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第1回「コトノハ・ラボ」 フリートークの記録

坂本樹です。東京近郊で詩人として活動しています。好きな食べ物はうなぎです。

さて、先日6/25に日暮里・工房ムジカにて「コトノハ・ラボ」というスラムを開催させていただきました。

こちらが全試合の結果です↓↓

【カリブラージュ】

遠藤ヒツジ VS 内藤奈美 >>勝者:内藤奈美

【1回戦】

第1試合
テラーフ VS 多嘉喜 >>勝者:多嘉喜

第2試合
大井悠平 VS 道山れいん >>勝者:道山れいん

第3試合
伊藤竣泰 VS TASKE >>勝者:伊藤竣泰

【決勝戦】

多嘉喜 VS 道山れいん VS 伊藤竣泰
>>優勝:道山れいん


ということで第1回コトノハ・ラボの優勝は道山れいんでした!おめでとうございます!

そして、本スラムの特色として、スラムを終えた後に観覧の方々も交えつつスラムに関するトークタイムを設けてみました。結果としてかなり有意義な時間になったんじゃないかと思っています。以下、トークの内容記録です。もしよければお読みください!かなり読み応えアリです。
(以下・敬称略)


・司会進行:坂本樹(主催)

・記録係:有馬武蔵

ーーー1回戦の第1試合から順を追って振り返って行こうと思います。テラーフVS多嘉喜
まず出ていたお二方に、どういうことを考えてステージに立っていたのかをお聞きしたいです。

多嘉喜:今回だけじゃなく、スラムに出ると決めて向かう時は、「ぶちのめす」が念頭にあって。ただ、スラムの良いところって、ぶちのめしても嫌な空気にならずに終わるじゃないですか。お互いにリスペクトを持って、作品同士をぶつけ合うっていう表現の場所なので。テラーフさんは以前、1回だけお会いしたこともあっても存じ上げていたので、テラーフさんと当たるんだってなった時に、「こういうことを僕はやりたい」って思ったのを今日道中で書いていて。出させてもらって、結果が出たという形ではあったので、自分としても嬉しいし、価値のある一試合をさせてもらったなと思いました。

ーーーありがとうございます。テラーフさんはいかがでしたでしょうか。

テラーフ:さっき多嘉喜さんが言われたように、5月に初めて詩の朗読をやって。その初めてやった場に(多嘉喜さんが)一緒に来られていて。その時は「ちょっと怖い人だな」と思っていました、絡みもなくて(笑)。
でも、朗読の、ポエトリーリーディングの方々がメインで、僕は普段弾き語りをやっているので、何も知らずにギターを持ち込んでいて。友達からそのイベントに誘われて、世界を広げるのはどうかっていうことで、言われて飛び込んでみたら、自分のギターを弾く前に詩の朗読なんてするなんて、全然想像もしてなかったんですけど、そういう人たちの中に入ってみるからには、自分の歌詞を朗読してから歌を歌うっていうことを試みた時に、そこで自分の気付けてないっていうか、メロディーに合わせて歌詞をつくっていた以外の余白っていうのがもっとあって。その余白を埋めて、言葉でどんどんどんどん補っていくのが詩なんだっていう感じで。普段は削る作業をずっと(歌詞で)してたんですけど、メロディーに合わせて。それはメロディーが補ってくれるわけだし、伝わるものがあると思うんですけど、言葉で伝えるっていう、同じ3分でも、音楽の3分と詩の3分は違うんだっていうのに気づいてから、すぐ2週間後のムジカのオープンマイクに、今度は楽器なしで出してもらって、やっぱ改めて朗読っていいなって思って。
で、今回、スラムっていう形式で初めてエントリーしたんですけど、それも2回ともTASKEさん主催のイベントなんです。TASKEさんが今回エントリーされるのを知って、じゃあ僕も、っていう感じでやりました。
多嘉喜さんと対戦が決まった時は、言った通り、5月にあったっていうのもあるんですけど、でも、正直そんな器用な方じゃない。多嘉喜さんがこういうパフォーマンスを、5月は10分のを2、3本朗読されたと思うんですけど、それをしっかり見て、そういう感じだと思ったんですけど、僕はそれに器用に合わせるっていうよりも、「自分の詩にどんだけダイブできるか」でやって。そこで点数をつけるつけないっていうよりかは。
今日、多分見ててわかったと思うんですけど、お客さんの方を全然見れてない。それは、ミュージシャンとして、弾き語りやってても思うんですけど、やっぱり、お客さんと目が合う、やっぱり訴えるものがあるっていうのは、すごい訴求力があるっていうか、すごい感じてくれるのはあるんですけど、それよりは、自分の作る詩の言葉が好きで、詩の世界が好きだから、そこで気持ちよく今日はずっと文字だけをって、余裕なく終わっているような。れいんさんが先ほど「放心状態」って言われたんですけど、そういう感じの初めてのスラムでした。

