談ですが僕の師は「アレンジは服を着せるようなものだ」とおっしゃってました。)

 もちろん勉強したての時は頭でっかちになったりもするけれど、そもそも音感やセンスがない人は理論から入って頭で理解して、感覚を磨いた方がいい気がします。というか僕はそのやり方が合っていました。
 何がいいかというと、コード進行の勉強をしたおかげで「この問題、進研ゼミと同じだ!」みたいな現象が起きて楽曲を聴くときの吸収率が爆上がりします。

 大学一年の時、軽音系サークルの友人と講義中にミスチルの新譜を聴いてた時に「4・5・3・6」とか言ってても「は? 数字? なに?」って感じだったんですけど、勉強したおかげでそういう聴こえ方がするようになったし、アレンジにも間接的に役に立ちました。耳コピも早くなるし。お前講義中ミスチル聴いてたの?
 
 他にも、「テンションノートを使用する時に次の音はコードトーンに納めた方が歌いやすいよ〜同じ役割のテンションのまま並行移動するならいいけど歌いにくいよ〜」とかですかね。お約束的なところに手が届きます。
 ちなみにしお君が「決め所は敢えて難しく作って練習させる」という逆転の発想の話を以前教えてくれました。強い。

 実はYAMAHAが「コードについて学ぶ」というページを作ってたりします。(基礎的な内容ですが)
 音楽理論ってどこで学べばいいかが結構難しいところありますよね……僕は専門学校で学びました……参考にならねえ……

6.思ってる五倍くらいリズムを重要視する

 一般的なポップスは4リズムという楽器編成を軸に編曲されます。

キーボード
ギター
ベース
ドラム

 そういった楽曲をアカペラにする際、僕はハモネプ編成なんて造語を勝手に使っているのですが、ボーカル・コーラス・ベース・パーカスに分けた時に、気がつくと思います。
 「あれ?足りんくない?」
 キーボードとギター、加えて楽曲によっては弦楽器管楽器シンセサイザーなどなど、現在のポップスは沢山の要素を持って楽曲が成立しています。
 でもアカペラアレンジを始めたての時って、とりあえず「そのセクションで聞こえる一番目立った楽器」をその都度その都度コーラスに当てはめてしまったりしますよね。
 例えば、阿修羅ちゃんを例に挙げると、

 イントロはブラスが一番耳につくしメロディラインっぽいのでコーラス全員ブラスに。これはブラスのメロディがビートを表現しやすいのでいけます。
 でもBメロでコーラスとベース全員で「だっだっだー だっだっだー」みたいなことをしてしまうと、ふた回し目のだっだっだーエレキギターのフレーズ分リズムが足りなくなっちゃいますよね。
 この曲のこの場所(0:35辺り)でそれをやると、次の小節の1拍目への移行が歪になる(突っ込んだり遅れたり)と思います。
 なので「だっだっだー だっだっだーああ〜」みたいな(伝わりづらい)
「だっだっだー」は硬い声で、「ああ〜」はセクシーにボーカルっぽくいこうか、とか、拾えるものを拾うことから始めてみてもいいかもしれません。
 ベースとパーカスにalwaysぶん投げはやめよう。余計だったら練習で「ああ〜」を消せばいいのです。

 こういう楽曲自体がパキパキしててメロディもリズムが分かりやすい曲はいいんですけど、16ビートでファンキーなビートでロングトーンのオルガンを採用したりした時に「なんかのれないな……」みたいなアレンジになっちゃうので、
 メロディーライン、ベース、パーカスでまずどの程度ビートが組み立てられていて、コーラスがどの程度リズムに参加するタイプのアレンジが美味しそうかの見極めができてくると、自ずとアレンジのスキルが向上すると思います。
 余談ですが、バラードもリズム大事です。思考停止全音符、ダメ絶対。
 あと身も蓋もないけど歌のしっかり上手い人達は白玉多い楽譜でも「リズム隊に乗っかってるだけだから〜」とかうそぶいて無自覚に歌えちゃうので注意です。
 奴等は貴族だ。

7.プチ作曲する

 亀田誠治さんがかつてこんなことをTwitterで呟いていました。

 アレンジはメロディの集合体とは言い得て妙ですよね。
 メロディが幾つも折り重なって楽曲を彩るイメージでしょうか。どこまでこの言葉を理解できているのか分かりませんが、僕はすごく影響を受けました。
 
