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春告げのゴチソウ

岐阜に来ました。寒の戻りの寒さにブルッ。
「稲穂」という日本料理のお店で今日はあったまる。

生成りの麻の暖簾をくぐると一直線に続く凛々しいアプローチ。

右手に数寄屋造りの建物があり、玄関くぐると女将が正座で待っている。
いらっしゃいませと出迎えられて、靴脱ぎ座敷に案内される。
途中、何度か廊下を曲がりその両側に見え隠れする庭の風情に気持ちと空気が変わっていきます。
座敷からも庭が見え、食事がはじまる。
昆布茶でまずはお腹をあたため、梅酢のソーダ割りと鯛の昆布〆でお腹の入り口を開いてやります。

そして八寸。
「春は鳴り物と申しますので、笛の形の器に料理をあしらいました」と女将がいいます。
春は草木が音を立てるとよく言われるけど、春は鳴り物とそれを揚言するってなかなかに粋。
子持ち昆布にエビにしいたけ、里芋の親芋。白魚が上を泳いで手前にだし巻き卵に桜の葉。ぼんぼりの中にホタルイカと菜花が入っておりました。

桜の葉っぱの塩漬けの中にはおしのぎ。
サヨリの押し寿司がおさまっていた。葉っぱと一緒に食べれば春の香りが口を満たしてスベスベとしたサヨリが歯切れ、キリッと酸っぱいシャリが潰れる。
幸先の良いオゴチソウ。

続いてお椀。桜の花の模様の器。
蓋をあけるとわかめの香りがフワリと湧き出る。中にはアイナメ。
踏圧切り身に粉を叩いて出汁で煮て、それをそのまま。木の芽にしいたけ、クコの実ひとつが彩り添える。

それから刺身。
春の息吹のごとき絵柄の四角い深皿。マグロにヒラメ、アオリイカ。どれも見事な状態で、ヒラメはブリッと歯ごたえがありマグロはとろけて口の中をひんやりさせる。いかが甘くてウットリでした。

ゆったりとしたペースで料理が運ばれてくる。
急ぎすぎない。
遅すぎない。
会話をこころおきなくたのしめるリズムを料理が作ってくれる。
いい店だなぁ…、ってしみじみ思う。

焼き物到着。
サワラの西京漬け焼きにふぐの白子。実は今、足の親指がじわじわ痛風警報を発令していて、白子は譲って西京焼きをしんみり食べる。
西京味噌に余分な水気を吐き出したねっとりとしたサワラの食感、噛みごたえ。焦げた皮までおいしゅうござった。

ヒラメのすり身の真丈の木の芽のあんかけ。ふきにわらびに筍と春の景色が桜の蕾で完成します。
日本の料理は季節の料理。外は寒くも春の予感にお腹と気持ちはあったかになる。

薄い蓋付きの器にはまぐり、三つ葉がたっぷり。小鍋仕立ての最後の料理。大はまぐりはブルンと食感なめらかで、汁もおいしく仕上がっているけどこれだけなぜだか甘い仕上がり。
ここに至るまでの料理はどれも薄味だったのに、最後の最後で予想を裏切るわかりやすい味になっていた。これもメリハリ、サービス精神の現れでしょう。

ヒラメの炊き込みご飯に漬物、あられをちらしたすまし汁。炊き込みご飯の味は上品、汁はどっしりとした濃厚味で、そこに梅干しが沈んでいました。これも粋。

餅を浮かべた汁粉にみかん。どちらを先に食べるべきか悩む組み合わせです。最後にスキッとみかんで〆たいとこだけど、甘い汁粉のあとでは酸っぱく感じるかもな…、と悩んでいたら、みかんがとても甘いといいます。それで汁粉にみかんの順で食べて〆ます。オゴチソウ。


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