ーーーありがとうございます。今回エントリーしてくださるまで、恥ずかしながらテラーフさんのことを存じ上げなかったのですが、そういう方が飛び込んできてくれるって、すごい嬉しいなと個人的にすごく思っています。三木悠莉さんがすごいうなずいていますが。

三木:いやぁ、スラムの良いところってそれなんですよね。場が新しく開催されると、見知った人じゃなくて、ほんとに誰も知らなかったりとか、「この方、どういった方なんだろう」っていう方が飛び込んできてくださるってことが結構あって。今回は、多嘉喜くんとテラーフさんはお知り合いだったし、TASKE君ののイベントに出てらっしゃったことで繋がりはあったんですけど。なんていうのかな、新しい人を呼び寄せる力もスラムにはあって、新しいチャレンジの場所になってるんじゃないかなって思います。

道山:僕もさっきテラーフさんとお話しして。目線の問題って、僕もすごくいつも感じることで。目線を送った方がいいのか、ほんとは集中して読んだ方が自分は中に入れるんだけど、テラーフさんはもう全くそこを迷わず、自分の世界に入ってらっしゃいましたね、ってお話しました。音も聞こえないぐらい集中してやってたんですよ、って。だからこそ伝わってくれる狂気っていうのがあって、すごいなぁと。そこって、やっぱり永遠の課題かなって、僕の中ではですよ、皆さんはそこもうまくやってらっしゃるのかもしれないけど。 一つの流儀っていうのに触れることができて、よかったなと思いました。

ーーー僕自身もスラムに出る時とかは、目線の話っていうのは結構悩んでるところです。訴えかける部分と、自分の世界に入る部分が、どうしても中途半端になってしまうんです。目線をどこに向けて訴えるのか、世界を収束させるのが発散させるのかについて皆さんがどのようにお考えなのか、お伺いしたいです。

大井:吹奏楽部出身でトロンボーンを担当していたのですが、観客層のことで言えば、どっかのホールを借りてとか、どっかの学校のホールの借りてとかだと、もう「目、目」みたいな感じが多かったです。「視線やばい」みたいな感じで。その時の名残りで、僕もちょっと、誰かに目を合わせながらパフォーマンスをするってことにいまだに苦手意識っていうものがあって。高校の吹奏楽の時、「お前、俺と目合わせんなよ演奏の時に」みたいな感じの時があって(笑)。

三木:見てる人からしたらきっとね、「あのトロンボーン奏者の方、とても素敵だな」ってなるけど、演奏する側からしたら、多分それがプレッシャーになったりしてるのも理解できるな。

大井:そうですね。1階、2階、3階と客席があったんで、もう「うわぁ」みたいな感じなので・・・。その流れでいまだに目を合わせるとか、誰かの目を見ながらやるっていうのは苦手意識があります。

遠藤:やっぱりバックホーンが関係するんですよね。吹奏楽はある程度の集団体、大勢っていう感じですけど、スラムはいいのか悪いのか、見渡せるぐらいの人数なんですね。全国大会とかでも多くて100から150ぐらいかなと思いますけど。
例えば、スラムなんかは8人とか16人制となると、どうしても集中力が多少途切れてくる時間がみんなにあって。僕なんか3分間だと、1分半ぐらいのところで1回みんなを見渡す。で、そうすると、みんなの目線が1回こっちに向いて、集中力が戻るっていうところがあると思っていて。僕はどっちかっていうと、テキストを目に落としてやるんですけど、常に顔が見えるようなサイズ、僕の場合だとA5サイズが一番ぴったりで。テキストの媒体で言うとスマホで見る人ももちろんいますが、僕はどっちかっていうと、紙を落とすとかいろんな表現ができるので、紙が大好き。紙で見て、その代わり目線をどこかで合わせて、集中力をこっち(パフォーマー側)に、聞き手の耳を戻すっていう作業は必ずやってます。

一同:なるほど。

道山:俺、ヒツジさんに振ろうとしたんですよ、直前に。ヒツジさんは目線のバランスいいですよね、って言おうとしたんだけど、時々見てるだけなんだ。すごく見てくれてる感じがする。

遠藤:見てるよ、こっちもあなたのことを見て語りかけてるよ、っていうのをなるべく伝えたいですね。これが2万人の会場とかなると難しいな、あゆぐらいの視力がないと3階席まで見えてるって言えない(笑)。スラムのいいところでもあるし、今後広がってったらまた変わってくるのかなって感じが。

道山:見っぱなしじゃなくていいってことですね。基本テキストでも、いいところで見れば見てくれた感じになりますね。イトシュン(伊藤竣泰)とかどんな感じなの?

