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吉本ばなな的幸福!

 「幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ」
 吉本ばななの『キッチン』の一節だ。
 そうそう!そうなんですよ。
 みんな孤独を嫌悪し、孤独から逃げようとする。それはもちろん、一時的にでも「幸福」になろうとする逃避行動である。当たり前なのかもしれない。
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 好きでもないやつと寝たり、とりあえず群れたりする人は、幸福でありたいのだ。幸福でありたいということは、今、幸福を実感できていないということだ。幸福に飢えているということだ(飢えから発せられる欲望はバリエーションに乏しく弱い、と村上龍は言っている)。
 自分がひとりだということを感じない人生が幸福だということはすごく分かるし、全然否定できない。幸福と人生の最大公約数はそれかもしれない。
 しかし吉本ばなながいう幸福の実現は、困難である。
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 第一に、孤独感を完全に消すことは不可能であること。だから「なるべく感じなくていい」という文言がついているのだ。なるべくとはどの程度か。人それぞれだ。カフェにひとりで行くのも無理という人もいれば、たまに友達と会えればそれでいいという人もいる。孤独への許容度とでも言えばよいか。許容度が小さい人はもちろん、吉本ばなな的幸福の実現は、より難しくなる。
 第二に、対象範囲が「人生」であること。平均寿命が伸びているこの世の中で、どこまでが人生であるか。ボケ始めて孤独を感じられなくなったときまでが人生だとする。それがいつか。80だとすると、ボケ始めるその日まで孤独感を感じさせない何かと一緒にいないといけない。途中で別のなにかに乗り換えてもいいけど、そう簡単には見つからないでしょう。
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「孤独感って…なに??」となる人は、幸せな人だ。
 心の内では本当はわかっているけど、感じないようにして来たなら、幸福になれる才能がある人だ。
 孤独と猛烈に向き合い、生きているやつを、かっこいいと俺は思う。

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