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映画『きょうのできごと a day on the planet』のこと

今日は映画の話。

友人に勧められてDVDで。

映画、久々。

実は映画を観るの自体が久々で、前回がいつの何だっかもよく思い出せないレベルなのだけど。

そのくせ映画の批評は割と読んでいて、RealSound映画部の「宮台真司の月刊映画時評」とか、ゲンロンβでの渡邉大輔氏の「ポスト・シネマ・クリティーク」とか、津田大介氏のメルマガ「メディアの現場」に連載あった「中原昌也×岸川真「最後にはだれかをブチのめすために」」とか。

「万引き家族」も「シン・ゴジラ」も「この世界の片隅に」も「君の名は」も、見どころや考えどころは知っているけど、実際にはどれも観てなかったりして。。

むかし東中野に住んでたころはポレポレ東中野に通ったり、渋谷のUPLINKやイメージフォーラムにも行ったりして、なんて言ってるとなんとなく好みも伝わりそうではあるけれども。

世紀末、その平和な空気

その好みでいうと、この映画は自分では観に行ったりレンタルしたりするジャンルのものではたぶんなくて、しかし、であればこそこういう偶然の出会いはいいもので、友がいることのありがたみも感じたりして。

私の第一声はこれ。
(どうでもいいけど別垢だったのでアイコンはトリミング)

浜に打ち上げられたクジラ、それを見つめる女子高生と思しき少女、ビルの壁に挟まった男、友人の大学院進学と引越し祝いのために車を走らせる男子大学生と、その恋人と、幼馴染の女、それからその会に同席した気弱な美青年、ほか、それぞれの「きょうのできごと」が、少しずつ微妙につながって、同時に微妙にすれ違って、でもそうして世界は続いていく。

映画の公開は2004年だけれども、柴崎友香の原作小説が書かれたのは2000年。3.11も、9.11も知らない「終わりなき日常」があったあのころの空気が伝わってくるようで。

事件は、起きない。
クジラはインパクトあるできごとという以上のものではないし、酒の買い出しに自転車を走らせた祝いの主賓は車に轢かれても死なないし(もちろん誰か死ねばいいという話では毛頭ないけど)、車内の男女の三角関係も結局まったくこじれない。

たとえば劇団チェルフィッチュの「三月の5日間」で、ラブホテルで過ごす男女が眺めるテレビに映るのはイラク戦争で陥落するバグダッド。外では反戦デモの声。
微妙につながり、微妙につながらない、という意味では同じでも、時代背景の差を感じずにはいられない。

行定勲という人

監督は行定勲。もしかするとこの人は世紀末と相性がいいのかもしれない。
代表作は言わずと知れた「世界の中心で、愛をさけぶ」。公開は同じ2004年で、片山恭一の原作刊行は2001年で新世紀だけれど、4月。

生きる指針(「大きな物語」)を社会が与えてくれなくなった世界で、キミこそが世界のすべてだ!と世界の中心で愛を叫ぶいわゆる「セカイ系」の精神と、戦時下にあって「この世界の片隅に」生きる精神には、はるかな距離があるようで。
それから10年以上が経った2018年、彼の監督作品はといえば「リバーズ・エッジ」。
岡崎京子!

たしかに2015〜17年にかけて岡崎京子展が東京・大阪・福岡で開催されるなど、この時代に彼女が求められているということ自体、考える価値はありそうだけれども、彼女の作品がもつ90年代的「終わりなき日常」の空気については、広く合意が得られている点だと思う。

行定勲という人は、そうした日本の世紀末的なものに非常にマッチした想像力の持ち主だといえるんじゃないか、など、すでにどこかで語られていそうなことでもあるけれど。

21世紀のきょうのできごと

実は映画のなかで現代的な展開を予感させる場面はいくつもあって。

たとえば祝宴の会場となった京都の旧家は、今の目線からすればシェアハウスに見えてしかたない。
登場人物の彼らは学生時代のいっとき、隠れ家あるいは秘密基地的にあの場所を使い、そして出て行くのだろうけど、今であれば、リノベでもして、町に開けた場所にして、そこで町の住民や旅人とも関わりながらともに生きていく、という展開もあるかもしれない。

たとえばクジラを見つめる少女。
彼女は映画のなかで誰ともつながらず、最後に主人公グループの車ともすれ違って接触することなく終わるのだけど、もし彼女がクジラの写真を撮ってSNSにアップして、それを見かけた主人公グループがメッセージして、なんてつながり方も今ならあるかもしれない。

彼らの見せるモラトリアムの懐かしさは愛おしいほどでもあるけれど、決してあのころに戻りたいとは思わない。
それはたぶん、あの牧歌的な時代を過ぎて、私たちの世界はすっかり殺伐としてしまったけれど、あのころにはなかった形の希望も、また確かにあるからであって。

あの彼らは今ごろどうしてるんだろうかと思ったら、ありました、『きょうのできごと、10年後』(柴崎友香,2016,河出書房新社)。
また読んだら、ここで書きます。

いろいろ言ったけど、日本の甘顔の二大巨塔である主演の妻夫木聡の顔はやっぱりいいし(ちなみにもう1人は桜井和寿)、今や反骨の政治家として活躍中の山本太郎の俳優としての仕事が見れるのも見どころでした。

お勧めしてくれた友人に、感謝。

#雑感 #推薦映画

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