見出し画像

【第二十九話】大師匠の稽古場へいざ!|しがない勤め人、国立文楽劇場で藤娘を舞う

本番前に、大師匠にお稽古をつけていただくというラッキーチャンスデーがある。

大師匠とは、おっしょはんのおっしょはんである。
大師匠から見ると、私は弟子の弟子なので孫弟子である。

今ふと思い出したのだが私が小学生の頃、
♪ 弟子弟子でーし。君は僕のでーし、僕は君のでーし ♪
と言ってじゃんけんをしていたなぁ。
あれは地域固有のものなのか、当時のブームたっだのか・・・?<典型的な脱線

よっしゃぁ、ぼろっぼろやった下稽古を挽回するでぇ〜

↓ 下稽古の様子はこちら


大師匠のお稽古は本番一ヶ月前、2021年7月の下旬であった。

意気揚々と、
♪西へ〜向かうぞーニンニキニキニキニン♪

※大師匠のお稽古場は大阪にあるのだ。

前日はたまたまおっしょはん、大阪での稽古日。

※おっしょはんは東京在住だが、大阪にも稽古場をお持ちである。

もちろんお邪魔してちゃっかりしっかり稽古をつけていただく。

大阪稽古場にて。どや!笠やら藤の枝やら大荷物一式せおってはるばる来たやで〜

↓ 渾身の小道具制作についてはこちらをどうぞ。

装備 “は“ 万全である。


さて、大師匠のお稽古当日。

大阪は関東より湿度が高いのか、
もわっとした空気がねっちょりとまとわりつくような暑い日であった。

お稽古場の最寄駅で姉弟子の名取さん達と待ち合わせ。

名取さん、とは?
説明しよう。

名取とは、相応の技芸を習得し、家元より流派の芸名を名乗ることを許された人である。
つまり、お稽古を重ねに重ねて、厳しい試験に合格した猛者だ。

ちなみに姉弟子とは、自分より先に入門した人である。
なので、自分より後に入門した人は妹弟子。

ところが、名取になると二階級特進的な扱いとなる。

妹弟子の何人かは、ぼんやりとお稽古を続けている私をすいーっと飛び越え名取となったので、
その日から彼女たちは私の姉弟子さんとなった。

そして名取さん達は、大師匠の稽古場に通い慣れている。

なぜなら彼女たちは名取試験の際、大師匠に何度も稽古をつけていただくから。

もちろんおっしょはんにもめちゃくちゃ稽古していただいた上で、のことである。


話を戻そう。

私はなにかと見積りが甘く遅刻もしがちなので、
念には念を、といつもより多めに余裕時間を取ったところ、
待ち合わせ場所(お稽古場の最寄駅)にめっちゃ早く到着してしまった。

ふええ、緊張するぅ。ソワソワ、キョロキョロ・・・

としていたところに

「おはよ〜暑いなぁ〜ゆかたでも暑いなぁ〜私も洋服で来たらよかったわぁ〜」

姉弟子Hさん、ほんわかと登場〜
白地に紺のなでしこ柄のゆかたをお召しであった。
The・日本の美、ニッポンの夏。

ご本人はお暑いかもしれないが、見ているぶんには涼し気である。

対して私は、着倒してヨレヨレな麻のシャツに膝の抜けたジーパン、足下は履きつぶしたスニーカーであった。

その格好で新幹線乗ってきたん?!近所のコンビニ行くんとちゃうで?!
と思われていたかもしれない。


さて、Hさんに先導されて大師匠の稽古場に到着。

控室で稽古着のゆかたに着替えさせてもらい、順番が来るまでおとなしく・・・

待てるわけがない。

あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。

大きな花瓶にたっぷりと花が生けられている。
うーん、ゴージャス、華やかだなぁ。

わ、賞状がいっぱい!ひー、ふー、みー、何枚あるんや?!

そして、ひときわ大きな額が。
えー、なになに?

紫綬褒章・・・しじゅ・・・ほうしょう?

