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ダイヤモンドオフェンス (削除した章)〜スペースと時間〜 Vol.3

前回は、ダイヤモンドオフェンス (削除した章)〜終末のワルキューレから学ぶ:相手のプレーを読む!〜Vol.2について書いた。今回はサッカーをする上で非常に重要視される「スペースと時間」について。



サッカーはスペースと時間だとよく言われるが、スペースと時間がサッカーにどのように関係しているのだろうか。



スペースと時間


著名人の言葉
ポジショナルプレーはスペースと時間に関係しており、選手間の相互作用はチーム戦術に関係している。
フアン・マヌエル・リージョ(マンチェスターシティFCコーチ、サッカー監督)


フアン・マヌエル・リージョが言うよに、ポジショナルプレーが「スペースと時間」に関係しているということは、ダイヤモンドオフェンスを実行するには「スペースと時間」を認識する認知構造が最も重要である。

なぜなら、サッカーは頭から始まり足で終わるスポーツだと考えるからだ。サッカーにおける認知能力とはすなわち戦術能力(戦略含む)であり、サッカーは「スペースと時間」のスポーツであると言える。

そのような理由で、試合中の選手が、いつ、どこで、何を、どのように知覚しているのかを知る必要がある。


シャビがスペースと時間について話している動画があったので添付する。




認知だけを鍛えるのではなく


サッカーやその他の集団スポーツにおいて認知のトレーニングをする場合、認知だけを取り出してトレーニングをするのではなく、そのスポーツの戦略的、戦術的、技術的な要素を組み合わせ、試合の状況が設定された統合的なトレーニングを行うことで、選手の認知能力は高まる。



認知だけを取り出したトレーニング例

ボール保持者(A)と、ボール保持者の正面から10m離れたところに中央の選手(B)を配置し、中央の選手(B)の背後から10m離れたところにもう1人(C)を配置する。3人がライン(A-B-C)のような状況になる。

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中央の選手(B)は、ボール保持者(A)からパスを受ける直前に背後を振り向いて、(C)が手を上げていれば、ボールを受けてターンして(C)へパス。手を上げていなければ(A)へバックパスをするというアナリティックトレーニング(相手をつけない、試合の状況が設定されていない、反復が多い)。

このトレーニングメニューは、(C)が手を上げる、上げないかで、(B)に2つのプレーオプションがあり、簡単な意思決定が存在する。

しかし、このトレーニングには、試合の状況が設定されていない、相手がいないことにより戦略的、戦術的要素は皆無であり、技術にもフォーカスされていない。

(B)の背後の、(C)が手を上げているか、いないかの認知(意思決定)だけのトレーニングである。このようなアナリティックトレーニングでは、試合のための認知トレーニングとしては相応しくない。


ゾーンプレッシングを考案した伝説的なイタリア人監督のアリゴ・サッキによると:

私たちの選手は、ボール、スペース、相手、チームメートの4つの基準点を持っていた。全ての動きはこれらの基準点に関連して発生しなければならない。各選手は、これらの基準点のどれが自分の動きを決めるのかを決断しなければならない。


アリゴ・サッキが4つの基準点について説明したように、ボール保持者であれば、どこにスペースがあり、どのチームメートがフリーなのか、どこに数的優位があるのか、相手はどのようなシステム、及び守備方法なのか(ゾーン、マンツーマン、ミックスなど)を瞬時に知覚しなければならない。指導者は、そのような状況が発生するトレーニングを構築しなければならない。

攻撃はボールをチームメートと協力して、相手のいないスペースへ動かす。もしくは攻撃の選手がアクションを起こすことによって、相手を引きつけ、スペースを生み出し、空いたスペースを他の選手が利用し、ゴールチャンスを作り出す。そのスペースのあるところにプレーをする時間がある。

ダイヤモンドオフェンスは、相手のプレーを読み、相手のリアクションによって、選手間で相互作用することで即興プレーを創造する方法である。それを実行するためには、選手の認知構造の基礎を知る必要がある。



2次元と3次元のスペース

スペースには「幅と深さ」の2次元と「高さ」の3次元がある。サッカーのスペースの特性は「幅と深さ」の2次元を多く使用する。

チームはプレースタイルにもよるが、2次元(幅と深さ)のパスコースを見つけることができない場合、CFや相手DFラインの背後のスペースへ、浮き球のロングボール(3次元)を入れて攻撃する。

シュートを打つときはゴールの幅と高さを利用する。

サッカーのスペースはルールによって規定(サッカーコートのサイズ)され、規制(ペナルティエリアやオフサイドルールなど)されている。

スペースは選手同士をつなぎ合わせ、選手の動きによって変化し、選手の質に依存するため主観的である。例えば、技術的、戦術的に高いレベルの選手とサッカーを始めたばかりの初心者では、同じスペースのサイズでも、高いレベルの選手にとってはスペースがある、初心者にはスペースがないと感じることだろう。


