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コーヒーが飲めちゃう大人だ

今年の下旬、わたしは突然コーヒーが飲めるようになった。

コーヒーはわたしの憧れで、クリームソーダは夢です。

わたしは食べ物の好き嫌いがないひとになりたい、なってみせます!と、はたちになったときに誰にも頼まれてないけど自分の中で決意をして、エリンギなどのきのこ類やグリンピースとか豆類全般、そしてお豆腐など苦手だったのと、料理だとスパゲッティとお蕎麦と、日本のカレーライスが苦手だったので、全部を克服した。

克服してから、友だちに食べ物の好き嫌いもうないの!なんでも食べられるよ〜って言ったら、えらいね!って言われたり、どうして?好き嫌いしても別にいいんだよって言われたりしたけど、わたしがなぜ好き嫌いをなくしたかったかというと、食べ物の選択肢が増えたらその方が人生がたのしそうだからで、人にも迷惑をかけないからだった。

例えばライブのあと、みんなでご飯食べようってなった時、パスタ屋さんが、、あ、ここねんスパゲッティ苦手だよね!!!違うところにしよう!とか、迷惑女すぎ!って思って。(わたしはなにか人に自分が迷惑をかけたな、と思うと、いつも心の中で、「わたし"迷惑女"すぎだろ!」と言っている)
(TRASH-UP!!のみなさんは優しいので、絶対迷惑女だなんて思ってないのはわかっているけれど)

食べ物の好き嫌いというのは、本当に嫌いで食べられるようになりたいものと、食べられたらかっこよさそうだし便利だから食べられるようになりたいものがある。

その後者としての一つが、食べ物ではないけどコーヒーだった。
コーヒーは苦い。コーヒーは大人の飲み物。
コーヒーが飲めたらきっとかっこいい。
それからコーヒーは、喫茶店とかでドリンクセットにしたいときの選択肢に必ずあり、コーヒーが飲めさえすればかなりお得だ。

わたしはコーヒーに挑戦したい気持ちがありつつ、そもそもクリームソーダが好きだし、いつもクリームソーダか、あたたかいのがいいときは、ホットココアしかみてなかった。クリームソーダは大体700円くらいはするし、ごくごくはしないけど、もしかしたらごくごくいけちゃうやつなので全くお得ではない。

わたしはスタバのソイラテが大好きだ。
コーヒーは豆乳を入れれば、無糖でも全然イケることはわかっていた。わたしは今年の夏、特にスタバのソイラテを欲し、よく飲んでいた。けど、家の近くにスタバがあるようなところには住んでないので、家の中でソイラテが飲みたくなった時、絶望に近い気持ちになっていた。そこで、ブラックコーヒーと豆乳を買ってきて、自分でソイラテを作ろう、と試みたのが、わたしがコーヒーを突然飲めるようになるきっかけとなった。

早速ブラックコーヒーと豆乳を用意したわたしは、夏だったので冷たいソイラテを作ろう!と思い立ち、まずグラスに氷を入れて、コーヒーを注いだ。そうしたら、氷は茶色になり、コーヒーは透き通って、なんだかきれいだなと思って眺めていたら、ちょっと豆乳入れる前にひとくち舐めてみようかな?という気持ちになった。ちいさなちいさなひとくち。え?!イケるな、全然イケる!わたしは家の中で、コーヒー飲めた!!!と叫び、すぐさま母にコーヒー飲めたよ!と報告した。そうしたら、アイス?アイスコーヒーも飲めなかったんだね!ホットでも飲んでみないとわからないよと言われ、わたしはホットコーヒーに必ず挑戦してやるからな、とさっきまで眺めていたアイスコーヒーを今度は睨み返した。

しかしアイスコーヒーでもコーヒーを飲めるようになったのはうれしい。ちょうどその次の日だったと思う、すずめ園(ひだりききクラブ)と会う約束をしていたので、一緒に歩きながらその自慢とも言える報告をすると、ここねちゃん、大人になっていくね!なんて言われた。大人になるのは寂しいけど、わたしはこれからもクリームソーダも大好きなので、なにがかわからないけど、大丈夫な気がする。

ホットコーヒーにようやく挑戦できたのは9月だった。残暑の中、突然大雨が降ったあの日、偶然駆け込んだ本屋さんではLITTLE TEMPOが流れ、漫画コーナーに「ガラスの仮面」がしっかり最新まであり、「綿の国星」がなんと今更平置きされていた。わたしはその頃ホラー漫画にも挑戦したかったので、その最高な少女漫画ゾーンを後にして、楳図かずおの「漂流教室」を探した。
楳図かずおはわたしの叔母が好きで、母も読んでいたから話は聞いていた。猫を飼っている叔母の家に遊びに行って、猫アレルギーのわたしの目が腫れると、母は決まって"タマミ"になってるよ。と何も知らないわたしに向かって言うのであった。しばらくわたしは目が腫れることを"タマミ"と言うんだな、と間違って認識していた覚えがある。
まだ読んだことはないけど、"タマミ"というのは、楳図かずおの「赤んぼ少女タマミ」という作品に登場する、まさに目が腫れ上がっている赤んぼ少女のことである。画像で見ると、これに例えてたなんてひどいくらいかわいくないタマミだけど、伝わらないのに子どもに言い続けるなんて、わたしの母はやっぱり変でおもしろいと思う。
とりあえずタマミより先に「漂流教室」を読んでみたかったわたしは、その本屋さんに全巻並んでいるのを見つけたけど、怖い話は完全にシャットダウンするくらい無理なので、試しに1巻だけをレジに持っていき、本屋さんから出ると、大雨が小雨に変わっていて、近くの喫茶店に入った。

ホラー漫画にも挑戦するし、ダブルで挑戦してやろうじゃないか、と気合を入れてついにそこでホットコーヒー(本日のブレンド)を注文した。誰かと一緒なら、もし自分が飲めなかった時、飲んでもらえるかもしれないけど、ひとりなので逃げ場がない。ホラー漫画も、もしやっぱり怖くて無理だった時、わたしは手元に他の暇つぶしを持っていないので逃げ場がない。あの喫茶店でここまで自分を追い込んでいた人間はわたしだけだろう。

テーブルに届いたコーヒーカップの中身には、液体の暗闇が光っていた。湯気の立つそれをおそるおそる口にするとたしかにそれは苦く、かすかに酸っぱかった。飲めた。あったかい。大人だ、ほかほかのにがにがの、コーヒーが飲めちゃう大人だ。

楳図かずおの「漂流教室」1巻を読んだ。教室がどかんとどこか別の次元に逝ってしまったらしい。それはたしかに怖かったけど、おもしろかった。もうホラー漫画をたのしんで読めるしコーヒーも飲めちゃう大人だ。

1巻読み終わって喫茶店を出ると、雨が止んでいて家に帰った。

それからわたしはコーヒーにハマり、12月になった今では朝や食後にコーヒーが欲しくなる大人になってしまった。

コーヒーは真っ黒だ。コーヒーを見つめると、こんなに黒いものを飲んでいいのだろうかと言う気持ちになる。こんなに黒い液体は、届いた時はアッツアツでたっぷりの湯気に包まれていて、猫舌のわたしはすぐに飲めないのに、冷めるのを少し待つとあっという間に冷たいホットコーヒーになってしまう。

冷めるのを見送りつつ、このnoteを書いていた。
いまわたしは真っ黒で実は少し茶色の、
冷たいホットコーヒーを飲んでいる。

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