見出し画像

『正倉院もんよう』の表記は、文様か紋様か?

先日、私のFBをいつもお読みいただいている方から、以下の質問をいただきました。
『正倉院もんよう』は「文様」と「紋様」どちらの表記が正しいのでしょうか?

難しいご質問ですが、回答させていただきます。

まずは、「正倉院もんよう」を簡単に説明します。
一般的に『正倉院文様』又は『正倉院紋様』と呼ばれるのは、奈良・東大寺正倉院に伝わる宝物(美術工芸品)に多くみられる文様の総称です。

正倉院はシルクロードの終着点ともいわれ、宝物の文様は多種多様で、ローマ、ペルシア、インド、中国など西方諸国の異国情緒漂う文様が多く伝えられています。

代表的な正倉院文様

一般的な言葉の意味として、表現の幅が広く自由度の高い創作的な図柄を『文様』。固定的な型が存在し、誰でも再現可能な図柄を『紋様』として区別しております。
したがって、例えば私が自由に描いた梅の図柄は「梅文様」となり、定型で誰でも再現可能な家柄を表すマークは「家紋」と表記されます。

1200年以上前に正倉院に収められたこれらの品々に施された図柄の殆どが創作性に富んだオリジナリティー溢れるデザインなので元々は「文様」です。

しかし、現在、私達がそれらの文様を雛形(著作権は何処にも帰属しないので)として、トレースし、コピーして帯や着物やその他に使う場合、正倉院の宝物が原本となり固定的な型になり、しかも誰でも再現可能なので、「紋様」になります。

元は文様ですが、それを雛形にすると紋様になります。

例えば、上の写真「金銀山水八卦背八角鏡(きんぎんさんすいはっけはいのはっかくきょう)』を原本とすれば、それが固定的な型として存在することになります。
よって、正倉院の宝物に施されている図柄は文様ですが、現代の私達が使う場合は正倉院紋様になります。

また、正倉院の宝物の文様をアレンジして創作性を加味した図柄を時々見かけますね。この場合は「正倉院風文様」あるいは「正倉院調文様」と言うべきでしょう。

以上のように、厳密に言えば異なるのですが、現状、帯や着物に施された紋様も正倉院文様として表記されることが多く、その事に誰も異論を唱えないので、間違いであるとは言えなくなっております。

結果的に、正倉院文様を元にして作られた図柄に関しては、「どちらの表記でも良い」と言う事になります。

因みに、『模様』は紋様や文様を含む全ての図柄の総称です。

=====================================================

#和文化デザイン思考  講師
成願義夫 Jogan Yoshio プロフィール
伝統文様研究家、装飾画家、アートディレクター、着物デザイナー、グラフィックデザイナー、伝統産業商品開発アドバイザー
株式会社京都デザインファクトリー 代表取締役社長

●代表作と最近の活躍
関西国際空港の初代ウエルカムボードのデザイン。
長野県善光寺の納骨堂の納骨壇の扉デザインの他、納骨堂のデザインは多数。
サッポロビールワインラベルなど、手がけたデザインは多数多岐に渡る。

●近況
2018年、秋、成願がデザインした金属製スマホケースが英国ウェールズ国立博物館に永久保管決定。
2018年、冬、和柄をテーマにした民放テレビ番組に解説者として出演。
2019年、春、ジョルジオアルマーニビューティー主催のイベント講師に招かれる。
2019年、夏、京都駅ビルのフォトスポット四箇所のデザインを手がける。
2019年、秋、京都高島屋のバイヤー向け『伝統文様勉強会』講師を務める。
2020年、埼玉県秩父市の招きで2日間に渡り講演会と伝統デザイン勉強会を開催。
2022年、NHKのテレビ番組『美の壷』に出演。

●近年はグラフィックデザイナー、壁面装飾画家、着物デザイナー、伝統文様研究家、伝統産業の商品開発アドバイザー、講演家として、テレビなどにも出演し、幅広く活躍中。  
著書は、和柄デザイン素材集を10冊以上執筆。総販売数は40万冊を突破。
また、著書の大人の塗り絵『和柄のヒーリングぬり絵ブック』(PHP研究所発行)は、累計7万冊を突破していまだにロングセラーを続けている。
成願の和柄デザイン素材集は日本中のデザイン事務所に、必ず1冊以上置かれていると言われている


よろしければサポートをお願いします。 着物業界の為、着物ファンの為、これからも様々に活動してまいります。