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隠(名張)の丁稚ようかん

丁稚ようかん、という菓子の名を聞いたことはありますか?

丁稚ようかんとはどんな食べ物か?! 羊羹のようにかっちり硬くもなく、一般的な水羊羹とも少しちがう。水羊羹は夏に売られる食べ物で、丁稚ようかんはお正月前後の寒い時期に食べる水菓子のような羊羹だ。コタツに入って温まった体で冷えた丁稚ようかんを食べる。地元ではコタツみかんと同じくらい定番の組み合わせだった。今もそんな風に地元で愛されているのかなと思って検索してみたら丁稚ようかんは名張市のふるさと納税返礼品にもなっていた。昭和、平成、令和と時代は移っても定番の食べ物は今も普遍のようだ。

私が小さい時に聞いていた丁稚ようかんの由来。
昔、丁稚奉公をしていた人たちがお正月に里に帰るときのお土産に羊羹は高価すぎて自分たちのお金では買えなかった。そんな丁稚たちの為に作られた安価な羊羹だから丁稚ようかんと呼んだという。その作り方も羊羹を作ったお鍋にくっついている甘い部分を水で薄めて固めたという、本当かどうか判らない伝聞があった。
自分で作ったことは無く小さい頃からお菓子屋さんに行って買う物だった。大きな木の箱にガラスの蓋がついた大きく平べったい容れ物に入っている長細く切られた丁稚ようかんを 〇本下さい と注文して竹の皮に包んでもらって買っていた記憶がある。(写真:送ってもらったのはこんな感じです)

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三重を出てから今年の春でちょうど10年、それまで食べ慣れていた丁稚ようかんとの関係もずいぶん薄くなっていた。懐かしい味。それで思い着いたのが多分2年か3年前の冬だった。お墓参りの帰りに電車に乗って丁稚ようかんを買うだけの為に名張駅まで行ってしまった。30分以上余分に電車に乗って名張駅に降りた。
駅から10分ほど歩いた本町という場所に丁稚ようかんを売っている馴染みのお店があるのだが、そのお店はクチコミでも書かれているが朝から作る分を売り切って閉めるようなお客の賑わうお店で、ふらっと行くと売り切れて買えない時がある。だから前もって残してくれるように電話でお願いしておいて当日午後にそちらに向かうことにした。

お店の屋号は大和屋さん。150年以上続く代々の老舗でこのお店のメイン商品は栗羊羹なのだが、私がすごいと思うのはその羊羹の作り方で、北海道から取り寄せた小豆を早朝から釜で炊き始める。代々の女将さんに受け継がれてきた羊羹の作り方を今も変わらず守り続けていて、釜ひとつ分をその日に売り切ったらお店は終わるんだと聞いた。作り始めから私たちの口に入るまでが一日で完結されているところが此処の羊羹の特徴である。
このお店では最中(もなか)を頼むとその場で皮を焼き餡を入れてくれる。これが本当に美味しい!私たちはなかなか作りたての最中を食べる機会が無い。この最中を楽しみに遠方からわざわざ買いに来る人も居るという。昔ながらの木の上がりに腰を掛け、お茶を出してもらって焼き立ての最中。店内には道具や資料が展示されていた気がする。話上手な女将さんは尋ねるとそこにある道具や羊羹の話を教えてくれる。時代が昭和に戻る。そんな場所だった。

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実際に店内に居たのは1時間くらいだと思うがその間も電話が掛かってきたり車が店の前に横づけされ発送の注文が入ったりと、女将さんはとにかく忙しそうだった。話をしながらも手は動いていた。店内では最中と丁稚ようかんをお皿に乗せてくれてお茶と一緒に頂いた。栗羊羹と最中は年中売っていて丁稚ようかんは冬限定の商品だ。着いたのが14時頃だったのでガラスケースに並んでいる羊羹は既にそんなに多くなかった。
朝の仕込みから包装して売る時の客との会話まですべて女将さん一人というオールインワンのお見事さ。私も働き様を見習わなくちゃと思う。そう言えば贈答用の栗羊羹を包んでいる井草も自分で編んでいるとか。細かいことまで全部ひとりの手で賄っている。一体いつ休んでいるんだろう、体大切にしてほしい。でもこの人との会話は元気をもらえる。たったひとりのお店でも活気があるのは女将さんの人柄のおかげだろう。

