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片耳ピアス

「一生大切にするね。」
その言葉を残して、僕たちは別れた。

僕たちが付き合って1年の記念日に、1組のピアスを二人で買った。
僕は左耳、彼女は右耳。

人生が狂うことのないように、と歯車のデザインのペアピアスを選んだ。
二人並んで歩くと、いつも息ぴったりにすべてが上手くいっていた。

でもときどき隙間が開いて、そのたびに二人でお互いに距離を詰めた。
よく肩がぶつかっていたが、そのたびに二人でお互いに笑った。

そのせいで摩擦が生じた。動きづらくなった。

最初に歯車が止まったのは彼女の方だ。
だから僕は一生懸命動いて彼女の歯車を回し続けた。

その甲斐もあって彼女の歯車は少しずつ動き出した。でもその頃には僕は疲れ果てて歯車を動かすことができなくなっていた。

僕たちは互いに自分たちの首を絞めていたのかもしれない。僕たちには重すぎた。

あれから5年の月日が経った。

僕は彼女のことが忘れられず、いつも左耳にはもう動かない歯車をつけている。
いや、長い時間を共にしたせいで歯車から抜け出せずにいるのかもしれない。

「大切に持っててよかった。」
僕の左耳からふと声が聞こえた。

するとそこには彼女がいた。
彼女の右耳には歯車のピアスがあった。

僕はこれからボロボロの歯車を動かし続けることになる予感がした。

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