見出し画像

カツ丼とティッシュ

四谷三丁目の尾張屋にくる。

画像1

一ヶ月ぶりくらいな感じでしょうか…、お店に入ってちょっとびっくり。
テーブルとテーブルの間にビニールシートが垂れ下がり、感染予防対策万全っていう感じになっていた。
「スゴいことになっちゃったネ」ってお店の人にいったら「私もびっくりしています」って、目をくりくりさせてニッコリ笑う。

画像2

満席になることがほとんどないのんびりとしたお店でしかも大きなテーブル。テーブル同士の間隔もゆったりしていて、それでも目で見てわかる感染対策をしなくちゃいけないのでしょうネ。

画像3

先客2組。暖かくなってくると冷たい料理の人気が出てくるようで、冷やしゴマだれきしめんを食べてる人を見て、あれ、おいしいもんなぁ。ひえひえでムチムチ。冷たいのにお腹の中がどんどんあったかくなっていく不思議な料理。ひさしぶりにそれもいいなぁ…、と思うもやっぱり今日もカツ丼を食べることにする。

画像4

注文すると何もいわなくても「ご飯少なめ、卵硬め」でいいですネ…、って。
もう何十回も同じ注文していますから。
のんびり料理が出来上がるのを待つのももう何十回目。
料理を運ぶダムウェーターを動かすモーターの音がブーンと響き、扉を開くと中にカツ丼。
お待たせしました…、ってやってくる。

画像5

漆器のお椀にご飯に煮カツ。
卵にしっかり熱が入って細かく沸騰した跡の、小さな穴がたくさんあいて仕上がったカツ。
パン粉衣がたっぷり出汁を吸い込んでしんなりやわらかになっているけど、揚げたてでサクサクだった頃の名残が感じられて前歯がたのしい。
肉の筋はしっかりぬけてて肉はやわらか。ふっかりしていてタレにまみれたご飯と一緒に口の中でゆっくりとろける。甘くてかえしの味も風味もしっかりとした煮汁を飲み込みふんわか仕上がる卵はなめらか。おいしくっておいしくて、タナカくんがおいしそうに食べてるところが目に浮かぶ。

画像6

そしてやっぱり泣いちゃうなぁ…。
ここではカレーそばも同じくらい食べていたけど、それを食べても涙は出ない。
多分、カレーそばはボクの好物。
カツ丼はタナカくんが大好きだったからなんだろう。
しみじみしみじみ。
ひとくちひとくちゆっくり食べる。

画像7

飴色に煮込まれた玉ねぎがシャキシャキ歯ざわりたのしくて、やわらかカツにふっくら卵の食感それぞれ引き立てる。
そう言えばタナカくんはカツの両端が大好きでボクはいつも真ん中近くを食べてたんだけど、それって本当に好きだったからなのか、それともボクを気遣ってのことなのか今となってはわからない。
出汁の酸味にどっしりとした味噌がおいしい味噌汁にたくわんこうこでひと揃え。

画像8

食べてる間にお客様が一組、そしてまたひと組と食事を終えて結局、お店の中にはボク一人。
そしたらそれまでじわじわまぶたを潤す程度に出てた涙が、溢れて頬をしたたか濡らす。状況を知ってくれてるお店の人の前だと思うと、もうとめどなく涙が出てきてどうしようもなくなっちゃった。

画像9

「もう一年経った?」って聞くから「一年経ったよ」って短く答える。
「まだ慣れない?」って聞かれて「全然慣れないなぁ」って答えるボクにティッシュペーパーを箱ごと置いて「ゆっくりネ」って。
一年前にもこんなことがあったよなぁ…、って涙をふいてニッコリしました。本当にしみじみありがたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?