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「砂場」

午後2時の小さな公園は閑散としていた。
拓也はスーツ姿で一人、木陰にあるベンチに腰掛け、ぼんやりとしていた。
目の前には小さな砂場があり、ルルくんが遊んでいる。
拓也は会社を辞めてから1週間、午後は毎日この公園で時間を潰していた。
ルルくんは毎日、午後2時にやってきて3時まで砂場で遊ぶ。一人で。
右手にスコップを持ち、左手はいつも軽く握られていた。
ルルくんは砂場に穴を掘り、左手の中で握っていた何かを穴に埋める。
埋め終えると、いったん砂場の外に退場し、両手で顔を覆い、数を数える。
10ほど数え終えたところで、砂場に入場し、先ほど自ら埋めたものを探す。
ルルくんはいつもだいたい30秒ほどでそれを見つける。
午後2時から3時まで、ルルくんはこの儀式のような行為を繰り返す。
「いつも一人で何してるの。」ある日、拓也はルルくんに声を掛けた。
ルルくんは答えようとしなかった。
「隠したもの僕が探してもいいかな。」
この問いに対して、ルルくんは小さくうなずいた。
拓也は砂場から静かに退場し、両手で顔を覆った。
しばらくすると、ルルくんがスーツのズボンを引っぱったので顔を上げた。
拓也は砂場に入場し、ルルくんが隠したものを探し始めた。
1分、2分と時間は過ぎ、10分が経っても拓也は見つけられなかった。
午後3時になっても見つからず、ルルくんは帰ってしまった。
拓也はその後も探したが、ルルくんが隠したものは見つからなかった。
次の日もルルくんは午後2時に公園にやってきた。
拓也はルルくんに近づくと「今日は僕が隠すものを探してほしい。」
そう声を掛けると、ルルくんは小さくうなずいた。
ルルくんは砂場から退場し、両手で顔を覆った。
拓也は手で砂場に穴を掘り、そこに水色のおはじきを埋めた。
拓也はルルくんの肩をたたくと、ルルくんは砂場の中を探し始めた。
1分が過ぎ、2分が経つ手前で、ルルくんは砂の中のおはじきを見つけた。
ルルくんは表情一つ変えずに、見つけたおはじきを拓也に手渡した。
今度は、昨日と同じように、拓也が砂の中のものを探すことにした。
結果は昨日と同じく、午後3時になっても、見つけることができなかった。
ルルくんは何を隠しているのか、本当に隠しているのか。
そんなことを明日はちゃんとルルくんに確かめようと拓也は心に決めた。
次の日の午後2時。ルルくんは砂場に現れなかった。
午後3時を過ぎてもルルくんが公園に来ることはなかった。
拓也はルルくんが来るかもしれないと思い、しばらく公園に残った。
しかし、その日、ルルくんの姿を見ることはなかった。
次の日、拓也は朝から公園にいた。ルルくんを待つために。
しかし、昼になっても、午後3時を過ぎても、ルルくんは来なかった。
思えば拓也は、ルルくんの本当の名前を知らなかった。
拓也は、次の瞬間、我を忘れ、砂場に飛び込んでいた。
スーツ姿のまま、砂場の中で足をばたつかせ、前転と後転を繰り返した。
すると、拓也の手に、突然、固い何かがあたった。
拓也は手が触れた周辺に腹ばいになり、目を凝らし、手のひらを滑らせた。
再度、何かが手に触れた感触があり、拓也はそれを拾い上げてみた。
それは、ピカピカに磨かれた泥団子であった。
拓也はそれに気づくと、砂に顔をうずめ、肩を震わせながら嗚咽した。
泥団子を潰さぬように握りしめたまま、拓也はいつまでも泣いていた。

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