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父とエビフライ

今日は父の誕生日。
昭和12年の生まれだったから生きていれば86歳。
母は同じ年の7月19日の生まれ。
若く見える母が「若い奥さんですネ」と褒められるたびに、こいつは4週間も歳上なんだ…、って言って母に叱られていた。

せっかくだから父の好きだったものを食べようと思って池袋の「タカセ」にくる。

エビフライは父の1番の好物でした。
父がはじめてエビフライに出会ったのが新宿駅前の中村屋。学生時代のことだから今から60年以上も前のこと。
その思い出の店でエビフライを食べたかったけどビルが改築。レストランからエビフライがなくなっちゃった。
建て替えるずっと前から「エビフライ」というメニューがなくなっちゃっていた。ハンバーグとエビフライってメニューはあったのだけど、そういうエビフライは主役じゃなくて脇役扱い。
自分の好きなものがないがしろにされてる感じが嫌だったんでしょう。
たのまなかった。

エビフライ以外にはつけあわせしかない、素性正しいエビフライしか食べなかったなぁ…。
ここのエビフライは好きだった。
それに駅前にあっていかにも昔の洋食レストラン然とした雰囲気がなつかしいってよろこんでいた。

エビフライが3本。
太くてすくっと背筋を伸ばし、尻尾も色鮮やかに揚がってる。
パン粉は細かく、きつね色とたぬき色のちょうど中間くらいの仕上がり。
きつねよりだと香ばしくなく、たぬきよりだ苦くなるんだってよく言っていた。
ここのは合格。

カサッとパン粉衣が壊れて散らかる。
ムチュンとエビが歯切れてブリンとはじける。
エビ独特の甘い香りが鼻からぬけて、強い旨みが口に広がる。
エビフライとはたしかにフライ世界の女王さま的気高さとゴージャス感をもっている。
タルタルソースよりウスターソースが好きだったなぁ…。

今日は父もよろこんだはず。

父は、これを食べると決めたら目移りも心移りもせずひたすらそれだけ食べ続けるという一途なところのあった人。
実家に帰って食事をしていたときのことです。
おかずは天ぷら。
10種類ほどの天ぷらの中からエビばかり選んで食べる
母が「色恋においてもそういう性格だったらよかったのに」と言ったら「彼女は一人だけだ」と口を滑らせたことがある。


雉も鳴かずば撃たれまい…。

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