ラジャ・マハラジャの冒険⑭
ラジャと将門が血路を開き、足往が走って、敵の包囲を突破した。
包囲を突破した後も、一行は走り続けた。
「ーーもう敵は追ってこないみたいだ」ラジャが後ろを見て言った。
「よし、ここらで一息入れるか」将門が言った。
一行は、その場に腰を下ろした。
「足往、頑張ったな、偉いで」
足往から降りて、成海が言った。「傷は痛むか?」
足往はしっぽを振った。
「ええ子や」成海は足往の頭を撫でた。「ラジャは?傷は痛まんのか?」
「痛むけど、剣は振れるよ」ラジャが言った。
そんな話をしていると、突然強風が吹いた。
「わっ!」
一行は風に巻き上げられ、気をつくと、一行は虹の上に立っていた。
「ーーなんやこれ!」成海が言った。
「天の浮橋や」ヒルコが答えた。
「へー、虹の上に立っとる」
成海が興味を持って歩いてみると、
「嬢ちゃん、動くと危ないで」ヒルコが言った。
「わっ!」と言って、成海は虹から落ちそうになった。
「なんや!虹はまだあるのにーー」
「橋の形は見た目と同じやないで、気いつけや」
足往に引き上げられて、成海は元の場所に戻った。
「なんでうちら、こんなところに来たんや?」
「敵の仕掛けた罠や、このままやとここから動けへん」
「どうすりゃ出れるんや?」
成海が言うと、虹の向こう側に何かが現れた。ひとつは人影で、もう2つは三角形をしている。
「あれはなんや?」
「あれは天之御中主神、それに高御産巣毘神に神産巣日神や」
「むすひやからおむすびかーい!」
次に葦のようなものが生えてきて、そこから神が生まれた。
「宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ」将門が言った。
次はもう一人、神が現れた。
「天常立神、天地初発じゃ」
「天地初発?」
「天と地の始まりや、この辺にここを出る鍵がありそうやな」
神々は次々と生まれてくる。
「国常立神、豊雲野神、宇比地邇神、妹須比智邇神」将門が生まれてくる神の名前を言った。
「飢え死にと衰弱死?」成。が聞いた。
「ウイジニとスイジニな」とヒルコ。
「角杙神(つのぐいのかみ)、活杙神(いくぐいのかみ)、意富斗能地神(おおとのぢのかみ)、大斗乃弁神、於母陀流神(おもだるのかみ)、阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)、伊邪那岐神、伊邪那美神」将門が名前を挙げた。
続いて伊邪那岐命と伊邪那美命が天の御柱を周り、伊邪那美命が「あなにやしえおとこを」と言い、伊邪那岐命が「あなにやしえおとめを」と言った。
「わっ!」
と成海が声を挙げたのは、伊邪那岐命と伊邪那美命がセックスを始めたからである。
「あ!ヒルコ!あんたが生まれたで!」
「そうや、わいはこの時生まれたんや」とヒルコ。
「やがてヒルコは、葦舟に乗せられて、川に流された。
「あんたの言った通りやな」
「ああ」
「かわいそう…」
また伊邪那岐命と伊邪那美命がセックスをして、今度は島が生まれた。
「淡路之穂之狭別島(淡路島)、伊予之二名島(四国)、隠岐之三子島(隠岐島)筑紫島(九州)、伊伎島(壱岐)、津島(対馬)、佐度島(佐渡ヶ島)、大倭豊秋津島(本州)」と将門が説明する。
次に、伊邪那岐命と伊邪那美命は神を生んだ。
「大事忍男神、石土毘古神、石巣比売神、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神、風木津別之男男神、大渡津見神、速秋津日子神、速秋津比売神…」と将門が説明していく。
伊邪那美命は最後に火之迦具土神を生んで、陰部を焼かれて死ぬ。
伊邪那岐命が伊邪那美命に会いに黄泉国にいくが、伊邪那美命の体には蛆がたかり、恐れた伊邪那岐命は逃げ出す。
伊邪那美命が追いかけて、伊邪那岐命は千引きの石で道を塞ぎ、ことどを渡す(離婚を宣言する)。
「ならば私は、1日に千人殺す」と伊邪那美命が言うと、
「ならば私は、1日に千五百の産屋を立てる」と伊邪那岐命が言う。
ここで場面が暗転する。そして天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神が現れる。
「あ、元に戻った」成海が言った。
「ここまでにここを出るヒントがある訳やな」ヒルコが言った。
「もう嫌や…」
成海が言った。「このエロビ何回観りゃええねん!」
「エロビじゃねえ!」ラジャが言った。
「そっちかい!」とヒルコ。
「ーーん?人間は?」成海が言った。
「え?」とラジャ。
「人間が出てきてへんやん。人間はどうやって生まれたん?」
成海が言うと、一人の女が現れ、伊邪那岐命に何かを言った。
伊邪那岐命はぎょっとして逃げ出しに。
神々の姿も消えた。
天の浮橋が消え、一行と女を隔てるものはなくなった。
「ーーつまらぬ余興に突き合わせたな」
