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ただ生きることすら許されない人たち 【映画】『ミッドナイトスワン』が描く欠損

※以下、映画の内容に深く触れます。未見の方は了承の上お進みください。

とても苦しい映画だ。
普通に生きることすら許されない人たちが登場する。
彼らは奪われたり罵られたりし、段々と生から遠ざかっていく。
バレエの才能が芽生える一果(服部樹咲)だけが輝かしく生き残る。

お金に不自由しない少女は一果にはバレエの才能が及ばず、さらにはケガでバレエの道を完全に断たれる。
一果を引き取った凪沙(草彅剛)は母親になれないことを目の当たりにし、少ないお金で性別適合手術を受ける。その後ケアもままならないほど生活が困窮し、やがて命を落とす。
男に入れ上げている瑞貴(田中俊介)は給料が安いという理由でショークラブを辞めニューハーフヘルスで働く。

ただ生きることすら許されない。
みんな何かが欠落していて、その足りないものがあるきっかけで露呈する。

この映画を観た多くの人は、自身がかろうじて「ただ生きている」ことを知る。
一果のような才能が無い我々にとって、何も奪われず、罵られず、欠落にもあえて気付かないフリをして、なんとか日々をやり過ごすだけで精一杯だ。
だが、ふとしたきっかけで彼らのように普通に生きることを許されない状況に陥る。
(金持ちの少女ですら自死を選ぶ展開が象徴的だ)

普通に生きているのを許されていると思い込んでいる多くの人たちにとって、この映画は深く刺さる。
人を愛することも許されないし、愛することができても大きな代償を支払わなければならない。このような状況に自分がなるかも知れない。そんな想像が出来る人にとってこの映画は、とても苦しく、痛いトゲが刺さったまま、ずっと抜けない経験を与えるでしょう。

この映画は何かを欠落したまま生きる人たちを救いはしない。
でもみんな何かを欠落しているんだと改めて考えさせてくれる映画だ。
この映画がきっかけで、ただ生きることが当たり前のように許される社会になることを願います。

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