伊藤:俺、どっちかって言うと、みんなよりも目線がかなり甘くて。美術の畑から来て、ステージに対しての意識が今スラムで肩並べてる人と比べると一段階低いとと思ってて。なのでどちらかというと、当日までに作品のクオリティ、自分の中のクオリティまで行ってからの残りの時間で、その辺(目線等)を意識する。こういうパートのバースの時はどうしようかな、みたいに作ったりしてるんですけど。
ただ最近スラムが立て続けにあって、新作書くのがギリギリだった時、そう言う時は全然意識ができてなかったり。意外と逆に、スラムの期間が空いてて、2か月ぐらい準備できるなっていう時は、結構がっつり身振り手振りとか決め打ちでやります。

遠藤:暗記が全部正しいかって言うと、そういうわけでもないからね。テキストを持てるっていう特色があるから、スラムには。これは利点だよね。

伊藤:目線で、「どういうリアクション出るかな」みたいなことが結構みんなあると思うんですけど。僕の場合、スマホを見てても笑い声とか、耳の情報だけでなんとなく「今調子いいぞ」とか、「ちょっと思ってたのと違うな」っていうのをまかなってる感じではありますね。すいません、意識がちょっと低いっす。

ーーーそれって、結構パフォーマンスの方向性ならではの部分もありますよね。例えば見入らせる方向性のパフォーマンスだと、耳の情報としてお客さんの反応はなかなか返ってこないと思う。一方で、伊藤さんとか、僕(坂本)もどちらかといえばそっち寄りなんですけど、笑いの要素が入ってきたりすると、明確に耳の情報として返ってくるので、どこから情報を入れて、お客さんとの距離感を作っていくかはその人のパフォーマンスによって判断するところが変わってくるのかなと。

第2試合、道山れいんVS大井悠平。まず道山さん、戦ってみてどうでした?

道山:そうですね、くしくもさっきまでの話の流れになっちゃうんですけど。グリップする感じっていうのが大事だなって思ってきたんですね。今まで何回かスラムやってきて、会場の空気をどうグリップするか。まさに、イトシュン(伊藤竣泰)のグリップ感とか今日はすごかったなって思うし。
あと、直前で原稿を変えるか変えないか問題。今日は結果論としても変えずに、できたら変えたくないって。結果としても変えなかったっていう。
この2つ、とにかく会場とグリップしたい、一方で原稿は変えない。この矛盾したことをどう両立するかっていう実験をしに来ました。

ーーーありがとうございます。それでは、大井さん。

大井:やっぱり僕、スラムの経験が浅いので、 とりあえず自分の自分のキャラクターっていうか、自分の気持ちいい詩を今んとこ読みたいっていうのがエゴとしてあって。そうすると、僕のバックボーンっていうのもかかわってきて。
先ほど触れたように自分は吹奏楽上がりでトロンボーンを、社会人になった今でも吹いてるんですけど、例えば、ジャズのセッションとかライブとかで、隣に別の楽器として、サックスの人が出てくるとヤバいんすよ。「ブォウブゥオロロロ!」って、めっちゃ吹くやんみたいな感じになる(一同笑)。トロンボーンに対して、サックスは押せば出るんですよ、小回りが利くんです。ラップの羅列みたいなことができるんですけど。トロンボーンはそれに対して、「パ、ボォ、ボロロ…」、あ、できないみたいな感じで。
どうしても自分のキャラも、サックスにみたいに音数を増やすのに合わせるか、もしくはトロンボーンらしさを出すかっていうのが出てきちゃって。僕はどっちかっていうと、さっきの詩でいうと「今の僕のおだべり」みたいな感じ。ある程度言葉の数を抑制した上で、アクセントを、「今の・僕の・おだべり」の方が残るなっていうのを、意識していました。トロンボーンで何かしら学んだことを詩に生かしてんのかなと思いますし、今のところ、そういう詩を読みたいなっていうエゴがあります。

ーーー今、お二方からも話が出ましたが、読みたい詩と、読むべき詩っていう課題はありますよね。用意している手持ちからどのカードを切るかっていう部分。この人を相手にこれをやろうとか、会場の空気がこうだからだからこれをやってみようとか、皆さん決めながら戦っていると思うんですけれども、その点について各々どのように考えてるのかを伺ってみたいです。

