Chris Dave & The Drumhedzを見た 20.02.20

クリス・デイヴがどれ程すごいのか、一昨年の来日を父と見に行くまで、実はあんまり分かってなかったかもしれない。それまでにもChris Dave & The Drumhedzの来日を見たはずなのだが、席が遠かったか、眠くてろくに見られなかったかで、ぼんやりとしか覚えていなかった。

父は若い頃ドラムをやってて、スティーヴ・ガッドが好きだ。その影響で僕もジャズやフュージョンを聴きだし、父にドラムを教わったのは高校の頃。ライブに行ってもまずドラムに目が行き耳が行く。そもそもドラマー目当てでライブに行くこともザラだ。スティーヴ・ガッド、ハーヴィー・メイソン、デイヴ・ウェックル、デニス・チェンバース、とまぁフュージョン時代のドラム・ヒーローだが、彼らのプレイを目の前で見て、そのパワーとテクニックと引き出しの多さに何度ノックアウトされ、ヘトヘトになって帰ったことだろう。
一昨年、父と連れ立ってクリス・デイヴを見に行った。ドラムが見えやすい席を予約したのだが、凄まじいドラムを目の当たりにして、父と二人ノックアウトされ、ヘトヘトになって帰ったのだった。
前述した伝説的ドラマーたちのプレイは、どれだけテクニックが高度になっても、まだやっていることが理解できる範疇にあった。しかしクリス・デイヴのプレイは、そういったドラムの歴史の上にありながら、これまでのドラムのテクニックでは説明出来ないアイデアやテクニック、ドラムの奏法の前提を覆すかのようなプレイで、もはや父や僕の理解を超えたものだった。だからそれは、今まで以上の体験だったかもしれない。
僕は『Black Radio』や『Double Booked』、Drumhedzのミックステープやアルバム、ディアンジェロ、宇多田ヒカル(「あなた」のドラムは最高だ!)、その他YouTubeの動画も色々見てきたし、一度The Drumhedzでの来日を(ぼんやりとしてはいるが)見てはいるから、クリス・デイヴのことをまぁ割と分かっているつもりだった。でも全然甘かったということを思い知らされた体験だった。

そんな忘れがたいライブを経験して以降、僕にとってクリス・デイヴは ”来日するならば見に行かねばならない” ミュージシャンの一人に加わり、今年も来日公演を見に行くことにした(ちなみに父は参加できず)。一昨年に見た公演と同じような凄まじいプレイが見られるとは思わないが、でもちょっと期待しているところもあった。

まぁ、そんな期待はそうそう叶わないものだ。一昨年見た時のクリスは調子も機嫌もよかったんだろう。しかしそれ自体は問題ではない。今回はクリスの個人プレイよりも、Chris Dave & The Drumhedzというバンド、メンバーのこのバンドにおけるポテンシャルの高さを感じるライブだった。
高度なミュージシャンが集うバンドは、秩序を保ちながら個々のミュージシャンが自由な演奏をしていて、このバンドも例外ではない。むしろ個々のミュージシャンが自由であることがこのバンドの音楽を保つ秩序、というように感じる。すごく自由にリズムで遊びながら、曲もしっかり成立しているし、曲は存在しているけどリズムセッションかのよう。パーカッションもいることでリズム的な音数が多く、音の重なりはカオスな印象すらあったが、その上でメロウな楽曲をしっかり聴かせる。その印象の多くは、バンドの行き先を決めながら、誰よりも自由に演奏するクリス・デイヴのドラムに引っ張られている感もあるが、それにしてもこんなサウンドの、こんなライブを見せるバンドを他に知らない。共演も多く、ヒップホップが下地にあるという共通性などもあって、Robert Glasper Experimentとどうしても比較してしまうが、それとはまた違う新たな次元にThe Drumhedzは進んでいるのだろう。

期待とは違ったライブとはいえ、圧倒され、充実感を得たライブだったのは間違いない。やっぱりクリス・デイヴは来る度見に行かなきゃな、と改めて思う帰り路だった。


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