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【浅草】天藤 くせになる天ぷら屋さんと、浅草寺の四万六千日

 浅草の〔天藤〕のことは、前にもここで書いたことあるけど……。
 また行っちまったので、しょうがない。
 行ったお店が重複すること、このエッセイではよくあることなので。

 毎年のこの時期は、浅草寺の〔四万六千日〕があって、この日にお参りすると通常の四万六千倍のご利益があるそうだ。
 一説によると、一升瓶の中にある米粒の数が四万六千粒というので、そこにちなんでいるとか……。
(小説で身を立てることができますように……)
 という願いを込めて、ここ数年は毎年お参りするようにしている。
 7月の8日、9日がそれにあたる。
 去年も一昨年も土日のどちらかにかかってくれていたおかげで問題はなかったけれど、今年は完全に平日。
 しかも、いま働いている会社は有給休暇の日数がちょっと……もう使える有給がない!
 会社の都合で強制的に有給を使わされることもあるので、ただでさえ少ないのに、ますます……。

 ということで、やむをえず5日遅れの本日、7月14日になっちゃったけどずらすことになってしまった。
 でも大丈夫!
 四万六千日のお札を浅草寺にお願いしていて、それを受け取りに来たので。
 お札のおかげで、四万六千日分のご利益は、ばっちりのはずだ!

 ただし、今回のおみくじは凶だったけどね。
 しばらく試練は続きそうだ……。

 で、浅草寺をこの時期に詣でる時、たいていは友達の「くぅちゃん」と一緒にくる。
 くぅちゃんはこの「旅と美味美味」にちょくちょく出てきてくれているくらい、親しい友達なのだ。
 しかも、浅草寺でおみくじを引くと、たいていは凶を引く強者でもある。
 今年は二人そろって凶を喰らったことになる。
「ねえくぅちゃん……去年、凶を引いた後、何か悪いこととかあった?」
「ん〜、そんなでもなかったかな。20年連れ添った猫が天に召されたくらい」
 それはもう、天寿を全うしている。
 とりま、わたしは安心して、凶のおみくじを結びつけておいた。

 くぅちゃんとは浅草のあちこちの店で味わい尽くした仲で、
「洋食のヨシカミはしばらく行ってないから、そこにする?」
「あー、でも70分待ちとか書いてあるね……」
「じゃあ町中華にでもしてみるか」
「それもいいけど……なんか暑いし、がっつり油っけがほしい。天藤にしようよ」
 くぅちゃんのリクエストで、今回も天藤に決まってしまった。つまり、前回も前々回もそこにしてた、という意味だ。

天藤

 天藤の天ぷらは、色が濃いめである。
 東京の天ぷらは、こういう感じのが多いらしい。
 色からして、どうもしつこそうな印象がしないでもないけれど……それどころか口当たりが軽く、風味が豊かで、何度でも連続で食べたくなる天ぷらなのだ。
 それでいて、他の店よりも混んでいないのが嬉しい。
 ……それでもたっぷり30分以上は並んだけれど。

 店内へ入ると、ふわり、空腹を刺激するような油の香りにつつまれる。
 しつこい感じが、ちっともしない。
 こぢんまりした店内で、カウンター席へ案内される。
 目の前では大将が油の様子をみながら、神経をつかって次々と揚げてゆく。
 あるいは天ぷら粉へ慎重に水を加えつつ、その具合をためしに油へ落として確認したりもする。

 これだけ神経をつかって揚げる天ぷらが、美味しくないわけがない。
 お互い、近況を語り合いながら、天ぷらを待つ。
 くぅちゃんが、
「家族がコロナにかかってさあ。42度まで上がって、でも入院もさせてもらえなくてね。熱が下がるまで2週間もかかっちゃったよ。咳も長引いて、合計で一ヶ月」
「うわあ……まだ油断できないね。わたし絶対にマスクは手放さないぞ!」
「あたしも!」
 家族が罹ったからには、くぅちゃんも罹患したに違いないけれど、幸いにも症状はでなかったそうだ。
 わたしももしかして、いつの間にか罹患して、知らないうちに治ってたりもしたかもしれない。個人差は実に大きい。

天藤の天ぷら定食

 そうこうするうちに、お目当ての天ぷら定食が出てきた。
 ここの天丼も好きだけど、天ぷら定食にすると、さくっとした感触が味わえるのがよい。

さくっと軽い口当たりの天ぷら
天ぷらにもよく合うなめこ汁
お漬物には、浅草やげん堀の七味をかけるのが好き

 穴場的なお店だけど、そう長居するのもよくない。次のお客さんに迷惑。
 束の間、幸せをかみしめて、味わい尽くし、さっと立ってお勘定。
 マスクをすると、その内側へ、たちまち天ぷらの香りが充満した。
 お店を出た後も、天ぷらを味わいつづけているような気分になった。

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