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VRカットシーン用の黒帯を研究してみた

こんにちは。VR-TRPGクリエイターの逆凪です。
今回はVRにおける演出を考える上で重要そうな黒帯について色々試作しつつ考えを纏めたので記事にしました。

経緯

リアリティというのは扱いが難しいものです。確かにリアリティが没入感を構成する要素である事は以前書きましたが、しかしリアリティ・没入感が体験価値に等しい訳ではないですよね。

リアリティを重視しすぎた結果「その世界の法則上にあるものしか演出に使えない」という制約を受け、VRにおける演出が息苦しくなる事があります。

リアリティと演出のより良い調和を目指し、映像に良く使われる"黒帯"をVRで扱う研究をしてみました。(映像技術的にはレターボックスと言うらしいですね、初知り)

試作

0.半球カプセル(3Dモデル)

半球2つでできたカプセルを若干傾けて、少し開けたら何か面白くならないかなと思ってとりあえず試作しました。

まず王道の四角枠からやらない逆張りオタク君…。

ということでチャチャッと作ってみたらこんな感じです…これは没ですね。

ゲーム画面(上下で黒の色が違うのは制作上の分かりやすさの為)
PLを外から見るとこんな感じ

1.四角枠(3Dモデル)

Planeを何枚か組み合わせ、アニメーションで開閉できる四角枠を作る手法です。VR魔法アクションRPG「RUINSMAIGUS」もボス戦前のカットシーンで四角枠を使っていたはずですね、このゲームは終盤の演出が凄く良いのでオススメです。

とりあえず試作。やはりこれが妥当かという感想。
突然デカくなっても四角枠のおかげで「これは演出だよ!」と分かるのもgoodです。

ゲーム画面
ポーズはテキトーに作りましたが、枠をオブジェクトが超えてくるようにするのも面白いですね。

2.黒帯(Shader)

四角枠まで使って満足していたらバーチャルクリエイターの柏葉くるみさんが黒帯のシェーダーを作って送って下さったので、これも試してみる事に。
(朝6時に半球カプセルのツイートをしたら朝8時に連絡来たが…?ドユコト…???)

シェーダーの場合は、この程度の太さがないと確かにVRでは見えづらかったので、やる演出によってはPCとVRでそれぞれ別設定の黒帯を用意する必要があるかもしれないですね。

また、clusterで試したところ、PCVRのユーザーが動画配信する場合は黒帯が配信画面に映らない事を確認しました。

ゲーム画面
球にカスタムシェーダーのマテリアルを適用している

比較

半球カプセルは論外だったので、四角枠と黒帯の使い分けを考えて行きましょう!

四角枠(3Dモデル)を使う場合

・カメラを疑似的に動かしたい場合
「RUINSMAIGUS」でやってました。黒箱の外の風景を動かす事で、カメラが動いているように見えます。四角枠を見る感覚は映像を見るものに近く、VR酔いも起こりにくいのはgoodです。

・見る対象を固定したい場合
四角枠と黒帯の違いは見方にあり、四角枠は穴を覗くイメージで、黒帯は目を細めるイメージ。
そのため黒帯を使う場合、後ろを向けば後ろが見える事になります。VRで首を傾ければ同時に黒帯も傾きます。見る対象を固定したいなら四角枠の方が向いていますね。

黒帯:下を向けば下が見える

・縮尺や距離を変えたい場合
20m離れた所にいるキャラクターの表情を描写する時、原寸大で読み取れる訳がないでしょう。"キャラクターを遠くに置かない"制約でシナリオを書くのも普通にできますが、VRゲームシナリオの可能性を限る事になってしまいます。

四角枠を使って縮尺と距離を変えて演出にすれば、"遠くて小さいもの"が"近くて大きいもの"になる「変化」を楽しませる事もできるでしょう。立場的距離と心理的距離の対比で使うとか。チェンソーマンのマキマがこんな感じでデカくなって手をこっちに伸ばしてくるとかも迫力あって良さそうじゃないですか?

キャラクターを7倍に拡大

・他にできそうな変な事
最初は黒箱内のNPCに注目させておいて、背後で音と共に四角枠展開。四角枠の奥の風景でNPCの記憶やトラウマを語るなど、三流シナリオライターでも頭回せばそれっぽい事できるはずです。物語は可能性を広げますね。

キャラクターのセリフで前に注意を引く
背後で音を出して四角枠展開
(画像はテキトーに作った)

また、四角枠をずらしたり新しい四角枠を展開したりすれば、マンガ動画的な演出が組めるでしょう。可能性は無限大ではないもののそこそこあるはずです。

黒帯(Shader)を使う場合

・暗転を入れずにそのまま繋いでカットシーンにしたい場合
四角枠の場合は、黒の壁に穴を開けるのでシーンの最初は真っ暗である必要があります。つまりこの演出を挟むのに一度暗転が必要になってしまうんですね。

暗転を使いたくない時、シーンの連続性を重視する場合は黒帯を使った方が良いでしょう。

・縮尺をそのままにしたい場合
NPCがフィールドを歩きまわったり、PLの方に近づいてきたりする演出を入れたいなら縮尺はそのままにした方が効果的で、黒帯を使う事になります。

NPC(左上)がフィールド内を歩き回りながら喋る
幽霊が体の中に入ってくるぜ!的なシーン

黒帯に意味はあるのか?
四角枠とは異なり、視点固定や縮尺変更等の役割を持たない黒帯ですが、これを使う事の意味はしっかり存在するはずです。
自由探索のVRゲームでは、カットシーンで移動や行動を長く制限するとPLが主体性を奪われ不快に感じる傾向があります。しかしこの議論の本質は「主体性を奪うな!」ではありません。今がカットシーンである事をPLに理解させ、体験価値の高いカットシーンを提供する事です。
その点、黒帯はカットシーンになった事が分かりやすく、かっこいいので十分に意味があると言えるでしょう。(長編ADVでは採用しづらいでしょうが)

黒帯を使ってアドベンチャーパートと探索パートを分ける。
(上の作品ではBGMや暗転でパートが変わった事を伝えていたが)
探索パートでは黒帯を使わない。それはそう。

統一感も大事

シーンに合わせた使い分けで、四角枠と黒帯がゴチャつかないようにだけ気をつけましょう。

VR謎解きアトラクションみたいなADVと探索がハッキリ別れてるものは基本的に黒帯を使用し、エンディングだけ四角枠にして写真映えを狙うのが良さそう。VR-TRPGみたいなADVと探索が混ざりがちなものは黒帯を使わず、超重要なシーンだけ四角枠を使用するイメージでしょうか。

おわりに

以上がVRカットシーン用の黒帯を触ってみて考えた事でした。

映像メディアの表示互換性の為に用意されたレターボックスが、ゲーム内カットシーンに採用され、その文脈からVRでは「今が演出の場であること」を表すものに変化しようとしている…というそれっぽい話にすると面白く聞こえます…面白くないです?

ということで、お相手は逆凪でした!

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