スペースに関する選手の目的:
・攻撃選手の目的はスペースを作り、埋める(利用する)
・守備選手の目的は攻撃選手によって作られるスペースを監視し、作られるスペースを埋める(予測が大事)


守備は受動的なアクションであり、予測よりも攻撃選手のアクションに対してのリアクションが多い。卓越した守備組織は相手のプレーを読み、相手のアクションを予測し、スペースを埋め、未然に攻撃を防ぐ。



スペースの密度:

スペースには密度の概念もある。

密度=スペース÷選手数

として理解する。一般的に、守備は密度の増加を求め、攻撃は密度の減少を求める。


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スペースの構造(空間的−時間的知覚)


著名人の言葉:
全ての情報は、あらゆるところから発生し、全ての異なる事柄の構成要素は、多様な環境と、選手のプレー、そしてトレーニングの相互作用中に体験した状況から現れる。 
フランシスコ・セイルーロ(FCバルセロナフィジカルコーチ、大学教授)

スペースと時間の認知は個人的で主観的なものである。セイルーロが述べたように、選手は様々な情報をプレー中に認知しなければならない。サッカーには同じ状況は2度と存在しないので、非常に複雑な状況の中で選手はプレーをしている。その中で選手は多様なプレー状況やチームメートと相互作用する中で、プレー状況を学び、自分自身でその状況に適応しなければならない。


フランシスコ・セイルーロ(2002)は、認知構造のスペースと時間には様々なニュアンスや詳細なコンセプトがあることを提案している。


※下記の「空間的-時間的知覚のニュアンス」はフランシスコ・セイルーロのコンセプトを解釈したもの(コーチングコースCARの講義ノート)である。

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スペースには様々なニュアンスが存在する
・大きなスペース(グラウンド全体、戦略的)
・小さなスペース(ボール保持者の近くのスペース、戦術的)



空間的知覚(ニュアンス)

・自分の身体:自分自身がプレーをする場所
・静的目標:ゴール
距離
・個々の選手がプレーをする場所(選手と選手の距離)

部分別の距離:  
・近くのスペース(部分内)、ボール保持者の近くのスペース(ボール保持者の近くにいる選手)
・遠くのスペース(部分間)、ボール保持者の遠くのスペース(ボール保持者の遠くにいる選手)

グローバル距離:

・近くのスペースと遠くのスペースとの距離(選手間、相手、動くボールとの距離)
・パス、シュート、コンドゥクシオンを実行するときの距離(ボール保持者の近く、遠くにいる選手、相手、動くボールとの距離)
軌道(自分自身の移動コース、パスコース、コンドゥクシオンのコース)
・アクセス軌道(自分自身の身体を使って、思っている場所にアクセス(移動)する、ドリブル、コンドゥクシオン含む)
・アクセス経路(自分自身、もしくは他の人を巡回してボールを動かす、3人目の動きなど、投げる、蹴る、打つなど)

部分別の軌道:
・近くのスペースへアクセスする軌道(部分内、自分自身の身体、チームメート、相手、動くボール)の軌道
・遠くのスペースへアクセスする軌道(部分間、自分自身の身体、チームメート、相手、動くボール)の軌道

グローバル軌道:
近くへアクセスする軌道と遠くへアクセスする軌道の両方。
方角(自分自身の身体の向き)〜相互作用スペースと関係〜
・近いスペースと遠いスペース(チームメート、相手、動くボール)
・静的目標(ゴール)「変化するスペース」
チーム組織
相互作用:自分自身の身体、目標(ゴール)、距離、軌道、方角。”集団の場所”(どこのゾーンでチーム組織がプレーをしているか)


選手の認知構造を観察することによって、プレー中の選手が何を見て、どのような認知から、どのような意思決定をスペースと時間の中で実行するのかを理解することが可能となる。

大きなスペース(グラウンド全体、戦略的)は戦略的、小さなスペース(ボール保持者の近くのスペース、戦術的)戦術的であり、試合中の「時間」と関係している。

自分自身がプレーをしている場所と方向と身体の向き、ゴールの位置と距離、チームメートや相手の位置と距離、ボールの動きと距離を選手は知る必要がある。

これらのスペースを知覚して、自分自身がプレーをする場所、スペースのサイズが、プレーをする時間に大きく関係するのだ。




時間的知覚(ニュアンス)

