「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」の調査について(NHK党浜田聡参議院議員のお手伝い)
はじめに
はじめまして。さかサキ減税副業派と申します。今回は、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」についてお話します。本法案は、令和5年2月21日の閣議で決定されました。日本語教育政策は、長年に渡り、各方面で議論がなされてきました。実は、私、大学時代、日本語教師を目指して、日本語教育について学んでいた経験があります。話の流れとして、日本語教育の諸事情を説明し、今回の法案を、歴史的背景を踏まえながら、お話します。そして最後に、法案の問題点や疑問等を書いていきます。
資料:「政府 日本語教師を国家資格にする法案決定 今国会で成立目指す | NHK | 教育」
日本語教育の実態
まず、日本語教育とは何でしょうか。日本語教育の定義として、今回の法案では次のように定義づけています。以下、引用です。
つまり、「日本語が母語ではない」外国人が日本で生活するために、生活に「必要な日本語」を習得し、生活の中で使用できる力を身につけさせる教育を日本語教育と定義しています。さて、日本語教育の学習者の数はどれだけいるのでしょうか。文化庁の「令和3年度日本語教育実態調査報告書」において、以下のようになります。
日本語学習者数は「12万3408人」であり、令和2年度の「16万921人」からは減少していますが、「出入国管理及び難民認定法」が改正、施行された平成2年末からの推移を見てみると、全体的に増加傾向といえます。学習者数の内訳では、「アジア地域の外国人が一番多く、アジア地域の中でも、中国人が最も多いです。(次に、南アメリカ地域・北アメリカ地域と続きます)」となっています。また、日本語教師等の数・日本語教育の教育機関や施設の数も、増加しています。ちなみに、日本に在留する外国人は令和4年6月末時点で、「約296万人」と発表されています。(出入国管理庁のHPを参照)
今度は日本語を教える側である講師の数について、お話します。先ほど引用した「日本語教育実態調査報告書」では、日本語教師等の数は、「3万9241人」です。内訳は、以下のようになります。
日本語教師の職務形態は、ボランティア・非常勤・常勤と3種類になります。では、どこの機関に勤めているのでしょうか。
法務省告示機関とは、「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令の留学の在留資格に係る基準の規定に基づき日本語教育機関等を定める件」にて定められた教育機関のことを指します。簡単に言うと、法務省で「この機関は日本語教育をしていいですよー」と許可をもらった機関を指します。国際交流協会とは、「自治体に窓口がある、または自治体の外郭団体などで多文化共生や国際交流を推進している団体」をまとめて言います。
今度は、日本語を学ぶ所はどういう機関が存在しているのでしょうか。全体の動向としては、以下のようになります。
全体としては、「2,541」の機関があり、内訳として、先ほどご紹介した法務省告示機関や国際交流協会の他に、大学や地方公共団体・教育委員会などがあります。国際交流協会の中には様々な団体が存在するので、幅広い日本語教育が展開されていると言えます。
ここまで、日本語教育の実態を見てきました。次は、今回提出された「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」の内容をお話ししたいと思います。
今回の法案について
まずは、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」の提出に至るまでの日本語教育における政策過程を見ていきます。日本語教育に関しては、平成19年7月25日に戦後初めて「日本語教育」を名称に冠する国の審議会として文化審議会国語分科会で設置されました。会の名称は「日本語教育小委員会」です。会議の回数は、117回を数え、この審議会の議論を経て、現在の日本語教育の体制整備が進められていると言えるでしょう。その中で、令和元年6月に超党派による「日本語教育推進議員連盟」が旗振り役として「日本語教育の推進に関する法律」(通称:日本語教育推進法)が制定されました。成立背景には、在留外国人が増加していく状況で、日本語教育へのニーズの高まりがあります。
その後も、日本語教育に関する議論は継続して行われました。令和2年6月「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」において、「日本語教師の資質・能力を証明する新たな資格の制度設計を行い、必要な措置を講ずる」とされました。この決定を踏まえ、今回の国会で、上記の法律案が提出されるに至りました。
では、どこにフォーカスを当てているのか。当該法案の注目点は、この二点です。「日本語教育機関の認定制度の創設」と「認定日本語教育機関の教員の資格の創設」(いわゆる、「日本語教員の国家資格」)になります。
一点目は、「日本語教育機関の認定制度の創設」になります。現在、日本語教育機関の設置に関しては、「日本語教育機関の告示基準」という資料で、こう述べられています。
つまり、日本語教育機関の設置に関して、出入国在留管理庁が当該教育機関は設置しても良いか否かの判断基準を出し、法務大臣を通して文部科学省に「意見」を聴き、その上で自身の基準において告示をするという形になっています。今回の法案では、このような変更がなされます。
今までは、文部科学大臣は「意見」を述べるだけでしたが、今回の法案では、日本語教育機関から設置の申請が出され、設置基準に適合した機関には文部科学大臣が「認定」をするという形になりました。文科省に一本化された形でしょうか。(2月28日訂正)更に、認定を決める際の基準は以下のようになります。