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売っている菓子は栗羊羹と最中と冬時期の丁稚ようかん。期間限定の丁稚ようかんは晩秋から3月半ばくらいまでの寒い時期しか作らない。だからこの時期にせっかく三重に行くんだったら丁稚ようかんを食べたいという気持ち一つでその時行動してしまったわけで、よし今だ、と思いお店まで行って家族の分まで沢山買い込んで近鉄特急に乗って帰ってきたことを憶えている。女将さんとは十代の頃からの顔馴染みで、だから突然のお取り置きの電話も掛けやすかったというのもある。電話での声が懐かしかった。「わかる?」「わかる!」そんな感じのやり取りの後の再会で、久々なのに瞬時に気持ちが当時に戻り、その場所と味を懐かしむことができた。

「東京には送れる?」「栗羊羹は送れるけど丁稚ようかんは難しいなー」そんな会話をしてから数年。暖冬の年は難しいとのことで昨年も諦めていた。栗羊羹はお店に頼むと送ってもらえる。今年は丁稚ようかんはどうだろうか、そう思って電話をしてみると同じことを考えてくれていたようだ。
丁稚ようかんを宅配で送ったことが無いらしく、普段はどういう状態で届くか保証できないので取り扱ってはいないらしい。ならそのお試しという意味でも、と思い型崩れ覚悟で宅配をお願いした。

名張では2月8日、えびす神社のえべっさん祭があり、名張の人たちは蛤とちらし寿司を食べる。その後で丁稚ようかんも食べる。私が今回電話したのが2月4日で「えべっさんが終わったら送るよー」っていう快諾の返事だった。私はその日から丁稚ようかんのことを頭の片隅で思い浮かべながら楽しみに待った。そして、2月10日に電話がきた。明日の午前中着予定だと。

・・・この note は11日の午前、つまり宅配を待ちながら書いている。
そして、今、届いた! やっと届きました!
待つ時間というのは長い。午前便だというので8時からスタンバイし、お茶を淹れる準備をし、家事をしながら、noteを書きながら待っていた。
宅配さんがやってきたのは12:03 だった。気合を入れて待っているとこんなものなのだ。が、気を取り直し早速開封して丁稚ようかん6本入りの1本を食す。クール便で届いたのでひんやりとして美味しい。羊羹ほど甘くもなく何本でも行けそうな丁稚ようかんだが、午後に子供の所にも持って行き一緒に食べる予定なので1本で止めておくことにした。

栗羊羹は発送できるが丁稚ようかんは送れないという女将さんの言葉がよく解った。家庭用なのでパックに入れ包装紙にくるみ、ビニールの袋に入れてクールの箱に入れて、という手間を掛けた送り方をしてくれていた。改めて丁稚ようかんがデリケートな食べ物であることを知った。お店に置いとけばいくらでも買いに来てもらえるのに、わざわざ東京宛てに荷造りしてもらって、有難いことだと感謝した。

栗羊羹の方は細かい栗が入っていて下側にザラっとしたお砂糖。こちらもファンが多い、というかこちらが本当は一年中置かれている主力商品なのだ。昔は嫁を貰う為に男性がこの栗羊羹を持って女性の家に挨拶に行ったと言われている。それを受け取って食べてくれるとOKで受け取ってもらえないとお断りの意味だったらしい。多分、名張で昔から住んでいる人はこの話を聞いたことが有ると思う。未確認情報ではあるが昔から在るお店なので言い伝えも多い。
宅配に何か資料っぽいのを入れてとお願いしておいたらこんな冊子を同封してくれた。中を開けたら今書いたことと繋がる記事がこの冊子に載っていた。「名張の結納文化に触れてみる」 OK云々の話は書かれてなかったが「一枚もん」という言葉が載っていた。