道山:結構、今まで直前にチェンジして負けたみたいなこともあるんです。
まさに僕も音数を頑張った時もあって。実は一昨日書いてきたやつも、めちゃくちゃ疾走感ある中で読めたらと考えて書きました。これはもう、風呂場で裸で濡れたままがーっ書いて(原稿を見せる。A4の紙に5,6枚のカラーふせんが貼られ、その上に文字がびっしり。一同歓声)
・・・これを決勝で読むか迷ったんですよ。ただ、僕ってそんな滑舌は良くないから、やっぱり自分らしく行こうって思って。それから1回戦からこれを出そうかとも思ったんですよ。この方が会場のグリップは多分近くて、最近の話題とか、みんなが思ってる、俺自身も感じてることを入れたりしてるから。でも、やっぱり「あの人」っていう、十数年前に書いたラジオCMがよく考えたら詩だったなって思ったので、それを今日は絶対みんなに聞いてほしいという気持ちがあり読みました。読みたい詩を読んだってことですね、1回戦。

TASKE:今、滑舌って出てきましたよね。決勝でもそうだけど、とにかく滑舌が良く、早口ができる方が有利なのかなぁと自分は思ったけど、でも、物語調にゆっくり優しく語ったれいんくんが優勝をしたわけで。自分は難聴で、何も聞き取れないんですよね。だから、滑舌で相手に喋られると、あれ、なんのこっちゃって思って、それでいつの間にか負けてます。「母ちゃんのためならエンヤコラ」って、いやそれは「ヨイトマケの歌」っていう感じで、ヨイトマケと負けは違いますかね(一同笑)。
そんな感じで、今日も何が何だか分かんないうちにいつの間にか負けていたみたいな感じかな。でも決勝は、多嘉喜くんも竣泰くんも早口だったけど、れいんくんはなめらかに優しく、語りかけるように喋ってたんで。語りかけるということは大切なんじゃなかったかな、なんて、そういうことも改めて考えさせられたな。「ノリだけが全てじゃねえんだよ」みたいな。そこがやっぱり難しいところだよね。

ーーーこの流れで3回戦目の振り返りに参ります。伊藤竣泰VS TASKE まず伊藤さんいかがでしたか?

伊藤:試合前に結構いろいろ作戦というか、計画を練っています、結果的に今日は決勝で失敗したんすけど。一応自分としては、2本読まなきゃいけないってなった時に、新作でやりたいなと思って。今回読んだ2本をどう効果的というか、2本がお互いを作用させるふうにやろうかなって思った時に、1回戦で最初に、自分の制作論みたいな話だったと思うんですけど、回転寿司になぞらえて。あれを提示した後に決勝に行くってことは、それが一応受け入れられたっていうか。「なるほどね、いいじゃん」と言われた状態で、それを一応肯定してもらった状態で、じゃあそのあくせく製作してる中で1番今いい大トロはこれだぞっていうので、決勝で読んだやつ、みたいな流れが1番いいなと思って。
1回戦がいわゆる2人で争う、決勝が3人なんで、単純に決勝の3人で争って勝つ方が純粋に勝率で言えば難しいと。2人倒さなきゃいけないので難しいとなった時に、決勝で読んだmisonoの方が、単純に作品としてのインパクトがあるから、攻撃範囲が広いっていうので、これは絶対3人で戦う時に用意したい。で、残るものだったら、misonoと比べてそんなにこう、派手ではあるけど、そこまで広範囲までにはいかない、インパクトを与えるってよりも中身で勝負な「回転寿司」の方を1回戦で使っとこう、っていう順番決めで挑みました。全部、決勝で自分が勝つっていう計画のもと、下地づくりみたいな感じで1回戦は臨みました。

ーーーTASKEさん。1回戦戦ってみてどうでしたか。

TASKE:うーん、そうだねぇ。テキストの完成度だけじゃないというか、やっぱり滑舌なのかなぁっていう……。入ってきやすさというか、オーディエンスを引き込む力っていうのもやっぱり大切なのかなって。どんだけ気合い入れても挑んでも、空回りしちゃあなんの意味もないし、お客さんには何も伝わらないし。伝わらなかったってわけじゃないかもしんないけど、でも、やっぱりね、結局負けたってことは、ほとんどの方々には伝わらなかっただろうからな。いくらテキストが良くても、内容がよくても。
やっぱり雰囲気! 近寄りがたい、オラオラ系な番長さんが、「おーい野郎ども、これからよぉ、朗読するからよく聞けよ! おーれはジャイアン、ガーキ大将……」みたいな(一同笑)。そういう感じだとやっぱりいけないかなっていうかな。オラオラ系は良くないっていうか、お客さんのことも考えないとっていうか。つまり、「オーディエンスのことを考えるジャイアン」みたいな感じに。

一同:それいいなぁ! いいこと言った!

