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性的同意のデメリットと不可能性について

「性的同意を得ましょう。」
このような動きが活発になっています。
「なぜこのような当たり前のことが今更叫ばれているのか」、という思いと同時に「そもそも同意を得たと確証することなど可能なのか?」という疑問が浮かびました。

本記事では「性的同意書」が可能かどうか考えたいと思います。
またそれにより考えられるデメリット(少子化加速など)にも考えを広めたいと思います。
僕の考えから先にお伝えしますと「性的同意書は不可能でありデメリットが大き過ぎるのでは?」「性的同意が問題になるのは性教育の失敗が分かりやすく表れた結果では?」というものです。

また本記事は『松沢呉一のビバノンライフ 湯気の向こうのヒト・コト・モノ』内のシリーズ「-yes means yesの意義と実現性 -
を参考と致しました。おかげで持論を補強することが出来ました。大変勉強になる考察なのでこちらも併せてお読みいただくと、より深くこの問題について思考を巡らせることができます。

◼️ 性的同意=哲学的命題?

そもそも性的同意とはなんでしょう。
まずはここから考えていきたいと思います。
夫婦間であれパートナー間であれ、セックスする際は双方の同意が必要です。1回限りのセックスも同様です。
当たり前ですね。
男が女に「ちんこ入れていい?」と聞き女が「いいよ」と答える。
または女が「ちんこ入れて」と言い男が「いいよ」と答える。
または男(攻め)が「ちんこ入れていい?」と聞き男(受け)が「いいよ」と答える。
または男(受け)が「ちんこ入れて」と言い男(攻め)が「いいよ」と答える。
または女(タチ)が「貝合わせしていい?」と聞き女(ネコ)が「いいよ」と答える。
または女(ネコ)が「貝合わせして」と良い女(タチ)が「いいよ」と答える。
ベースとなるパターンはこの組み合わせでしょう。
レズビアンのセックスが貝合わせだけとは限らないでしょうし、貝合わせって言うのかどうかもわかりませんけども。

「ベースとなる」と注意書きをしたように、これはあくまで肉体を基準としたものです。
性自認や性的指向を考慮すると組み合わせは膨大になります。

そして人の心はグラデーションです。
100%OK、100%NGというのはなかなか無いでしょう。
「入れても良いけど耳たぶ甘噛みするのはやめて」「入れてる最中につまらなそうな顔しないで」「手マンが下手だからディルドーにして」「クンニは最低30分はして」などなどいろいろ要望があるはずです。
「絶頂後はハグとアフタートークは絶対」という人もいるでしょう。セックスを挿入だけで考えてる人と後戯まで含めて考えてる人とで齟齬が生じるということです。

これらを踏まえると「そもそも性的同意は可能なのか?」という最初の問題にぶち当たります。
セックスの前にした性的同意は、果たしてセックス中もセックス後も同意に適うのか、と。
人それぞれセックス観が違うため性的同意を得るために必要なすり合わせが果てしないものとなってしまいます。
「最初はセックスに同意したけどその後の行為は審査基準に見合いませんでした。そのため今回のセックスは不同意性交とさせていただきます。」と言われたらどうすれば良いのでしょうか。

僕が性的同意を哲学的命題だと感じるポイントをまとめます。
・何に同意したかをどうやって確認できるのか(性的嗜好の豊潤さ)
・そもそも同意は本当に同意か(心のグラデーション)

セックスは豊潤です。奥深いものです。
そのため規定しようとすると新たな問題が浮かび上がってきます。
早い話が「セックスは性的同意制にすれば解決するような簡単なものではない」ということです。

ひとつずつ問題について考えていきましょう。

◼️ 性的同意をいつ、どこまでするか


まず気になるのが「いつ、どこまで性的同意をすればいいのか」ということです。
「手を握っても良い?」「いいよ」
「キスしても良い?」「いいよ」
「舌入れても良い?」「いいよ」
「服脱がせても」「いちいちうるせーな!」
「え、じゃあ逆立ちした状態でおしっこしながら応援歌うたってもいいの?」「セックスをなんだと思ってんだよお前は。っていうかそれ1人でもでぎんな!(カミナリたくみ風ツッコミ)」

セックスするかしないかはひとまず置いておくとして、ムードは言語化不能だと思います。
手が触れて、お互いの体温が伝わり、2人の間に存在する空気が変容し、体温が上がり、相手を見る目が潤み、言葉にしなくても互いにキスを求め合っているのが心で理解できる状態。
無粋な人からすればこれは「性的同意を得ないままキスをした」となってしまうのでしょう。
ですが2人の間には確かに想い合い触れたり触れて欲しかったりする感応が存在しました。言語化不能ですし説明不能ですし証明不能です。そして当たり前ですが性的同意など得ていません。得るまでもないとお互い想い合っていたはずですから。
ですが「性的同意が必要」というルールになると「性的同意を得ていないからダメ」となってしまいます。
性がとても窮屈で浅いものとなってしまいます。

