見出し画像

アイスコーヒーが下皿を従える店

飲み物の入ったグラスに下皿を添える。
コースターを敷くことは当たり前とされるけれど、下皿というのは今ではすっかり珍しくなってしまった。

かつてキラキラしていたのに、最近では濁点がつき「ギラキラ」寄りになってしまった銀座にあって、いまなお濁点つかずの清々しい「キラキラ」を守り続けている銀座ウエスト。
そこではアイスコーヒーの入ったグラスに下皿がつく。
いくつかの理由を考えることができるでしょう。

まずコーヒーカップに下皿がつく。
その下皿は、カップから垂れるコーヒーがテーブルを汚さぬようにする役目をもち、使ったスプーンの置き場所にもなる。
カップだけでなくソーセーも手にもち口に運べば、服を汚さず優雅にコーヒーをたのしめる。
つまり「小さなコーヒーテーブル」の役目も果たすなくてはならない相棒で、カップをグラスに変えたアイスコーヒーにおいても当然必要だろうという配慮とまず考えがつく。

ただとある上等なホテルのコーヒーショップでは、かつてフレッシュジュースの入ったグラスには下皿が、フレッシュではない普通のジュースには紙製のコースターをつけるというルールがあった。
理由は簡単。
フレッシュフルーツはお皿にのせて提供する。
だからフレッシュフルーツを搾ったジュースもお皿にのせて提供しないと、その内容に対する敬意を払うことができない…、と。
そう言えば下皿というもの自体を、最近、節約する傾向が顕著で例えば、カップスープやアイスクリームの器の下皿を見る機会がどんどん減ってる。
勿体無いなぁ…。ちょっとしたことが料理の格を上げたり、下げたりするのに、勿体無い。

画像1

よい飲食店とは、上等な料理とその料理を愛する人に対する敬意に溢れている場所だ…、と思う。
銀座ウエストがキラキラして見えるのは、そうした敬意に溢れているから。ソファのカバーもテーブルクロスも眩しいほどに真っ白で、パリッと糊がかかって手触りもよい。
ずっと営業をし続けている店。
建物自体がちょっとかしいて耐震基準を満たすための鉄の柱が必死で天井を支えてる。
よく見るとところどろこの塗装が剥げていたり、古ぼけて見えるところがある。けれど毎朝、毎朝、仕立て直されまっさらな状態で生まれ変わり続けているようなすがすがしさがあるのがステキ。

画像2

いらっしゃいませと同時に氷の入ったお冷のグラスの上にお店のトレードマーク。天使が舞います。竹を編んだカゴに分厚いタオルのおしぼり。いつも通りがいつものように守られてることにホッとする。

画像3

アイスコーヒーのグラスにも天使が舞って、細い銀のマドラー、一本。
うやうやしいです。

画像4

クリームを入れたピッチャーは取っ手が注ぐ口に対して90℃の位置についたオリジナル。磨き込まれた細かな傷がたくさんついてて、鈍く輝きテーブルの上をキラキラ、輝かす。
クリームは乳脂肪分たっぷりで、これまた上等。
そっと注ぐと氷の上にのっかって、しばらく漂う。それがゆっくり自分の重さで沈みつつ、コーヒーとゆっくり混じる。

画像5

サンドイッチをたのむと必ずレモンが添えられる。
搾り器に挟まれたレモンは、皮の黄色い部分が丁寧に剥かれてて、ギュッと搾っても皮の苦味がにじまぬような工夫がしっかりなされる。
コーヒーはおかわり自由です。
しかもグラスの中が少なくなると「おかわりお持ちいたしましょうか?」と自然な笑顔でさりげなく。その笑顔までキラキラなのがオキニイリ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?