TASKE:サービス精神旺盛なジャイアンを目指せ、みたいな。

道山:オーディエンス考えると、つい出木杉くんになりそうになるんだけど、やっぱりジャイアンで。

伊藤:狡いスネ夫みたいな感じもダメですね。

TASKE:うん、思いやりのあるジャイアン!

一同:映画版ジャイアンだね。

ーーー最近自分が考えてることとして、ステージ上での振る舞い、所作の重要性というのがあります。さきほどTASKEさんが「テキストだけじゃない」っておっしゃっていて、またバックボーンの話とかも出てきたんですけど。ステージ上でのテキストの内容以外での振る舞いっていうのをどういうふうに固めるべきかを皆様がどのように考えているのかなっていうのをお伺いしてみたいです。

内藤:私はそれぞれだと思うんですよ。その人に合ったものが見つけられているかどうか、っていうことじゃないかなと思っていて。さっきのテラーフさんの話じゃないですけど、その時すごく詩に集中して、内にこもったものっていうのは、スラムの場合ハマる時はハマるし。私、ポエトリーってそれが許容される場と思うんですよね。必ずしも伝えなきゃいけないわけじゃないっていう部分があると思っていて。なので、どこに自分が焦点を置くかだと思いますね。パフォーマンスによって変わるっていうのもありだと思うし、自分が、この詩はもっと共感というか、お客さんにコンタクトを取ったりとかして空間とちゃんと繋がった状態でやりたいっていうものだったら、あんまり内側はミスマッチじゃないですか。そういうことなのかなと思っていました。
多分、その人がどういうパフォーマンスをその時にしたいのかっていうのと、あとは、どういうスタイルで自分を貫くのかっていうのが両方で。そこがミスマッチになってしまうと、伝わるものは伝わらないっていう気がしますね。
私はダンスから始めてるので、ステージ経験がほぼそっちに寄っているのですが、ダンスの場合、特にエンターテインメント寄りなジャンルだと「伝えるもの」としてやるので、目線は必ず前に向けます。ちょっとでも下に向くと、 あなたは暗い人に見えるからって言われる世界なんですよ(笑)。だから、舞台とかステージとか、2千人なんかが客席の向こうにいるステージとかに立った時は、もう空間の奥の方を見る。3階席の一番奥に自分を飛ばすみたいな感じでパフォーマンスをするというのを意識として持ってる。それを意識として持ってるか、逆に持たないで、自分だけの発散としてやってしまうかは、多分伝わり方が違う、見え方が変わっちゃうと思うので。やっぱりそこはパフォーマンスとして考える必要がスラムにはあるから、どう持っていきたいんだろうっていうのは、それぞれの選択なのかなって思いますね

道山:今日、僕奈美さんのカリブラージュの印象をメモしてるんですけど、風がこう吹いてて、撮影用に風開けてるぐらいいい感じ、PVかと思ったよね。

一同:パンテーンみたいな感じ(笑)。

ーーー確かに画になるというか、風を感じましたね。

内藤:あれは、詩の内容でもちょっと壁とか木とかに触れるのがちょうどあったのもあるんですけど、私は風のことも感じたたし、音も聞いてたし、逆にこっち側から人が誰かいて、喋っていて、何かやってるなみたいな、逆にこっち見てんのかなという意識も全部持ったままでやってました。

道山:それが、風の中に溶け込んでいる、場に飛び込む感じ。内容より声がすっとくるって。内容もさることながら、すって心に溶け込んだ。

伊藤:逆に、今日(ムジカの)クーラーが壊れてるってどういう状況か分からなかったのだけど、以前ムジカで別のスラムに出たことはあるから、何となく場所のことは分かるなと思った上で用意してきてたら、こんなに風が来る感じだったとは。「うわ、持ってきた詩と何にもリンクしねぇ」と。全くずらしても何にもリンクしてねえっていうのが結構逆に、「あ、やべぇ不利だ」と最初は思いました。

遠藤:ライブハウス向きの詩っていうのと、ここで向くものがありますね。それを突き抜けて勝てれば一番いいんだけど。

三木:昼と夜も違うし、お客さんもそうですよね。

伊藤:同じ人でも昼に聞きたい人、夜に聞きたい人はやっぱりあるので。

道山:内藤さんと伊藤さんの1回戦は結構同じ印象を持って、意味よりも気持ちいいと感じていました。葛藤はあったかもしれないけど、つかんでた感じしたよ。

伊藤:不利だと思ったからこそ危ないってなったのはあるかもしれないです(笑)。

ーーー環境要因のバフみたいなのはありますよね。

一同:あるある。

多嘉喜:あと、朝昼夜いつ書いたのかも結構影響します。最近、オンラインで土曜の朝に、「朝のリレー詩」っていう、あられ工場さんがやってるツイキャスのオープンマイクとかに行ってみて、そのために試しに、朝の状態で自分が書いたらどうなるんだろうというのをやってみたら、結構空気変わるんですよ。普段は基本的に17時以降しか書きものしないから。昼に書いた詩が昼の場所でやった時に、噛み合って爆発するというのもあると思うし。

