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著作権を犯す罪の意識の低さは無知か?確信犯か?

今から、30年以上以前のことです。
日本画家の加山又造先生とライセンス契約したある帯のメーカーが、当時、展示会用に訪問着も何点か作ることになりました。

加山又造先生の作品から選ばれた何点かを着物に染める為に、配置などをアレンジする必要があり、数社の染め工房がその役割を分担することになりました。そして、その中のある染め工房から私にアレンジの依頼がありました。

その時選ばれた中の一つが以下の作品『春秋波濤』です。

加山又造 春秋波濤 1966年 東京国立近代美術館蔵

ところで、加山又造先生の父親は西陣織の帯の図案家で、加山先生は幼少の頃から父親の仕事を興味深く見て、自分もいつか描きたいと思っていたそうです。
そのような環境から、琳派の系譜を受け継ぐ装飾的な日本画を得意とし、独自の装飾美を完成させた画家が誕生したのもうなづけます。

気がつけば、私が尊敬する日本の画家は、葛飾北斎、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、加山又造、の5人で、その画家たちに共通するのは装飾性を芸術にまで高めた崇高な美意識の持ち主、そして北斎を除いた4人は全て琳派の画家でした。
そんなわけで、この仕事をいただいたときはとても嬉しかったのを覚えています。

残念ながら加山先生は2004年にお亡くなりになりましたが、同時代を生きた私は加山又造先生の新作を見る度に感動したのを覚えています。
加山先生が、他の画家と大きく違うのは、時代毎に画風やテーマを描き分け、同じ画家か?と思わせるほどの変幻自在であったことです。
芸術家でありながら、その仕事ぶりにデザイナーの一面も見ることができ、遠い存在でありながら、親近感をいただいておりました。

加山又造先生がBMWとコラボしたアートカー(出典 日刊カーセンサー)

以下は、同じ画家が描いたとは思えないほどの作品テーマと作風の変遷の一例です。

東京国立近代美術館所蔵『冬』
成川美術館所蔵『猫』


東京国立近代美術館所蔵『黒い薔薇の裸婦』部分


富山県水墨美術館所蔵「月光波濤」
東京国立近代美術館所蔵『千羽鶴』
天龍寺 『雲龍図』

ところで、そんなある日。
私に依頼してきた染め工房の社長からこんな話を聞きました。

加山又造先生が許可していない作品(図柄)の帯が作られて、売られているのを街で見かけたと先生がおっしゃっておられたので、ライセンス契約をしている会社が慌ててことの真相を確かめたところ、無断で加山又造先生の作品をコピーして複数の商品が作られていたことが判明したそうです。

その帯の元となったのが以下の作品です。
この作品とそっくりの帯が作られていたそうです。

東京都美術館所蔵『鶴』

当然、ライセンス契約をしている会社の担当者が、無断で帯を作っていたメーカーに出向き問い詰めたところ
「左向きの鶴を右向きに変更したら、良いと思っていた」と、言い訳したそうです。(笑)
それ以外に、この作品の鶴をとって背景の波だけの帯も作っており、それも同じく、「鶴を取ったら良いと思っていた」と・・・・・・(笑)

その後、著作権を侵害していたメーカーと、どのような話し合いがもたれ、どのような結末に至ったのかは、私の知るところではございませんが、こんな馬鹿な言い訳は無知から出てきた言葉だと思います。

それから30年以上経ったので現在は著作権意匠権に関する権利意識も、その時よりは高まったと思いますが、和装業界では相変わらず時々そのような問題を耳にしますね。

その大きな原因が意匠価値(デザイン価値)を重要視していないことにあります。

ものづくりの基本がオリジナル意匠であることを軽視している業界人が本当に多いのです。

和装業界は、相変わらず地値打ち、つまり「技術価値、素材価値、機能価値、希少価値」に重きを置き、意匠価値を低く見る傾向があり、それは、今も昔も変わらないようですね。

ユーザーの価値基準が変化しているにも関わらず、業界の体質が変わらないのです。
近年、あらゆる業界が注目しているのは『感動価値』です。

和装業界はいまだに素材・技術・機能性・希少性が感動価値を生み出すと信じ込んでいます。

しかし、多くの一般女性たちは「好きな色柄の着物や帯でなければタダでもらっても着たくない」と一様に言っています。

これは年齢に関係なくオシャレに目覚めた女性の共通の意識なのです。

和装業界の市場規模の減少は下げ止まっていません。
時代と共に変化する価値基準に敏感でなければ・・・・ですね。(笑)

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成願義夫 Jogan Yoshio プロフィール
伝統文様研究家、装飾画家、アートディレクター、着物デザイナー、伝統産業商品開発アドバイザー、呉服繁盛店の作り方アドバイザー
株式会社京都デザインファクトリー 代表取締役社長

●代表作と最近の活躍
関西国際空港の初代ウエルカムボードのデザイン。
長野県善光寺の納骨堂の納骨壇の扉デザインの他、納骨堂のデザインは多数。

●近況
2018年、秋、成願がデザインした金属製スマホケースが英国ウェールズ国立博物館に永久保管決定。
2018年、冬、和柄をテーマにした民放テレビ番組に解説者として出演。
2019年、春、ジョルジオアルマーニビューティー主催のイベント講師に招かれる。
2019年、夏、京都駅ビルのフォトスポット四箇所のデザインを手がける。
2020年、埼玉県秩父市の招きで2日間に渡り講演会と伝統デザイン勉強会を開催。
2022年、NHKのテレビ番組『美の壷』に出演。
2023年、千葉県の安国院の山門をデザインする。

●近年はグラフィックデザイナー、壁面装飾画家、着物デザイナー、伝統文様研究家、伝統産業の商品開発アドバイザー、講演家として、テレビなどにも出演し、幅広く活躍中。  
著書は、和柄デザイン素材集を10冊以上執筆。総販売数は40万冊を突破。
また、著書の大人の塗り絵『和柄のヒーリングぬり絵ブック』(PHP研究所発行)は、累計7万冊を突破していまだにロングセラーを続けている。
成願の和柄デザイン素材集は日本中のデザイン事務所に、必ず1冊以上置かれていると言われている


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