ハラミステーキ、改め麹町ステーキを名乗る
ハラミのステーキ。高度経済成長期の日本人の「肉食」に対する憧れを支えた切ないゴチソウ。今日はボクの20代の頃をちょっと思い出した。
新宿の野村ビルの地下にある「テキサス」で昼。
野村ビルの地下食堂街は周辺のビルからワザワザお客様がやってくるほど人気の飲食店が集まる場所。一番人気はスパゲティーのハシヤで、エスカレーターをダッシュで降りて行列の後につくおじさんたちが続出するほど。
かつて二番人気がこの店だったのだけれど、今ではちょっと静かになりました。手軽な値段のステーキを売り物にする店が増えたからでしょう。LED照明が妖しい色を発するムードがちょっと独特。
ここがずっと売り物にしていたハラミステーキ。
輸入牛が今のように広く流通していなかった時代に、手軽な値段でステーキを食べるということは、つまりハラミを焼いて食べるというコトだった。
今でこそハラミは焼肉店の花形商品。
旨味が強くジューシーで肉肉しいと人気の部位になったけど、昔は嫌われ者でした。
細長い形をしていてステーキのような形に本来ならない。筒を開いて平らにし、筋を切って形を整え焼くという手間のかかる料理だった。焼き上がりの形が羽根を広げた蝶々みたいで、筋の切り方を間違えるとそれがよじれてみえたりもした。
足がはやくて、ちょっと鮮度が落ちると匂った。それを消すためにんにく醤油や玉ねぎをすりおろしてタレを作ったりとお店の人たちは一生懸命、創意工夫を発動させた。
このテキサスだとか、ビリーザキッドとか今でも続く大衆的なステーキハウスにやってきて、食べると当時をしみじみ思い出す。
そんななつかしい料理がなんと「麹町ステーキ」と名前を変えてらっしゃった。
麹町はテキサスという小さなチェーンが本店をかまえる場所で、東京のど真ん中。近所には番町というお屋敷街を抱えるハイソなイメージのある地名。
ハラミといえば内臓を支える役目を果たす膜であります。麹町は将軍家を守る武家屋敷が置かれた街でもあったから、なるほどハラミのような場所だったのかも…、と無理矢理納得してみせる(笑)。
それにしてもこのハラミステーキはやわらかい。熟成とかでやわらかくしたのでなく化学的な処理でやわらかくしたのでしょう…、食べ続けてるとステーキじゃなく、なり損なったハンバーグを食べてるみたいな気持ちになるほど。
かつてハラミステーキを食べると顎が疲れてしょうがなかった。疲れることが「喰った」という実感につながってもいて、分量以上に腹が満たされたものでした。
今日のハラミは360gという量。
味が単調だからマスタードとか胡椒を使って風味を変える。肉の窪みに溶けてたまったバターに醤油を注いで浸すと味が整いおいしくなった。
さすがにお腹いっぱいにはなる。でも顎が満足しないから、満腹感にいささか欠けた。これに限らず、日本の料理はみんなやわらかくなっていく。そのうち日本の人は顎を無くして宇宙人みたいになっちゃうんじゃないかと思う。それは嫌。
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