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台無しにして、なおもおいしいピッツァイオーロ

せっかくの料理を台無しにしてしまうことで、別のおいしさを手に入れる料理…、というのが世の中には少なからずある。

例えばかつ丼。
せっかくカラッと揚がったカツを、出汁で煮込んで玉子で閉じてザクザク感を台無しにして味わう料理。
でも揚がった直後の食感が完全になくなってしまっているかと言うと決してそんなことはなく、こんがり揚がったパン粉の名残りがしっかり残る。
煮込まれてなお揚げ物という不思議な味わい。

そのかつ丼のおいしさを彷彿とされる料理がイタリア料理にもある。

カツレツピッツァイオーラという料理。

トマトの自然な甘みと酸味がパン粉衣に染み込んで、舌触りの第一印象はしっとりやさしい。
豚肉の白身はザクッと歯切れてジューシー。
脂を抱いた背中近くはクチャっと潰れて脂がジュワリ。
イタリアのカツレツには他にもさまざまなスタイルがあるけれど、ピッツァイオーラのおいしさは格別。
5本の指に入る逸品。

ちなみに、先日、この逸品を食べさせてくれたのが「オステリアナカムラ」というレストラン。
オキニイリのイタリア料理の専門店で六本木の国立新美術館の近くのこじんまりとある。
昔は六本木交差点の近くにあって、今の場所に越してきたのが10年以上前。当時は夜になると真っ暗になる町外れ。ミッドタウンやバーニーズができた今でも都心らしからぬ静かなムード。
「ナカムラさんちのごちそう」をゆったりとした気持ちでたのしむのにぴったりな場所ってニッコリします。

ホワイトアスパラガスを茹でてもらって茹でた玉子のソースをかけた一品をまず。
半熟のゆで卵を切り器の中でお酢と油と塩と合わせてかき混ぜる。
生の玉子で作ればマヨネーズになっていくに違いなく、ほのかに熱く酸味と旨味のバランス絶妙。
アスパラガスの甘み、渋みを引き立ておいしくなるのは当然。パンにのっけて食べてもゴチソウ。今度真似て作ってみよう…。

生のイワシの骨だけ抜いて、ワタをもどしてマリネする。
それにぎっしりパン粉をまとわせこんがり揚げたイワシのフライ。
ソースいらずで味わいしっかり整うことにびっくりします。
カラッと揚がった衣がザクザク、前歯で壊れる騒々しさがまたオモシロイ。

新鮮な牛モツをコトコト煮込んだ料理はサクサク、むっちり、ネットリと食感多彩で味わい濃厚。
ワインがすすむオゴチソウでした。

パスタをふたつ。
ひとつはペペロンチーノアリオリオ。
赤唐辛子をにんにくをオリーブオイルで煮込んでそこにパスタを投入。
たっぷりのレモンを絞って酸味をつかた初夏バージョン。
レモンの香りがまず鼻くすぐって、口に含むと赤唐辛子が舌をつねってビリビリ辛い。
ただ辛味も酸味と一緒になると不思議なことに甘みを舌が感じるのです。レモンの軽い渋みもほどよきアクセント。

それからニョッキ。
ゴルゴンゾーラチーズのソースで仕上げたもので、むっちりとしたじゃがいもニョッキにネットリ、チーズソースがからむ。
ソースの色が緑がかって見えるようにかなりカビの強いチーズで、ピリピリしびれる。
香りも濃厚。カビの痺れが旨味をひきしめ、残ったソースをパンで拭ってお皿はピカピカ。
これに続いてメインディッシュが先のカツレツピッツァイオーラという趣向。
オキニイリです。オキニイリ。

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