 アカペラアレンジも人間が身体一つで音を奏でるわけですから、この考え方は非常に重要だと思います。
 目立つところだと後追いとか、オリジナルの間奏とかになっちゃいますが、それだけではないです。コーラスがロングトーンを歌うにしたって、大きなメロディを奏でるようにアレンジしたらまた違った景色が見えてきます。
 一音一音をコード進行に合わせてただ配置するのではなく、例えば2・4・8小節単位で聴いた時に旋律的な美しさがあるかどうか。プチ作曲です。
 とりあえず原曲やできかけのmusescoreと一緒に歌いながらフレーズを作ってみましょう。実際に声を出してみましょう。気持ちいいところを探りながら。
 
 最初はロングトーンの音選びから始めて、いずれ発展的なフレーズ作りに繋げていけるといいですね。

8.無意図の音を限りなくゼロに近づける

 難しいことを言っていますが。
 センスない人間の「なんとなく」ほど危ないものはないです(自戒)
 それを「常識にとらわれない自由な発想」に昇華するには音楽経験・知識がしっかりある人間がそばにいる時だけだと思います。(そういう人がいれば形にはなる可能性はある)
 ここのアレンジはどうしてこうしたのか、ここの音をドじゃなくてレにした理由は。一個一個に意図を込めてアレンジをする。
 なんとなく書いた一曲と、音の一つ一つの意味を考えた一曲だとこれまた経験値が格段に違います。当然時間はかかってしまいますが、大事な楽譜であればそれくらい大事に書くのもいいと思います。
 ちなみに「カッコいいと思ったから」は立派な意図です。アレンジャー本人の価値観が出ているわけですから。

9.アレンジにおける型を意識する

 最後です。
 特に引き出しを増やす上で役に立つと思うのですが、アカペラアレンジの技法ひとつひとつに自分なりの名前をつけてあげましょう。
 シンプルなところでいうと「字ハモ」「ロングトーン」とかですけど、それも「2(~6)人字ハモ」「後追い字ハモ」「wooロングトーン、Ahロングトーン」とか細分化したりして。
 語弊を恐れずにいうと、今のアマチュアアカペラってフィギュアスケート的な要素があると自分は思っていて。すんごい雑にいうと4回転アクセルが6和音の字ハモ、みたいな(すんごい雑)
 フィギュアって同じジャンプは一回しか飛んじゃいけないので、それに倣って縛りアレンジをしてみるのも楽しいかもしれません。「リードコーラス4人の4和音字ハモ使っちゃったよ!ベース入れて5人にしよかな」とか。
 この技法を沢山持っていて、上手くコントロールできれば幅広く飽きさせないアレンジ作りに繋がりますよね。こればっかりは感動したアカペラの耳コピオンリーでは身につかないので、自分で多録して実験してみたり、ダメだったから変えればいいかくらいの感覚で楽譜を配ってみたり、トライアンドエラーを繰り返していきましょう。型を意識したら型を破ることもできますしね。

 一例として作ろうとしてデザインセンスの皆無さや言語化能力のなさから挫折した表がこちら

アレンジ

 ここにフレーズの種類とか和音の種類とかボイシングとか加えたかったけど表にするのは厳しかった……脳内で適宜組み合わせて使いこなせるといいですね!

 そんなこんなですごい長くなっちゃいましたが、自分がアカペラアレンジのスキルを身に着けるのに有用だった方法を7つほど紹介させて頂きました。嘘です9つでした(書いてたら増えた)
 アレンジに悩む人のヒントに少しでも慣れていたら幸いです。

 個人的に勉強やインプットで得た技術がスキルで、それによって培われた好みがセンスなのかな?と思っています。両方とも磨いていけるものです。
 だから天才だと思っていた人も、何かしらの形でそれらを培っていたなんてことはよくあります。大学アカペラでいうと入学前の経験値ですね。身も蓋もねえ……
 それを大学に入ってから覆すのは生半可な気持ちではできませんが、自分達の歌いたい曲を自分達の歌いたいように歌えるのが自前アレンジの良さです。練習中の書き換えにも心痛みませんし。
 楽しいアカペラ生活を過ごす手段の一つとしてアレンジを楽しんで欲しいです。
 楽しんだもん勝ちですから!

 軽い気持ちで書いたら普通に一日かかったので、お布施してやってもいいやという方はよければ購入してください。
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