『更級日記』「あこがれ」で問題を少し作ってみた

最近の傾向(流行?)にのった問題も考えてみました。

1.設問


(設問)
問1 波線部ⓐ~ⓔを文法的に説明せよ。

問2 文章の冒頭(二重傍線部)について、生徒たちの会話を読み、あとの問いに答えよ。

生徒A― この冒頭の表現って、「東路の道のはてなる常陸帯のかごとばかりもあひ見てしがな」という和歌を踏まえているらしいよ。
生徒B― 「常陸帯(ひたちおび)」というのは、常陸の祭りで男女の結婚を占うときに用いた帯のことだよね。「東路」からここまでの部分が「かこ」を導く【 Ⅰ 】になっているよ。
生徒C― え? 「かこ」なんて和歌のどこにもないじゃん。
生徒B― それはね、「かこ(=帯を締める口金)」と「かごと(=口実)」が掛詞になっているんだよ。
生徒C― そういうことね。じゃあ、元になっている和歌は【 Ⅱ 】ってことか。
生徒A― そんな和歌を踏まえて冒頭を書いているというのをふまえると、新たな考察ができそうだね。

⒜ 【 Ⅰ 】に入る言葉を、次から一つ選べ。
ア、縁語  イ、枕詞  ウ、掛詞  エ、序詞

⒝ 【 Ⅱ 】に入る内容として最も適当なものを、次から一つ選べ。
ア、遠く離れた女に逢いたいという切実な思いを神に向けて詠んだもの
イ、思いを寄せる人になんとかして逢いたいという強い思いを詠んだもの
ウ、だましてでもなんとか結婚を成り立たせようという強い執念を詠んだもの
エ、なんとか口実をつけて常陸帯を見、あわよくば盗もうという下心を詠んだもの

⒞ この会話の後、生徒が考察した内容として最も適当なものを、次から一つ選べ。
ア、自分のものにしたいという強い心が詠まれた歌を踏まえることで、口実をつけてでも手に入れたいものがあるという現状を、冒頭でほのめかしている。
イ、男女の結婚に関わる「常陸帯」を詠んだ歌を踏まえることで、『更級日記』の主旨の裏に、自分の結婚願望の強さを隠していることがわかる。
ウ、なかなかお目にかかれない「常陸帯」を見たいという歌を踏まえることで、自身の、『源氏物語』を見たいという思いの強さを強調している。
エ、男女の恋心を詠んだ「常陸帯」を踏まえているが、『更級日記』では恋慕の思いは読み取れないことから、筆者は「常陸帯」の和歌の主旨を理解していないと思われる。


2.解答・解説

〈解答〉
問1
 ⓐラ行変格活用動詞「あり」連体形撥音便+伝聞の助動詞「なり」連体形
 ⓑナリ活用形容動詞「つれづれなり」連体形活用語尾
 ⓒ過去の助動詞「き」連体形
 ⓓ存続の助動詞「り」連体形
 ⓔ自発の助動詞「る」連用形+完了の助動詞「ぬ」終止形
問2
⒜エ ⒝イ ⒞ア

〈解説〉(問1のみ)
ⓐは有名な撥音便の形なので、先生方は問いたくなるところです。
通常、伝聞・推定の助動詞「なり」は活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の終止形に接続します。ただし、ラ変型の活用語(「あり」・「べし」など、「ら・り・り・る・れ・れ」に近い形で活用する語)の場合は、連体形に接続します。
ラ変型活用語の連体形に伝聞推定の「なり」が接続すると、「~るなり」となりますが、「る」の部分が変化する場合があります。「あるなり」を例に説明しましょう。

図のように、「あるなり」の「る」が「ん」に変わることが多いです。これを、「撥音便(はつおんびん)」と言います。また、撥音便化して出てきた「ん」は省略されることがあります。これを「撥音便無表記」と呼んでいます。
なお、この現象は伝聞推定「なり」に接続するときに起こるものです。

ⓑは形容動詞「つれづれなり」の活用語尾です。

「つれづれなり」は重要単語なので、口語訳を求められることもあります。

ⓒについても、「し」の識別としてよく問われます。

今回は、「つき」(=カ行四段活用動詞「つく」連用形)に接続していること、「薬師仏」という体言が続いていることから、過去の助動詞だと判断できます。

ⓓとⓔについては、「る」・「れ」の識別としてよく見られるので、取り上げてみました。


ⓓについては、四段活用動詞已然形の「たまへ」に接続しているので完了存続の助動詞。ここでは「お立ちになっている」と存続で訳せるので存続。ⓔは、四段活用動詞未然形「泣か」に接続しているので、尊敬受身自発可能の助動詞です。どの意味になるかは、下の図を参考にしてください。

ⓔは「ぬ」の識別です。


このように、「ぬ」が終止形か連体形かが分かれば、打消か完了かが分かります。今回は、「ぬ」が文末、すなわち終止形で用いられているので、「ぬ」は完了です。
完了の「ぬ」は連用形に接続します。したがって、「れ」が連用形で用いられていることが分かります。
今回取り上げた文法は、識別でよく問われるものです。それぞれ根拠も含めて理解しておくと、定期試験や受験で役立つのではないでしょうか。

ちなみに問2のくわしいことは書きませんが、

・元の和歌の「見」は「結婚する」という意味
・『更級日記』の序盤は、物語(特に『源氏物語』)を読んでみたいという強い欲望にとらわれた少女の話になっていること

をふまえると、考えられるのではないかと思います。

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