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「女の人だって負けてるわけじゃない」大九明子監督が映画『私をくいとめて』に忍ばせた思い

皆さんこんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第5回、担当は坂野(大学3年生)です。よろしくお願いします。

さて、今月14日に映画「私をくいとめて」のDVDが発売になりました!
今作の監督を務める大九明子さんは、ヨコハマ・フットボール映画祭が今年1月に実施したオンライントークショーに出演してくださり、その際に映画「私をくいとめて」のお話もしてくださいました!
アーカイブも残っているので、この機会に是非ご覧ください。♪

また、トークショーの模様を一部テキスト化した記事も、ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジンで公開しているので、こちらも併せてご覧ください。♪


それでは、ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第5回では、映画「私をくいとめて」の中から、トークショーで大九監督が裏話などをお話ししてくださった場面をいくつか紹介したいと思います…!


映画「私をくいとめて」

まずは、2020年12月に全国公開されたこの作品についてを紹介します。

主演はのんさん。共演に、林遣都さん臼田あさ美さん若林拓也さん片桐はいりさん橋本愛さん他。
のんさんと橋本愛さんの共演が、2013年度前期の連続テレビ小説「あまちゃん」以来だということで、話題になりました。

以下、公式サイトより引用のあらすじです。

おひとりさまライフがすっかり板についた黒田みつ子、31歳。
みつ子がひとりで楽しく生きているのには訳がある。
脳内に相談役「A」がいるのだ。
人間関係や身の振り方に迷ったときはもう一人の自分「A」がいつも正しいアンサーをくれる。
「A」と一緒に平和な日常がずっと続くと思っていた、そんなある日、みつ子は年下の営業マン 多田くんに恋をしてしまう。
きっと多田君と自分は両思いだと信じて、みつ子は「A」と共に一歩前へふみだすことにする。

のんさん演じる黒田みつ子は、一人でどこへでも行き、おひとりさまライフを満喫しています。一人で食品サンプル作り体験教室に参加したり、一人で焼き肉を食べに行ったり…。
劇中では、脳内の相談役「A」と対話をする場面も多く、それゆえに周りから煙たがられることも。
そんな時に恋したのは、みつ子が勤める会社と取引のある会社に勤める、年下の多田くん(演:林遣都さん)。
"いい人"を絵に描いたような彼は魅力たっぷりです…!💐

そして、脳内の相談役「A」の声にも注目してみてください!👀
聞いたことのある声と思う方も多いのではないでしょうか…!

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上司にお茶くみを頼まれた!

物語の比較的前半に、みつ子と、みつ子の先輩・ノゾミさん(演:臼田あさ美さん)が、みつ子の上司・澤田(演:片桐はいりさん)に、来客にお茶を用意するよう頼まれる場面があります。
女性社員が来客へのお茶を用意するということに対しての、大九監督のご意見を伺えました。


大九監督:ノゾミさんの台詞で明確に言ってもらっていますが、「客が来たら誰かが茶を出す。必要悪だね。シンプルに考えよう。」と。手が空いている私たちがやろうよ、という言葉で言いました。
それに関しては、私が大学を出てすぐ4か月だけOLをしたことがありまして、その時に、すごく嫌だったのですが、同期の男性とかに、「手伝ってよ」と言うと、当時はまだ「いや、俺は男だから」という理由で手伝ってくれないとか。
そういうムカつくことがいっぱいあったのは確かなので、そういうことをチラッと忍ばせようと思いました。ただ、「女の人だってそこに負けてるわけじゃないんだよ」「飄々とそこの日常を楽しんで暮らしてるし、なんなら、心の中であなた方を見下してますよ」ということをチラッと言いたいなっていうことで、お茶くみのシーンは描きました。

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この場面は、後ほども触れていますが、お茶を用意してくれたことに対しての感謝を忘れない、澤田さんの素敵な部分が伝わる場面だと思いました!



上司の足元に注目してみると・・・

同じく物語の前半に、澤田が会社を出る際に、靴を履き替える場面があります。
さりげなく描かれているわけではなく、しっかりとした描写であるため、この場面にどのような意味があるのか伺ってみました。

