終わらない夢

#小説 #日記

時々見る夢。
それは本当に時々で、覚えていないだけで実は頻繁に見ているかもしれない夢。

帰り道、いつもの道。すれ違う人々の違和感に私は気づく。
白塗りのような、仮面のような、そんな顔の子供たちがこっちを向いて笑ってる。
私のことを追いかけているかのように、どこに行っても気づけば正面に、後ろに、横にいる。
不気味で、私は逃げ惑ううちに思い出す。

あぁ、これは"夢"だ、と。
それでも安心は出来ない。だってどんなに目覚めを望んでも、逃げることは出来ない。
この夢から逃れる方法は1つしかないことを、私は知っていた。
知っていてそれを実行したくないと望んでいた。
思い出したら始まってしまうことも、この夢はもう過去に何度も見た事を。
思い出した。子供たちの顔は

能面のようだった。


能面の子供たちから逃げて、逃げて、逃げたはずだったのに、気づけば私は屋上まで来てしまっていた。
屋上にはたくさんの女子生徒。
私と同じように集められた、同じ制服を着させられた女子生徒たちは、恐怖と困惑に顔を歪めていた。
能面の子供がルール説明をはじめる。
声はよく聞こえないのに、私にはルールが分かった。
分かっていた。

バケ

ノがくる

ケモ
ノにつかまれ
ばまけ
バケ
モノからに
げれ
ばかち

さがく

までににげ
ればかち
いけに
えをひと
りさしだせ
ばかち
バケモノ
はおまえ

ねらうぞ

私は知っている。
このバケモノを知っている。
バケモノにつかまればどうなるかを知っている。
見たことがある。
思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ

"前に来た時どうやって帰ったか思い出せ"

思い出した。思い出さなきゃよかった。
私は、前に来た時は女子生徒の1人を生贄として差し出したのだ。
泣きそうに歪めた顔を必死に笑顔に取り繕って、私の命で救われるならと自らバケモノに食われて行ったあの子のことを思い出してしまった。
いやけれどどうして忘れてしまっていたのだろうか。

ここに来るまではすっかり忘れてしまっていた、バケモノに食われながら泣き叫ぶ彼女の顔を。
どうして私は忘れていられたのだろうか。
きっと今回も鍵は私。
けれど今回は絶対に逃げてやる。
そう心に決めた瞬間、私は、全身の皮膚が粟立つのを感じた。
うしろに、バケモノがいた。

バケモノは、胴体が全て毛むくじゃらで目はギョロギョロと血走っている。顔をはシワだらけで、口裂け女のごとく裂けた口からだらだらとヨダレを垂らしていた。
毛むくじゃらのからだから伸びる手足は、人間のそれのようでいて、ほそく長い、気持ちの悪いものだった。
私は2本の足をばたつかせながら走って、飛んで、駆け抜ける。
そんな私を嘲るように、4本の手足を器用に這わせて、あっという間に私に追いつこうとする。

恐ろしくて今にも泣いてしまいたいのだけれど、そんな間もなく逃げるしかない。
人混みをかき分け、走り抜ける。

人混みをなぎ倒し、追いかける。

どれほど走った後だろうか、目の前には下へと降りる螺旋階段があった。

私は、階段ではなく螺旋階段の中心にある空洞めがけて飛び込んだ。

逃げるには、飛び降りるしかない。

咄嗟の判断だった。

頭の上に、遠くからバケモノの叫び声が聞こえてくる。
固く目を閉じたまま、落ちていく。

次の瞬間、私は夢から解放された。

はたして本当に逃げれたのだろうか?
もしかすると、このハッキリとした現実世界の方が夢で、恐ろしい現実から逃げ出すために生み出された世界に逃げているだけではなかろうか。
本当にここは、現実なのだろうか、分からないまま私は布団から抜け出した。

寝覚めの悪い、朝の記憶。


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