もういっこあるよ、えーと、

旭日小授章・・・きょくじつしょうじゅしょう。

ほ、褒章だけならまだしも、く、勲章まで授与されておられるうううっ?!

ひーっ、こんなすごい人にどんな顔してお会いすればいいんだー?!
(やばい、ムダに緊張してきたぞ・・・)


で、大師匠のお稽古はどうだったのかというと。

まあ!東京から?!
遠くから、よぉ来てくれたなぁ〜

盆暮れに帰省してきた孫を見るような表情で、ねぎらいの言葉をくださった。

そして、ひと通りお目にかける。

(大丈夫かな?いけたかな?ドキドキ・・・)

大師匠、脇に控えて見守っておられるおっしょはんに向かって、

センセ、よお仕込んだなぁ。こんな長い曲をなぁ〜

とおっしゃったのでまずは及第点、
舞台にはのせていただけそうである。

あとね、あそこんとこ、もういっぺんやってみて。
そう、そこをね、こうしなはれ。
(大師匠実演)
そのほうがカタチがええからね。

振付が追加された。

ひいいーっ、こんなん今からよう覚えきらん〜!
どないしょー(悲鳴)

 と、おっしょはんのほうをチラリ。

大丈夫やで。私も見てるから、覚えとくから。

おっしょはん、大きくうなづく。

ここはもちろんノンバーバルコミュニケーションである。
視線、目線、アイコンタクト重要。

大師匠は同じところを再度、ご指導くださる。

引いて、まわして。そ〜う、そう。
間ぁが余るからね、そないしといてください。
ここだけ覚えてくださいね(ニッコリ)

さ、もっぺんやってみて。

大音源のテープをガチャガチャと巻き戻す大師匠。
追加の振りのあるところドンピシャから再生された。

ところが変更箇所を二度三度、
繰り返しやればやるほどできなくなってしまった。

ヤバい!なんでなんでー?なんでできなくなったのー?!
わーん、もう帰りたいー(心の中で号泣)

大師匠、心配そうなお顔で私を見つめる。

・・・んー、じっとしておきなはれ。
本番でややこしなったらあかんからな。

シンプルバージョンに戻されてしまった。
わーん、残念無念ー!私のバカバカー!


あかんかった。
下稽古のダメダメを挽回できひんかった・・・
今度こそいいとこ見せたかったのになぁ、しょんぼり。

道場(大師匠の稽古場を姉弟子さんたちはこう呼ぶ)からの帰り道。

肩を落とし、足取り重くトボトボと歩いていると、
ご一緒したもう一人の姉弟子Yさんが、

ねぇ、時間まだある?ちょっとお茶してから帰ろうよ!

と声をかけてくれた。

うう、姐さん、ありがとうございます・・・お気遣いうれしいっす。

ねえ、ここ、よさげじゃない?寄ってこうよ!

え、姐さん、ここパン屋さんじゃないですか?

大丈夫じゃない?イートインありそうだよ!
すいませーん、ふたり入れますかー?

Y姐さんはチャキチャキの江戸っ子。
なにごとも即断即決、
竹を割ったようなとはまさに姐さんのことだなぁ、といつも思う。

テーブルがひとつだけ空いていた。
ありがたく着席。

あー、疲れちゃったネ。なに飲むー?
あ、ビールあるじゃん!やったー♪

Y姐さんは酒豪である。

当然いきますよね、はい、ご相伴させていただきます〜

ポテトの向こう側にビールがあります。心の目でイマジン!

数日後のお稽古場にて。

せんせー、あの、一応、追加の振り、練習してきたんですけど・・・

当日は全然ダメだったのに、うちでやったらすんなりできたのである。
これは敗者復活あるのでは?!

そうですか!ちょっとやってみてください~

満を持してお目にかける。

(ドキドキ・・・、どうですか?)

うーん、ちょーっとせからしいかなぁ?
やっぱ、やめとこか!

(続く)

↓本シリーズのマガジンはこちら!





最後まで読んでいただきありがとうございました! 「スキ」や「シェア」していただけるとうれしいです。