伊藤:確かにスラムでも、行きの電車で最後半分ぐらい仕上げました、みたいな人がいて。 そういう人が割と勝ってて、優勝インタビューでそのことに触れてる人は意外と多い印象はある。けど、それは時刻的に合ってるじゃん。来る時間だから。

多嘉喜:「家に帰るまでスラムです」の逆バージョンじゃないけど、「家出てからスラムです」ですかね。3段跳びを、パン、パン、パン、って最後の飛ぶ瞬間がスラムの本番で、その助走が移動中の電車で、バーってボルテージが上がって、というのはたまにある。

伊藤:勇気いるよね。直前まで、前日夜寝るときにまだ完成してない状態で当日迎えて、「よし、あと残り2割3割詰めるぞ」みたいな。

多嘉喜:あ、もちろん、毎回狙ってはやらないですよ。

ーーー逆にそれがハマると、そのテキストを書いた時の気持ちをそのままステージに持っていけるので、ハマれば非常に強い戦い方ではありますよね。ただ、今伊藤さんがおっしゃったように、ギャンブル要素はありますよね。

多嘉喜:ギリギリまで書いてて、それでいざやってみたら3分50秒でした、とかだったらもう怖いじゃないですか。

道山:俺は、これ(一昨日書いた詩)読まなかった理由は、汚すぎて読めなかったっていう(一同笑)。ずーっとルビ振ってたんだけど、疲れると思ってやめたんだよね。

ーーー決勝戦の話題に移ります。出ていただいたお三方に、順番にお話を伺います。まず伊藤さん。

伊藤:まず、自分としては1回戦の笑い声や票差で、うわ、思いのほかつかみ切れてないなって。俺としては結構10ー0ぐらいで、突き飛ばして分からせた上で臨まないと、残りの2人をひっくり返すぐらいはきついなって思ってたから。意外と客の心を掴みきれてないな、勝てたけどちょっと足りないなってなって。
いつもだったら順番選ぶときに、最後を選びたいなと思ったんですけど、れいんさんが3番取って、1か2が残った時に、今日じゃなかったら基本的に2を撮っていたのですが、1回戦の最終試合で読んだ人が決勝の頭に来ると、印象・空気感は引き継げるじゃないですか、さっき言ったように、元々リンクさせた制作論で分からせた上で、これが1番今いい、取ってきた魚です、って感じにしたかったから、リンクでしないと、この客の掴み具合だとも2番でも3番でも、残り2人を見て厳しいなと思って、もう1しかしょうがないって思って。
読む直前にすらも、「なかなか厳しいぞ、この戦いは」って思って挑みました。あと、さっき言ったように、着いた瞬間の「合ってねぇ、今日の俺の詩に」っていうのがあって、結構背水の陣みたいな感じ。もう飛び込むしかないっていう感じで読んだ。

ーーー2番手多嘉喜さん。

多嘉喜:どれをこう読むかを直前に変えるか問題みたいなのも、少し関係してくるとは思うんですけど。僕は今日、決勝上がったら何読むか決めてなかったんですよ。で、竣泰くんと僕はスラムの話めっちゃしたりもするし、実際にこの間当たって今日も当たってっていう感じなんで、まあ、彼の強さは知ってますと。そこで、竣泰くんが1番選んだってなったら、彼の思考回路はおそらくこうだと、今説明してくれた内容が出てくるわけですよ(一同笑)。
だから、一試合一試合は真剣勝負なんですけど、スパーリングみたいな形だから、戦略はその場その場で立てなきゃいけなくなるじゃないですか。で、竣泰くんは多分1回戦の空気もそうだし、 1発目を選ぶってことは、つまり、それは決勝戦の空気を作りに来たと。 めちゃくちゃ面白かったじゃないですか、そのmisonoのやつ。ってなった時に、僕がその土俵ではもちろん勝てないと。で、僕の持ち玉の中で、1番あの空気をなかったことにできるものはなんだろうと。

