はじめに
みなさん、「多様性」って言葉は好きですか?たぶん、ほとんどの人が、「うん、当然」「多様性はみんなの個性を認めること!だから、OK」と肯定的な意見になるかと思います。今回は、その「多様性」に関するお話です。はじめに、「多様性」の定義を引用します。
生物多様性を巡る世界の動き
生物多様性
まずは、「生物多様性」とは何でしょうか。生物多様性センターが、「生物多様性」について説明している箇所があるので、引用します。
なんか、多様性のゲシュタルト崩壊を起こしていますが、生物多様性条約では、多様性を3つのレベルで分けています。生物多様性も細分化されているんですね。
生物多様性条約
生物多様性条約は、1992年2月ブラジルで開催されたリオサミットを契機として、「砂漠化対処 条約」「気候変動枠組条約」とともに結ばれました。
条約を締結した目的として、「生物の多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」といった、生物多様性を守るために、先進国が途上国に対して、技術支援や経済的支援をしていこうということになります。
社会の教科書でよく出てくる「リオサミット」で締結された「生物多様性条約」は、現在194か国とEU・パレスチナ(米は未締結)が締結国として、日々、生物多様性について議論されています。今や当たり前に言われている「バイオテクノロジー」「持続可能な開発」が1992年から世界に出始めたことが分かります。
昆明・モントリオール生物多様性枠組
生物多様性条約が締結、1993年に発効されてから、2年に1 度の頻度で締約国会議(COP)が開催され、上記の3つの目的に対する議論や締結国間の政策的な決定を行ってきました。2010年には、愛知県名古屋市で締約国会議(COP10) が開催され、世界的な目標となる「愛知目標」が採択されました。「愛知目標」とは、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10)で採択された、生物多様性の損失を止めるために設定した「20の個別目標」になります。20も目標があるので、引用が大変ですが、コンパクトにまとめたサイトがありましたので、そちらを引用します。
うん、多い。それ以降、2019年、2020年における会議での議論や取り決めをしていきながら、2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。具体的にどんな枠組みを採択したのでしょうか。
2050年ビジョン、2030年ミッション、2050年グローバルゴール、2030年グルーバルゴールなど、長期的なスパンで、生物多様性に関する数値目標が設定され、進捗状況をモニタリングし、レビューする仕組みも採択されました。その「2030年グローバルゴール」には、以下のような考慮事項が追加されました。
なんか既視感があるなと思っていたら、「あれ?SDGsじゃない?」ということに気づきました。いや、実際は違うのですが、なんか似たようなものを感じます。詳細の目標は、あまりにも多いので省略しますが、気になる方は、生物多様性センター「昆明・モントリオール生物多様性枠組」をご確認ください。
生物多様性を巡る日本の動き
生物多様性基本法
生物多様性を巡る世界の動きを見てきましたが、日本の動きはどうでしょうか。まず、日本には「生物多様性基本法」という法律があります。生物多様性基本法」とは、「生物多様性の保全と持続可能な利用に関する施策を総合的・計画的に推進することで、豊かな生物多様性を保全し、その恵みを将来にわたり享受できる自然と共生する社会を実現すること」を目的としています。平成20年5月に成立し、同年6月に施行されました。生物多様性基本法には、以下の記載がなされています。
国の責務として、基本法に明記されている基本原則に則った施策の策定及び実施を求めています。そこから、国は「生物多様性国家戦略」というものを策定していきます。
生物多様性国家戦略 2023-2030 ~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~
「生物多様性国家戦略」とは、「生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づく、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の基本的な計画」です。日本では平成7年に最初の生物多様性国家戦略を策定し、これまで5回の見直しを行ってきました。現行の生物多様性国家戦略は令和5年に策定した第六次戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」となります。今回の戦略の大枠としては、以下のようになっています。
この国家戦略は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応したものであること、それに伴い、2030年の目標を意識していること、「ネイチャーポジティブ」「30by30」を推進していることが伺えます。具体的には、以下のようになっています。
ネイチャーポジティブ
ネイチャーポジティブとは、「生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること」を意味します。2050年ビジョンの目標では「自然と共生する世界」を目指し、それを実現するための考え方が「ネイチャーポジティブ(自然再興)」です。日本では、2023年2月28日の第一回J-GBF総会において、J-GBFのコミットメントとして「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」を発表しました。
30by30
「30by30」とは、「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標」です。現在の日本は、「陸域20.5%と海域13.3%」を保護地域として保全しています。
地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案
法案内容
今回の法律案は、「ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現」に向けて、提出されたものです。では、どのような措置を講じるのか。以下、引用になります。
大枠として、「生物多様性増進活動実施計画等の認定制度の創設」「協定制度の創設」をあげています。
増進活動実施計画等の認定制度の創設
認定制度の創設は、以下の条文が明記されています。