大九監督:片桐はいりさんに演じていただいた澤田という上司ですが、これは原作に全くない役です。主人公をいろいろな世代のいろいろな人間と触れさせたいなと思った中で、自分のオリジナルとして、主人公から見るとすごく優秀に見える目上の女性、そういう人を出そうと思いました。私自身も、この年になるまで、様々な女性の先達と出会って、助けていただいて、励ましていただいて、ということがすごくあったと、振り返ると思うので、主人公にも、「今はまだ心が硬くて気が付いてないかもしれないけど、あなたのことをすごく広い目で温かい目で見守っている女性の先達が必ずいるよ」ということで、澤田という役を描きました。
彼女は部下である主人公に「あ、ごめん、ちょっと今からお客が来るからお茶淹れてくれる?」ということは言うけれど、ビシバシしびれる会議の打ち合わせの中でも、部下が手を伸ばしてお茶を淹れてきたら、トントンと手をたたいて、「ありがとう」と言ってあげるということが瞬時にできたり、コミュニケーションして自分に仕事を捧げてくれた者に対してきちんと「ありがとう」ということが言えたりする上司であります。
ハイヒールに関しては、これは、ヒールはいろいろな議論がされているものではありますが、私の持論として、履きたい人は何でも履けばいいんですよ。ブーツだろうがハイヒールだろうがサッカースパイクだろうが。履きたいものを履きたい人が、男性だろうが女性だろうが、若者だろうが老人だろうが、みんな履けばいいって思っています。
澤田は、はいりさんに演っていただいたので身長が170cmとかあって、大変日本人離れした背の高いスラッとした方です。そういう方って、とても素敵なのに、背を低く見せようとする。もしかしたら男性と並んだ時に、可愛らしく見せたいからとかそういったことで低いヒールを履こうかなというふうに、割と消極的になる方がいらっしゃるんですけど、背の高い澤田のような方こそ、高いヒールを履くとバランスが良くてかっこいいし、澤田は、自分の見せ方がよくわかっていて、それを履いている方が気分が上がるし、仕事も充実すると思っているから、自分で選択して、ハイヒールを履いている。
ただし、机周りで仕事をバタバタしているときは、見えないから脱ぎ散らす。お客さんに会いに行くとか、そういう自分の中でスイッチ切り替えるときはピッと戦闘モードという感じで(ヒールを)履いて出ていくという、前向きな意味合いで私はあそこは描きました。

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感謝の言葉を述べてくれたり、自分のことを気にかけてくれたりする存在がいるだけで、安心しますよね。 澤田さん、素敵な人です。

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酔っ払いに絡まれている人を助けてあげられなかった・・・

物語の中盤頃、みつ子が一人で温泉施設を訪れる場面があります。ここで行われていた、お笑いイベントを観たみつ子は、出演していたあるピン芸人(吉住さん)が酔っ払いに絡まれるのを目撃します。
みつ子は、その芸人をただ見ていることしかできず情けなく思い、自分を責めます。(ここで「A」も重要な役割を果たしているので、ご注目ください…!)
実はこの場面、原作では異なった描き方がされています。その点などを大九監督がお話ししてくださいました。

大九監督:これは原作の中では、中学生の女の子にセクハラをする中年の男のタレント、というものでした。(原作の)綿矢りささんの小説の中で、すごくインパクトもあったし、「わー気持ち悪い」と(感じました)。それは綿矢さんの筆致が優れているということでもあるのですが、具体としてそれを描くことが、ちょっと気持ち悪いなと思いました。
自分の中の、生きづらさというよりは違和感として、嫌だなと思うことが、チラッチラッとあったけど、その時はっきりと「嫌です」って言えなかったこととか蓄積していることをちょっとシナリオにぶつけてみようかなということです。
例えば芸人さんは人を笑わせることが仕事なのに、女性芸人とか、監督もそうですけど女性監督とか、"女性"という肩書に知らないうちにラベリングされていて、それに則した期待をされる。やわらかさとか、繊細さとか、抱きつかれたら喜ぶとか。そういう謎の期待をされることに対して、「いやいや、その期待は困ります」とか「嫌です」ということを、日常の中ではっきり言うべきだったのに言えなかったこととかの、懺悔みたいなことですかね。
そういうことを主人公にさせたくて、主人公の目の前でそういう現象を繰り広げさせ、「さあその芸人さんに対してどういうアクションを起こすんだ」ということを描いたシーンになってます。ご覧になってない方もいっぱいいらっしゃると思うのでなかなか説明しづらいですけどね。なので、殊更にセクハラに対して、何か強烈に私が訴えたいことがあるっていうことではなかったんですよ。

🍤🍤🍤

ちなみに、なぜこの温泉施設に行くことになるのか、その経緯も劇中で描かれているので、ご注目ください…!



大九監督、たくさんの貴重なお話をありがとうございました!



DVD情報

最後に、映画「私をくいとめて」のDVD情報のご紹介です。

映画「私をくいとめて」
DVD発売中(税込4,180円)
販売:東映
発売:東映ビデオ

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Amazon Prime Videoでの配信もあるので、ぜひこの機会にご覧ください…!


個人的には、みつ子と、橋本愛さん演じる皐月の久しぶりの再会の場面からの物語と、劇中歌である大滝詠一さんの「君は天然色」が流れる場面の数々が好きです。🥰

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最後までお読みいただきありがとうございました。
ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第5回、担当は坂野でした。
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次の記事もお楽しみに…!

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