一同:なるほど。

多嘉喜:僕はラップ畑の出身で、そのとき作った曲のリリックが、決勝戦で読んだものなんですけど、あれを選んだ理由が、ある種フローとかメロディーがはっきりするし、暗唱ができるし、トピックがだいぶ違うというのがあります。あれ、曲名「自殺」っていうんですけど。
そういうもう、嫌がらせぐらいに「はい、無理無理無理無理」みたいな感じで竣泰くんがやっているところの前に出るみたいな感じの戦略じゃないと、彼に勝てる方法が今のところ僕にはないというのがあったんで、あれを選びました。そしたら、れいんさんがもう1回どんでん返しを。空気をガン、ガン、ガンって3人とも別の空気にしたっていう。

遠藤:同じノイズで打ち消し合ってる感じあるよね、イトシュンと多嘉喜は。で、そっからまっさらになったものをもう1回立ち上げたのがれいんさんという印象を持ちました。

大井:多分、この場合だと、アップテンポ、アップテンポ、バラード染みるわ、みたいなパターンがもしかして決まっちゃったのかな。

一同:たしかに。

ーーー最後道山さんにお話伺います。

道山:最後に読んだやつは、スラムの場では読んだことなくて、SPIRITで1回読んだかなぐらいのものだったんですよね。何年か前に書いたもので、鮮度はないわけですよ。ただ、直近、自分の個人的なことの中で、すごく感じる部分もあるっていう、それだけのものだったので。やっぱりこの書き殴りにしようかなとも思ったんですけど、決勝前の休憩時間の時に、ここで深呼吸してたら、(外の商店街で)紙芝居やってて、紙芝居のパフォーマンスを見てたら、みんな楽しそうに集まっていて。
実は最後に読んだ詩は、自分で1回曲をつけてて。だから、曲がつくと少し暗譜ができるじゃないですか。僕、ほんとに暗記が苦手なんですけど、曲がついてるやつは暗記ができるっていうのがあって。それと、どっちを取るか、勝つためにやるんだったら、もしかしたらわーってなくし立てる、今日の気分を、汗みどろのやつを読むか。でも、やっぱり読みたいのはこっちだなっていうふうに思って、その気持ちを素直に言おうと思って。何年前に書いたどういうことです、とかじゃなくて、今日読むべき詩なのか、勝つための詩なのか、どっちっていうのを僕は今決めました。やりたいようにやろうというふうに思ってたっていう感じですかね。それで、直前に思いついた、全部普通に読むんじゃなくて、ここもしかしたらメロディーつけるとメリハリついているし、僕も好きなメロディーだし、と思って読んで。結果的にだけど、多嘉喜の超絶テクニックを見せられた後で、戦術的に言っても明らかに激しく読むやつはあり得なかったんだけれど、ある程度暗譜で、あんだけ読んでるのも圧倒されて、俺魂揺り動かされたけれども、いわゆる暗唱という時点だけで、ちょっとだけ対抗できるって思って。っていうのも今思えばだけどね。
ただ、言えることは、読みたいの読んでよかったなっていう感じかな。だから、とにかく放心するぐらい読もうって。やっぱり熱量と冷静さの中で、目線とか色々いつも考えちゃって、まさに坂本さんおっしゃったけど、やっぱ中途半端になってる自分がいたから、もう中途半端に今日はなりたくないと思って、放心したいと思って。

ーーースラムは一般的に後攻の方がちょっと有利って言われますが、 その後攻の方が有利と言われる要素を、味方につけて勝っていたのが、今日の決勝のれいんさんの勝ち方だったというのが個人的な印象です。
パフォーマンス順について皆様がどのようにお考えか、伺いたいです。

道山:僕、いつもじゃんけん負けてたんですよ、今まで。今日勝って思ったこと、めちゃくちゃ有利、やっぱり! じゃんけんのおかげで勝ったようなもんだとさえ言える(一同笑)。

三木:後攻は確実に有利なんです。なんでかっていうと、お客さんの反応とかを見て、この作品、こういうアウトプットに対して、こういうお客さんが反応するっていう、リソースがある上で自分が出るので。ただ伊藤さんタイプの決め打ち作品には、あんまり実は左右はしないのかなともおもっています。

道山:あと、読む作品自体は実はもう決めていたっていうのもあるんだよね。ちょっとしたアジャストができる良さっていうのは、確かにあるよね。

多嘉喜:僕が決勝で選んだものは、戦略的に優勝するにはこうだな、というように選んだんですけど。ただ勝つためにっていうよりは、僕が今まで書いてきたものの中で、今の僕が読んでも嘘にならない、自分がやってるっていうのが自信持てるものだったら、僕はもう何やったっていいと思ってるんですよ。という切り分けがあって、その中でじゃあ勝てそうだなって悪知恵が働くんならそれを選ぶみたいな感じなんで、その前段階で1個関門があるんですよ。
僕はもうスラムの場で、勝つけれども、その「勝つ詩」っていうのは何なのかってなった時に、1番読んでて、自分が後ろめたさもない詩だ、というのがあるから。「俺はいいけど、YAZAWAが何て言うかな」みたいな感じの。(一同同意)
それで、昔書いたテキストとかも、おしゃれだったりとか、この言葉遊びすげえ好きだな、みたいな詩とかを読みたい気持ちもあるんですけど。でも、数年経って、今の自分の考え方とちょっと変わってしまったり、価値観が変わってしまったりして。そうすると、「俺は好きなんだけど、TAKAKIは好きじゃない」みたいな感じになるから、それは選べない。