試合中の時間
・直接的な相互作用をする時間、相互扶助の関係(ボール保持者の近くにいる選手)
・間接的な相互作用をする時間、協力の関係(ボール保持者の遠くにいる選手)
スピード
部分別スピード:
・スピードの変化、身体のあらゆる部分の部分別スピードの変化(例:脚、手、胴体、リズムなど。例:手だけを急に速く動かす)

グローバルスピード:
・スピードを維持する(スピードを維持した状態で様々な動きをする)

スピード差:
・選手間や動くボールのスピード差(各選手が異なるスピードで動く、ボールのスピードと選手のスピードの違い)
プレーの予測(リアクション反応、予測)
・前−プレー前(ボールを受ける前)
・中−プレー中(ボール保持者)
・後−プレー後(ボールを離した後)


サッカーの試合は長い時間(試合のすべての時間)と短い時間(選手がアクションを実行する時間)に分けられる。主に長い時間は戦略的であり、短い時間は戦術的である。短い時間は時間的知覚における「プレーの予測3つ(前・中・後)」のアクションに分けることができる。

戦術は、3つに分けた短い時間において、各選手がどのようなアクションを実行するのかである。

時間的知覚において試合中の選手は、自分自身がプレーをする場所、ボールの動き、スペース、個人の質、チームメートの位置、相手の位置やレベル、試合経過によって意思決定や実行する時間に感覚的な違いがある。

選手はボールを受ける前に周囲の状況を把握し、いくつかのプレーオプションを予測し、瞬時に意思決定しなければならない。そのようにたえず次のプレーを予測し、準備することでプレーをする時間を短縮できる。ボールを受けてから、次のプレーを探しているようでは、意思決定から実行までの時間が長くなり、有効なプレーができない。

プレーオプションは個人的なものであるが、グループ(2〜3人)、チーム(集団)として共通の攻撃プレーオプションを共有することが重要だ。日々のトレーニングを通じて、選手間で相互作用し、グループとして、チーム(集団)としてのプレーオプションを作り上げていくことがチームスポーツであるサッカーの攻撃の醍醐味だ。

認知構造において、個人の認知能力に加えて、チーム(集団)及びグループとしての認知能力やプレーオプションを持つことでスペースと時間を有効に使うことができる。チーム内で、次のプレーを予測して同じ絵を描くことができれば、選手のプレースピードは格段に上がるだろう。

選手の移動のスピードはもちろん重要だが、サッカー選手の最も大事なスピードとは意思決定、認知のスピードだ。サッカーは誰かがスタートの合図をしてから動き出すスポーツではない。自分自身で自らの状況(スペースや方向)やゴール、ボール、チームメート、相手の位置と距離を知覚し、瞬時に最適解であるアクセス軌道・経路を見つけなければならないのだ。

その最適解を見つけるスピードがサッカーをプレーする上で最も重要であり、選手のプレーレベルに直結する。さらにそのスピードは最適なタイミングでなければならない。速すぎても、遅すぎてもダメなのだ。

時間的知覚における「スピードの変化」とは、時間のコントロールであり、相手が体感するスピードの1つである。メッシ、イニエスタ、ネイマールのような選手は、スピードの変化を得意としている。時速何キロで移動したかよりもサッカーは「スピードの変化」の方がプレーをする上で重要である。

サッカー選手のスピードとは、時間をコントールできることだ。ただ速いだけではなく、速さがその状況に効果的でなければ意味がない。

戦略・戦術の最適化とは、スペースと時間の支配であり、それは選手の認知構造と密接に関係している。

あらためて、サッカーはスペースと時間であると認識する。ボールを受ける前にオープンスペースを認知できれば、そこに移動してボールを受ける。そうすることで次のプレーの意思決定までに余裕(時間)ができる。

仮に相手が密集しているスペースでボールを受けたら、スペースの密度が増加しており、ボールをすぐに失うことになるかも知れない。

スペースと時間は、ポジショナルプレーの概念とも共通し、ダイヤモンドオフェンスはスペースと時間を生み出すための方法論である。


次回に続く

次回は「認知を鍛える集団プレー」についてです。


引用・参考文献

坂本 圭. ダイヤモンドオフェンス 〜サッカーの新常識 ポジショナルプレー実践法. 日本文芸社(2021)

Juego de Posición under Pep Guardiola: http://spielverlagerung.com/2014/12/25/juego-de-posicion-under-pep-guardiola/

Seirul-lo Vargas, F. (2004). Estructura Socio-Afectiva. Documento INEFC Barcelona. UB.

Xesco Espar Moya. Toni Gerona Salaet. Capacidades cognoscitivas y Táctica en los deportes colectivos. Máster profesional en alto rendimiento deportes de equipo. 2004.










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