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女将さんがなんと5代目だということも判った。私が知っているのは4代目と5代目の女将さん。ふたりは雰囲気も話し方も似てらっしゃる。女性代々受け継がれた店内と味、ということか。どうぞ永くお店を守っていただきたい。羊羹と一緒に入っていた手紙に店主の人生を感じた。感謝。

2021年2月11日   すぎもとかよこ

後日談
孫がとても気に入った様子で丁稚ようかんを食べていた。普通の羊羹のように甘くなくあっさりした甘味なので沢山食べられる。それと、小学生低学年の孫がスプーンでどれくらい薄く切れるか試しながら少しずつ食べていた。
沢山食べた気になる? それとも自分なりのゲーム? どうしてか聞くと、私が東京で買えないんだよー、と最初に言ったから勿体なく感じたそうだ。なるほど、次いつ食べられるかわからない。

私の子供の頃も普段の小遣いで駄菓子屋で買うお菓子と違い、親のお金でたまに買いに行く自分なりにちょっと贅沢なおやつだった気がする。だから私も孫と同じように少しずつ削るようにスプーンで切り分け食べていたのを思い出した。祖母と孫、三世代、時代を超えてやってることは一緒。これもまた嬉しいことだった。気づかせてくれた丁稚ようかんにも感謝。

年をとると生まれ育った三重の地が懐かしくとても愛おしく感じ始める。最後の写真はこのnoteでご紹介の大和屋さんの丁稚ようかん(1本を2等分して並べたもの)と渋ラジでもお馴染みの長谷川さんのほうじ茶、茶器は四日市の万古焼。どれも三重の自慢できる物たちだ。
ちなみに盆は子供がお世話になった福島会津の塗り、お皿はディズニー。自分が好きな物たちと共に暮らす生活は自粛の中の楽しみでもある。

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栗羊かん博物館 大和屋
羊羹の購入と共に上記写真の道具などを見ることができます。
(早い時間帯にお店に行けない場合は予約取り置きをお勧めします)
館長名      藤井 善子 (ふじい よしこ)
住所       三重県名張市本町55
開館時間     8:30~ 商品が売り切れると閉店
電話       0595-63-2573
FAX        0595-63-2573

※ちなみに写真のお皿の丁稚ようかんは、90円です。
東京で売ってたらいくらで買えるのかなぁと思います。

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※タイトルの「隠」は、
昔々この地が忍者の里だったことから隠れると書いて「なばり」と読んだと言われています。名張市には百地三太夫や服部半蔵といった忍びの人と同じ苗字の人がたくさんお住まいです。

※この note の写真は「三重県まちかど博物館」「名張COCON」より引用。

三重県まちかど博物館
伊賀まちかど博物館:名張エリア > 栗羊かん博物館 大和屋

栗羊かんを独特の手法で作りつづけて150年の和菓子の老舗。建物自体も江戸時代に建築され、170年を数えたもの。登録有形文化財に指定されています。包装用の“いぐさ”も手づくりです。また注文時のみ作られる「羊かん屋さんが作る最中」も好評です。
 
👇紹介アドレス
https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/matikado/da/detail?kan_id=835268

名張COCON
名張cocon(なばりここん)~未来へ紡ぐ~

名張市産業チャレンジ協議会さまからのご依頼で、名張市内で30年以上つづく老舗と3年以内に創業した新店舗を取材し、1冊にまとめた本の制作を担当させていただきました。
掲載させていただいた店舗は自薦、他薦から厳選された30店舗です。

👇紹介アドレス
https://manucreate.com/works/20190127/







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