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大衆寿司の命はシャリ…、だね。

大衆的な寿司屋の命は「シャリ」に尽きる。
そんなことを思い知らされたお店が神保町にある。

「もり一」という店で、都内に何軒かある小さなチェーンの本店だという。間口小さく一番奥に洗い場と巻物などを作る小さな厨房があり、そこからぐるりと細い「O型」のベルトが回る40席ほどの小ぶりのお店。
近所には食べ放題のホルモン焼き屋とか焼きそば専門店だとか行列ができるお店がたくさんあって、けれど行列ができているから大繁盛かというとどちらも店は小さく滞席時間が長かったりする。ここは行列こそできないもののお客様が切れることなくほどよくにぎやかな状態がずっと続く。いい店だなぁ…、としみじみ思う。

まずサービスがすばらしい。
着席するとホールサービスの女性スタッフが飛んできて、「担当の◯◯です、なんでもお申し付け下さいね」という。声も笑顔も明るくて期待に胸が膨らみます。
「今日は漬けイカが数量限定でおいしいですよ」とサジェスチョンもしっかりしていて、試しにたのむ。

ベルトの中の職人さんも「はい、漬けイカ一丁」と明るい声で注文を受け、さっと出てきたイカの漬け。青唐辛子と一緒に漬けて仕上げに一味唐辛子。ビリビリ辛くて、辛味が引くとねっとりとしたイカのとろけと一緒に甘みがフワッと広がる。粋な味わい。
ちなみにほぼすべての皿が150円。ランチセットっていうのがあって、1皿に3種類の寿司が一貫づつのってくる。たのんでみたのは炙りサーモン、ゲソにタコ。うまいです。

ネタもキチッとしているけれど、シャリがおいしい。赤酢を使ったシャリにずっとこだわっていて、たしかにほんのり赤みがかったシャリを使ってる。握りはふっくら、そして人肌。最初にキリッと酸味が際立ちゆっくり甘みに変わっていく。酸味も甘みも、そして旨味も自然でやさしく、たくさん食べても飽きない味わい。
「刺身+ご飯」と「寿司」の決定的な違いはシャリの存在。寿司を寿司たらしめているのは実はシャリであって、そこにこうしてこだわる店はいいなと思う。

ちなみにかつて、回転寿司の大手チェーンがシャリを2種類持っていて、新規開店から二ヶ月ほどはわざとひと味抜いたシャリを使って握る。開店景気のときには少々まずい寿司でも人は集まる。そして二度目にやってきたとき…、つまり二ヶ月後くらいからおいしいシャリで握って回すと「おいしくなった」と、おなじみさんになるきっかけになるんだという。
それほどシャリは大衆寿司の命の部分。

とはいえやっぱりネタがおいしくなくちゃいけなくもあり、その点、ここのネタは程よい。とびきりというわけではないけれど、おいしいシャリに遜色ないほどのおいしさで、例えばコハダ。むっちりしていて酢〆の状態もなかなかなもの。

うれしいことに通常ならば2貫でひと皿というところ。同じ値段のネタであれば2種類一貫づつでひと皿にしてくれるのです。お店の中に「今日のオススメの食べ比べ」という告知があって、例えばホタテ&赤貝なんてメニューがあった。アジと鰯もたのんでみると、アジには粗みじんの玉ねぎに生姜、鰯には芥子で風味がついていた。マグロとビントロの組み合わせとか自由自在でたのしくなっちゃう。

しじみの汁はボリュームたっぷり。〆にもらった「なける干瓢巻き」には本当になけるほどたっぷりのワサビが入って海苔もおいしい。
飲食店にはいろんなサービスが存在している。
人と人とのふれあいをたのしくさせるサービスや、料理の圧倒的な魅力でもてなすサービスや。清潔で気持ち良い店の環境、そしてまた来たくなる魅力に満ちた値段など、すべてにおいて見事なサービス。勉強になる、いいお店。


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