女はそう言って、こちらへ向かって歩いてきた。「神々がお前達を閉じ込めろとうるさく言うから仕方なくな。しかしこれでお前達をここから出す口実が作れた」
「ーーあなたは?」ラジャが尋ねた。
「妾は黄泉津大神、菊理媛(くくりひめ)」
「ーーあの人になんて言ったの?」
成海が菊理媛を見て言った。美人だが、眉間に鋭い険があり、顔が青黒く、時々顔のどこかから、蛆虫が顔を出しては引っ込んだりしている。
(この人、何かに怒ってるーー)
「そもそも人間を作ってないじゃないかと言ってやったのさ」
菊理媛は言って、成海に近づいてきた。
成海は後ずさったが、菊理媛は構わず、成海の耳元に口をつけて、何事かを囁いた。
「ーーえ?」
菊理媛は成海に背を向け、
「ではお前達、さらばだ」
と言うと、菊理媛は消え、辺りの景色が元に戻った。
「ーーあの人なんて言ったの?」ラジャが尋ねた。
「ーーわからない」成海が答えた。
「わからない?」
「何言われたか覚えてへん」
「ーー先進もうか」ヒルコが言った。
「ーー王を殺せ!」
「ーー王を殺せ!」
という神々の声が、辺りから響いてきた。
「こっちに鞍替えした神々か、はたまた面白がってるだけかーー」ヒルコが言った。
成海は、「ロスは大きな街だね、お金を払って車を買えばあなたは大スター。1週間が1年になり、スター達はガソリンスタンドで働いてるよ」という、『サンホセへの道』の一節を歌った。
「チッ!」
「チッ!」
と舌打ちの音がして、声が止んだ。
「ーーラジャ」
成海が言った。「うちのこと、忘れんどいてな」
「…何を言い出すの?」ラジャが言った。
「うち!死んでも、うちのこと忘れんどいてな」
(そんなこと言ってもーー)
この世界で死んだものは、全ての人の記憶から消えてしまう。
「ーーな?忘れんどいてな?」
「もちろん忘れないよ」
成海の様子がただ事でないので、ラジャがそう言うしかなかった。
しばらく歩くと、前から人が走ってきた。
「ーーそこの者達、危ない!」
とその男が言うと、森の木が倒れる凄まじい音が聞こえ、巨大な蛇が現れた。
しかも一匹ではない。何匹もいる。と思ったら、蛇の頭は胴のところでひとつになっている。目はほおずきのようであり、腹は血で爛れている。
「八岐の大蛇や!」ヒルコが叫んだ。
その逃げてきた男と、将門、ラジャ、足往が八俣の大蛇に立ち向かったが、大蛇の頭の動きは素早く、剣で斬ろうとしても蛇の頭はかわしてしまう。
足往もその牙で大蛇に噛みついたが、足往の牙は大蛇の体を噛みちぎることができない。
しかもこちらが三人と一匹なのに対し、大蛇には8つの頭がある。頭ひとつを斬ろうとすると、別の頭に噛みつかれそうになる。
「蛇の懐に入り込め!」将門が叫んだ。
ところが蛇の首が繋がった胴体に行くと、そこに人が剣を持って待ち構えていた。
「吾は天照大御神の伊呂弟(いろど、同母弟のこと)、速須佐之男命なり」
と言って剣を振るい。ラジャ達が胴体に来るのを邪魔してくる。
「なんでスサノオが八俣の大蛇と一緒に戦ってるんだよ!」ラジャが言った。
「何者かに操られてるな」ヒルコが言った。
「健御名方神、お主の命運も極まったな」と須佐之男命は言った。
「健御名方神?」ラジャが言った。
「おのれ、儂はまた負けるのか」健御名方神が言った。「この千引きの石を片手で持ち上げることのできる儂がーー」
「そんなことに意味などないわ」と、森の中から声が聞こえた。
「あ、あの伊吹山の猪神や」成海が言った。「あいつ足一本無くしとるで、どうしたんや」
「何じゃ貴様、相手になっても良いぞ」と健御名方神が言った。
「フン、笑わせてくれる。大蛇如きが手に余る貴様など相手にせんわ。己を知らぬというのは憐れなものよ」猪神はせせら笑った。
「何じゃと?」
言いながら、健御名方神は大蛇に斬りかかるがその度大蛇に噛みつかれそうになり、数歩下がった。
「貴様が己を取り戻せば、大蛇如き敵ではないわ。もっとも似た者同士噛み合うことになるがな」
「己を取り戻せばーー」
健御名方神の動きが良くなって、大蛇の攻撃を難なくかわすようになった。
「そうじゃ、儂は健御名方神ではなかった。儂は、そうーー」
健御名方神の体が脳天から裂け、中から蛇が飛び出してきた。その蛇はたちまち大きくなり、八俣の大蛇よりも一回り大きい大蛇となった。
「儂の名はーーミシャグジ!」
ミシャグジは八俣の大蛇の頭のひとつを噛みちぎった。
さらにもうひとつ頭を噛みちぎり、八俣の大蛇の勢いが弱まったところを将門がもうひとつ頭を斬った。
残り5つの蛇の頭を、ミシャグジは体で巻きつけてまとめて締め上げた。そして足往が速須佐之男命に飛びかかり、揉み合っているところをラジャが速須佐之男命の首を斬った。
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