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7割を目指す講義NO.9 イギリスにおける貧困調査と貧困対策



1.資本家と労働者のそれぞれのニーズ


イギリスの国家的介入の歴史的な事実を説明する前に、話を理解しやすくするために、資本家のニーズと労働者のニーズについて、先に一般論をお話しておきます。

ここでは、社会をやや単純化して見ていきます。

基本的に、まず生産を担っている大きな資本があります(要するに資本家階級です。)。他方で、生産手段を持たずに自分の身体を売り物にして日々の生活を送らなければならない大多数の労働者という階級があります。
そして、大多数の人たちは、資本家に雇われる形で生活しています。
例えば、今の日本では、労働者は、1日8時間働いて、週5日で、月給○○万円という感じです。そして、労働者は、給料の中から、自分及びその家族が再生産していくための費用を捻出していきます。その賃金のレベルは人によって違います。

資本家(会社)は、労働者を雇って生産活動をしますが、できるだけ会社の儲けを得ようとします。なので、資本家は労働者に対し、できるだけ安い賃金で長く働いてほしいと考えるわけです。できるだけ賃金を低く抑えようとします。しかし、これを極端にやられてしまうと、労働者は、生活が成り立たず、再生産活動が困難になります。そこで、労働者の側は、できるだけ高い賃金を要求することになります。

このように、資本のニーズとして、資本家である会社のオーナーは、労働者の賃金を低く抑えて、できるだけ生産力を高めたいと考えます。これが資本のニーズであって、いわゆる労働者搾取と言われるものになります。
これに対し、労働者は自分の労働力を差し出して賃金を得ますが、その賃金のレベルがあまりにも低いと生活の再生産が困難になるので、できるだけ高い賃金を要求します。
ということで、基本的に、資本家と労働者の間では、対立状態が発生するわけです。これが二大階級の利害衝突というものになります。

労働者としては、資本家が賃金を低く抑えたり、長時間労働を強いたりした場合、職場を占拠したり、放棄したりするなどのストライキを起こしたりして対抗します。そうすると、工場の操業が停止します。操業が停止するということは、生産活動が停止状態になります。労働者を働かせている会社の経営者としては、利益が出なくなるので、たいへん困ってしまうわけです。
確かに、労働者は、資本家の気まぐれの賃金抑制に対し、生産活動をストップすることはできます。しかし、生産活動をストップすれば、賃金も入ってこない。これはこれで困るわけです。資本家も労働者もともに困ることになります。このような状態を回避して、労働者のニーズにもある程度応えて、資本家のニーズにもある程度応えていくためには、二大階級の対立を調整する必要が出てくるわけです。その際、国家が調整に入り、立ち会うわけです。
具体的には、国家は資本家に対し、資本のニーズを保障するため、「この地域に進出して、労働者を雇ってくれたら、労働者1人あたり助成金を5万円出します。」とか。「向こう5年間は法人税を免除します。」という特典を付けたりします。そうすると、企業側は、「それは良いアイデアである。」ということで国家の話に乗ってくるわけです。その代わり、国は資本家に対し規制をかけていきます。労働者を雇って生活をさせていくためには最低賃金はこれくらいは払わなければならないとか。また、8時間以上働かせるためには割増賃金を支払わなければならないとか。つまり、国は、飴と鞭を使い分けて、企業側に条件を提示するわけです。
国は、労働者に対しては、大きな不満もなく会社で働けて、なおかつ自分の子どもや親の面倒が見られるように、国が最低限の教育、医療、介護とか、労働者が抱える再生産上の困難(ニーズ)を満たすための公共的なサービスを提供することによって、労働者のニーズを充足していくわけです。このようなことが国家的介入になります。

2.新救貧法制定時ころのイギリスの国家的介入

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