大井:一瞬話が飛ぶんですけど、それぞれの様式美みたいのが多分あるんじゃないかと。
例えとして、水戸黄門は 8時45分に印籠を出すっていう様式美があるわけで。「この紋所が目に見えないか」「ははーっ」になるから。その人の詩が、な「8時45分に印籠をを出すタイプね」みたいに、ある程度決まっているとそれはマンネリととられるかもしれないけれども、その人が「あ、伊藤さんだ、多嘉喜さんだ、道山さんだ」ってなるから、安心感があるんですよ。
でも、たまに、「8時45分に黄門様が印籠出さない⁉」みたいのがあると、刺さるときがあるんですよ。

ーーー崩れることによる意外性みたいなところが、強さとして働くというのはありますよね。

三木:決勝は特にそれがあると思います。勝ちたいという思いの強さを表現する方法として、お決まりを出さない。みんながこう来るでしょう、っていうところをあえて裏切ってくるっていうところで、この人がこの戦いに対して特別に思いを入れているっていう。言い方悪いですけど、演出ができるっていうところはあると思って。お客様に対して裏切りを出すっていうところも、テクニックというか、戦術の一つとしてあると思う。

伊藤:それっていわゆる、どんだけ自分が客を信頼できるかっていう、裏切ってもついてこれるかみたいな駆け引き。

多嘉喜:さらに12人とか16人と人数が多い場合になってくると、それこそ決勝に臨むまでに結構段階踏まなきゃいけなかったりとかするじゃないですか。そこまでどんだけ我慢できるかみたいなところもあって。やっぱ、負けちゃうかもしんないから、みたいな邪念がよぎると、早めにその自分の出したいものを出したくなるというのはありますよね。
そこはある種腹を決めて、俺は決勝でこれを読みたいっていうふうに思って決めてるものも、実はあったりします。大会とか臨む場によっては。決勝に残れずそれが読めなかったら、それはもうその日の俺が死んだだけだと。もう諦める、その日の俺の人生を諦めればいいだけ、諦めなきゃいけないぐらいの感じでいって、残れた時に多分ズバっていくと、多分YAZAWAになります(笑)。

大井:「45分に印籠出さない、印籠出さない……え、57分に出した!」っていうパターンももしかしたら。

多嘉喜:そうそう。だから、一瞬そうなんだと思いきや、って行かせるとか、多分色々あるかもしれないですね。

遠藤:抑制って大事ですよね。

多嘉喜:黄門様が桜吹雪をバーって出してくるかもしれない(一同笑)。あとは帰り際に「忘れもんだぞ」ってこうバッて渡されたら、黄門様が印籠渡してきて、「あ、やっぱ印籠出してくれるんだ」みたいな、いろいろある。

TASKE:やっぱり、緊張しちゃうと周囲の、空気を育むのがやっぱり鈍るかねぇ。あらかじめこれを読むぞって用意してきたテキストをなんとも読みたい。客の雰囲気を見て、その場の雰囲気で臨機応変に、やっぱりこれを読んだ方がいいかなぁみたいに変えるのは、自分的にあんまり好きじゃないっていうか。それで何度か失敗したこともあるので、その場の雰囲気で、予定していたものを変える柔軟さっていうのも大事なんじゃないかなぁと思った。
とにかく、柔軟さといえば君が見本なんだ(伊藤氏の肩に手を置く)。

伊藤:割と決め込んでいるから、柔軟はアレかもしれないけど……。

TASKE:だって竣泰くん、「ぽえぽえぽえぽぽえぽえとりー」って、柔軟だよ、柔軟。あれ何度か聞いたことあるけどさ、いいと思うよ。

ーーー名残惜しいですがお時間の方が来てしまいました。改めて皆さま本日はありがとうございました!

(構成・坂本樹)

〜Special Thanks〜
工房ムジカの皆様
遠藤ヒツジ様・内藤奈美様(カリブラージュ)
スラムに出ていただいた皆様
お越しいただいた皆様
有馬武蔵様(運営・記録・マイクの消毒とか)
阿部えれに様(オトズレの劇団員・フライヤー作ってくれました)

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