僕は「性的不同意のコミュニケーションスキルこそが必要なのでは?」と感じます。
これまで書いたように「性的同意」は膨大で規定できません。
ですが「性的不同意」はわかりやすい。ダメなものはダメです。
なので同意スキルより不同意スキルを鍛えた方が良いと思います。
相手の嫌がることはしない、という初歩的なこと。どういうのが嫌か話し合える関係性の構築。そしていろいろ積み重ねて行くことで結果的にお互い配慮し合える間柄になれるのではないでしょうか。
「性的同意問題」はセックスだけの話ではなく、大切な人とどのように生きていくかという話だったのです。
そのためにも不同意についてお互いに話し合うべきです。

次の項目では性的同意書の不可能性について考えてみたいと思います。

◼️ 性的同意書を作ることは可能か


性的同意書は難しい。
なぜなら項目が膨大だからです。
セックスを「まんこにちんこ入れて射精したら終わり」としか考えてない人には相手が願う性的同意書なんか到底作れません。
そして詳細な性的同意書を作成しようとすると人は「フレーム問題」に陥ります。
【フレーム問題についての参照記事】
『「無量空処」と「フレーム問題」について。あとジョジョ6部とか。』


規定内の項目の中から快不快は選択できますが、そのフレームはどうすれば双方すり合わせることができるのでしょうか。できるはずがありません。性にまつわる領域が広過ぎるからです。
それにもしお互い話し合って性的同意書ができたとしても、それを毎回適用できるでしょうか。
「以前作った同意書にはバック禁止と書いたけど今日はバックでして欲しいのに」
「風呂場でするの禁止だったけど今日はしたい」
「女性上位で男にビンタすることに目覚めてしまった」
などなど。
その都度項目を追記したり削除したり話し合えるような間柄なら良いですけどね。
項目を追記しながら盛り上がってしまいセックスが始まってしまいましたが、お互い項目外の行為をしてしまい双方性的不同意という事態に。ドロ沼の争いです。

それに怖いのは、性的同意書を重視してしまうと、「その時は気持ちいいと思ったけどあとから考えると嫌だった、同意していないし」と訴えられてしまう可能性があるということです。
例えば足の指を舐められ気持ち良いのでその時は拒否することは無かったが、後日「性的同意書に無いことを無許可でされた」と訴えた場合、性的同意書が全てなので訴えられた側は負けるかも知れません。
「気持ち良さそうにしてたし拒否しなかったじゃないか!」と反論しても「性的同意書には無いことをしましたよね?」と言われて終わりです。
「こんな危険で不利益を被るセックスという行為はするべきではない」と考える人が増えれば、少子化が加速する原因となるでしょう。
セックスレスが当たり前となり、セックスの成熟度はいつまで経っても上がりません。
童貞率、処女率は上がっていくでしょう。

そもそも、性的同意書を作成しようと話し合えるようなカップルは、元々性に対して理解が深いカップルと予想されます。
性的同意書が無くとも相手を思いやることがすでにできているでしょうし、嫌なことを確認し合えているでしょう。
性的同意に前向きなカップルはすでに性的同意ができていたという皮肉です。
逆に性に踏み出せない人はますます性から退行します。

それに日本はいまだに「女バイアス」があります。
女はセックスに興味ないしオナニーすらしない。まんこにちんこを入れれば喜ぶ。性的同意書にサインするなんて淫乱な女だけだ。
このように考える人もいるでしょう。
そんな馬鹿でクズのために性的同意書は必要に思えますが、そんな馬鹿でクズのせいで性的同意書にサインすることのハードルが跳ね上がってしまいます。
「性的同意書にサインしたのだから何しても良いだろう」と考えるクズのことですから、性的同意書を他人に見せびらかしてセックスしたことを自慢しまくるでしょう。
こんなクズは名誉毀損で訴えてやりましょう。
それに「性的同意書を作成しサインするような女は同性として恥ずべきこと」と女側を非難するクズな自称フェミニストもいるでしょう。

松沢呉一氏がご指摘のように、性的同意書を保管しておいて相手が有名になったら週刊誌に売り付ける、という人も出てくるでしょう。
それほどサインはいろんな問題をはらみます。
性的同意書がいかに難しいかご理解いただけるでしょう。

そもそも性教育がしっかりなされていればこのようなことを決める必要は無かったはずです。
「性的同意を得ましょう。」
当たり前じゃないですか。同意してなければ男女問わずレイプです。嫌がったら止める。そんなもんセックスに限らず全ての状況においてそうでしょう。
酒を飲みたくない人に飲ませる。車の運転をしたくない人にさせる。窃盗したくない人にさせる。全ていけません。

性教育の失敗。道徳教育の失敗。
まずそれを自覚して欲しいと強く感じます。
これらが備わってなければどんなシステムを構築しようとも問題が発生しまくるでしょう。

◼️ まとめ

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