今回の法律案は、第二条に「日本語教育機関の認定」とあり、設置者が文部科学省に申請書を提出しなければならないこと、設置者が必要な能力と設置機関体制に関する基準が細かく定められています。
次に、「認定日本語教育機関の教員の資格の創設」です。従来の日本語教師の資格取得に関しては、以下の図のような形になります。
上記の図にあるように、大学で日本語教育科目を修了するというパターン、高校・大学・短大・専門学校卒業後、日本語能力検定試験に合格するパターン、日本語教師養成講座420時間コースを修了するパターンと様々な方法があります。これを今回の法律案だと次のような変更になります。
認定日本語教育機関において日本語教育を行うために、指定試験機関で実施される「基礎試験」「応用試験」に合格し、なおかつ登録実践研修機関で行われる実践研修を修了した者が、「登録日本語教員」として認定日本語教育機関で日本語教育ができることになります。ちなみに、「登録日本語教員養成機関での養成課程」を修了した者は、基礎試験は免除になります。日本語教員希望者は、国による一元管理の下で日本語教員になる(続ける)ために資格取得を目指すことになりそうです。
筆者の意見
ここまで、日本語教育の実態、今回提出された法案の内容についてお話しました。最後に、法案の問題点や疑問点を踏まえながら、私(筆者)の意見を述べさせていただきたいと思います。
一つ目が、そもそも論として日本語教師並びに日本語教育機関を認定・資格制度にすることの意味です。本法案では、趣旨として「日本語教育の適正かつ確実な実施を図り、もって我が国に居住する外国人が日常生活及び社会生活を国民と 共に円滑に営むことができる環境の整備に寄与するため、日本語教育機関のうち一定の要件を満たすものを認定す る制度を創設するとともに、認定日本語教育機関において日本語教育を行う者の資格を整備する」と書かれています。確かに、日本語教師の国家資格と日本語教育機関に認定制度を導入することは、日本語教育を受ける外国人学習者側にとって、国のお墨付きをもらった機関で学ぶことは安心感がありますし、教員側も「国家資格」というブランドを得ることで、日本語教員という身分が保障される可能性もあります。しかし、予想される事態としては、日本語教育における教師人材の硬直化が起きてしまうのではないかと危惧しています。従来の場合は、大学の日本語教育科目を修了・試験の合格・420時間コースの履修取得があり、希望者の立場に応じて、日本語教師を目指すことが可能でした。そうではなく、試験と実践研修が国の管理で段階的に義務付けられたことで、経済的な事情や時間的なコストで断念してしまう人が増えてしまうのではないでしょうか。手数料や研修代など費用はかかるのは当たり前ですが、本来なら420時間のコースの講習費用を出すので精一杯という人が、試験費用もプラスされたことで、日本語教師になることを断念してしまう恐れがあります。そうなると、限られた人材だけが日本語教員になり、人材不足が起きてしまうのではないでしょうか。これでは、日本語教育の水準維持向上は長期的に見て難しいと思います。日本語教育機関の認定制度でも同じことが言えます。私自身も、悪質な運営をする日本語教育機関は排除されるべきであり、悪質な機関で教育を受けてしまった外国人学習者が日本に対して、マイナスなイメージを持つことは避けなければなりません。しかし、文部科学省に申請し、文科省の認定が必要になることで、経済的・時間的なコストが生じ、日本語教育機関の減少を招いてしまうのではないでしょうか。経済的に余裕のある機関なら大丈夫でしょうが、経営規模の小さい所は、諸々のコストや制約を嫌って、日本語教育事業から撤退してしまうのではないでしょうか。そうなってしまえば、本法案に明記されている「日本語教育の適正かつ確実な実施」ができなくなる可能性が考えられます。文科省は、「日本語教育機関の認定制度の創設等」で、規制に関する評価書を掲載していますが、より踏み込んだ規制評価を実施し、目標を数値化する取り組みを実施すべきではないかと思います。
二つ目は、日本語教育というのは、国(政府)が定義する必要はあるのかという問題です。ここまで、日本語教育の定義を法律等で引用してきました。逆に問うと、「国が定義している範囲外の「日本語教育」は日本語教育ではないのか。」という疑問があります。外国人学習者一人ひとり、日本語を習得する目的が異なるように、日本語を学習する内容も違うでしょう。国(政府)が「日本語教育というのはこうである」と定義づけるのではなく、ある程度規制を緩和した中で、幅広い日本語教育を各機関で高めていく方が、日本語教育の水準維持・向上には有益ではないかと私は考えます。もちろん何度も言うように、悪質な教育機関は排除されるべきです。しかし、必要以上の規制は、却って民間による競争を冷まし、画一的な日本語教育しか生まれない可能性があります。日本語教育業界のパイが縮小し、悪質な事業者が延命してしまうという展開も考えられます。そうなると、日本語教育を通して、外国人学習者が日本に対してプラスのイメージを持つことが難しいでしょう。政府が目指す日本語教育の在り方も、後退してしまう恐れがあります。
本法案に対する疑問点や問題点をまとめると、「日本語教育を学ぶ外国人の数が増えている中で、それに応じて教育機関や日本語教師の数を増やす必要がある。認定制度や資格制度も大切であるが、まずは幅広い人材を確保する必要があるのではないか。規制を設けることで、逆に人材の確保や教育機関の水準維持向上に待ったをかけてしまうのではないか。」「そもそも、日本語教育という定義が難しく、国が日本語教育を定義づける必要性はあるのか。」になります。
もし、私が議員として質問するとしたら、
① 資格制度と認定制度の創設で、日本語教師の数と日本語教育設置機関をどこまで増やしていくのか。数値的な目標があるのか。
② 日本政府は、日本語教育をどういうプランで展開させていくのか。中長期的な計画を教えてほしい。
以上で、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案」の調査結果です。最後まで、お読みいただきありがとうございます。