生物多様性増進活動を計画している者に対して、計画の認定制度を実施するとのことです。企業や市町村または行政と連携する団体が、計画を策定し、主務大臣に申請します。その計画を基本方針に沿って、主務大臣が精査し、認定するという流れになります。ちなみに、市町村の場合は、計画名は「連携増進活動計画」になります。「自然共生サイト」というHPがあり、先行事例として、2023年に認定された事業は184か所あり、詳しい内容が載せられています。また、認定を受けた企業や市町村は、その活動内容に応じて、「自然公園法・自然環境保全法・種の保存 法・鳥獣保護管理法・外来生物法・森林法・都市緑地法における手続のワンストップ化・簡素化 といった特例」を受けることができます。
協定制度の創設
次に、法律案では「協定制度の創設」です。以下、条文です。
認定を受けた市町村等は、土地所有者などと「生物多様性維持協定」を締結することができ、 長期的・安定的に活動が実施できるようになっています。土地所有者と協定を結ぶことで、行政による生物多様性の事業がよりスムーズになることが予想されます。実際に、これとは性質は異なりますが、地方自治体によって、生物多様性のパートナーシップなどを結んでいるところがあります。例えば、京都府京都市では「生物多様性パートナーシップ協定制度」が締結され、以下のような仕組みになっています。
このような協定が日本全国の地方自治体で結ばれることになりそうです。
法案への質問
認定制度の創設で、民間企業の取り組みをどれほど推進させる見込みなのか。
法案への質問として、生物多様性における民間の取り組みに、認定制度を設ける意味です。認定制度を設けることで、企業等の施策に付加価値をつける狙いはあるのでしょうが、民間企業の取り組みをどれほど推進させる見込みなのか。環境省に問いたいです。(ちなみに、私自身は生物多様性を実現するために、企業に対して、環境減税や環境事業に対する規制を改革することによって、自然と取り組めるようにすべきではないかと考えます)
生物多様性の取り組みの財源として、増税を推進させることはあってはならない。
生物多様性の事業には、「生物多様性保全推進支援事業(交付金)」があります。交付金を貰える事業は以下のようになっています。
各事業ごとに、どのくらいの交付金が出されているか、自分の調査で判明しなかったので、不明ですが、「自然共生サイト内 における生息環境の保全再生」の事業は、「重要生物多様性保護地域 等保全再生」の事業対象とされ、交付率や交付額は「事業費の1/2以内」とされています。
今後は、認定制度や協定の締結が拡大することが予想される中、補助金の申請が増加することも考えられます。国として、財源確保のために安易な増税や規制強化をしないようお願いしたいです。申し訳ないですが、政府には、生物多様性に限らず、環境行政において「環境のためなら、何をやってもいい」という姿勢が垣間見えます。まずは、レジ袋有料化。レジ袋の有料化は2020年7月から開始されましたが、結局何をもたらしたのでしょうか。地球の環境は良くなったのでしょうか。二酸化炭素は減ったのでしょうか。(そもそも、二酸化炭素の増減がなんなんだという問題もありますが、、)森林環境税もそうです。森林環境税を導入して、日本はどうなったのでしょうか。目的やゴールも曖昧で、残ったのは、増税という制度だけです。具体的なゴールが曖昧なまま、「生物多様性のために仕方がない」という理由で、増税がなされるのは是非避けてもらいたいです。
実際に、「生物多様性国家戦略2023-2030」において、「基本戦略4 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動(一人一人の行動変容)」があり、以下のような目標が掲げられています。
国民の生物多様性に対する行動変容を促す記述があるので、その勢いで、第二の「○○の有料化」「絶滅危惧種につながる恐れのある食品は販売禁止」など、新たな課税や規制が出てくることを危惧しています。
事業に対する評価方法を全自治体で統一するべきではないか。
「自然共生サイト」では、数多くの事業が紹介されています。数多くの事業の計画を読んで思ったことが、「この事業にどれほどの資金をつぎ込んで、どの部分で多くのお金を費やしたのか?」ということです。そこの部分が非常に不透明だと感じます。地方自治体が新たな協定を結ぶことで、生物多様性の事業を進展させていく中で、事業内容の透明化を図ることは不可欠です。生物多様性基本法が平成20年に施行され、生物多様性地域戦略の策定が地方公共団体の努力義務になり、各自治体の生物多様性地域戦略が公表されています。目標は素晴らしいことをいっぱい書いていますが、評価項目や評価方法に差が見られます。中には、行政事業を評価する「事務事業評価」を行っていない自治体もあり、評価の面に関しては弱さが目立ちます。国家戦略の一つに、国民の行動変容を促すということを目指すならば、生物多様性に関する事業への定量的な評価制度は、全自治体で統一させるべきでしょう。理想的な評価モデルは、東京都府中市の事務事業評価です。事業に対する評価の部分をどうするのか、政府に問いたいです。
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/gyosei/gyosehyoka/gyouseihyouka.files/fuc23b07a_e35administrative_evaluation.pdf
生物「人間さん、ほっといてくれ」
最後に、私の考えを述べたいと思います。今、この瞬間も世界中、生物は活動しています。世界のどこか、絶滅したり、新しい命が生まれたり、、。
みなさん、世界中では、「新種」の生物が日々出てきていることはご存じですか。そうなんです。絶滅危惧種もいれば、新種もいるのです。
メコン地域では、224種の新種が発見され、中には「生息状況に関する情報が足りず、絶滅の危機にあるかどうかすら判断できない種も見つかっています。」
つまり、人間の知らない生き物が世界には山ほどいるのです。絶滅危惧種を声高に叫ぶのもいいですが、生物界は生物界で、新陳代謝を繰り返しているのではないでしょうか。地球環境の変化で、適応できずに絶滅をしてしまう生物もいれば、新しく誕生する生物、適応して生き残る生物もいるでしょう。それを無視して、「この生き物は守らないといけない」「この生き物は害獣だから、駆除する」なんて決めるのは、「生物多様性」ではないような気もします。ともあれ、生物多様性の推進のために、増税と規制強化をするのは断固反対です。
たぶん、世界中の生物たちが思っていることを代弁します。
「人間さん、ほっといてくれ!!!!」