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【シルクロード】国境の崖を越えろ!(3)いざ、カラコルム・ハイウェイへ

 前回のあらすじ:
 崖くずれで国境への道が消失したけど、無理やり突破することに決めた。

 パキスタンと中国をむすぶ唯一の道は〔カラコルム・ハイウェイ〕という。
 別に高速道路なんかじゃない。
 険しい山岳の間をぬうように敷設された、普通のアスファルト道なのだ。
 車で行き来できるようになったから、以前にくらべて圧倒的に時間が短縮できるようになった。
 だから、ハイウェイ。
 ここを時速80キロ以上ですっとばすと、あっというまに川へ落ちちゃう。
 ダークグレイの水が踊る、激しい濁流へ。

 すでに前日、8人の日本人パーティが、しびれをきらしてパキスタン目指して出発していた。
 その計画は、
・タクシーをチャーター。
・全300キロの道程のうち、崖崩れ現場の120キロ地点まで行く。
・その後は、車が調達できるまで、徒歩で可能なかぎりゆく!
 なんと無謀な……。
 わたし達は、彼ら男女8人を不安と羨望のまなざしで見送った。

 そんな勇者たちの姿に、この場に居残ったわたし達も触発されちまったのさ。
 ホテルのロビーで4人パーティを組み、明朝、わたし達もタクシーをチャーターすることに決めた。

 なお、パキスタン側から生命からがら乗り越えてきたスペイン人女性が、英語で難所を語ってくれた。
「崖くずれは、3つの難所があるのよ。
 最初のポイントは、楽ちんだった。
 次のポイントは、まあまあだったね。
 最後の難所は……もうね、不可能!
 実際、突破してみせたのだから不可能ってことはないだろうけど、むしろ「よくあんなの越えられたなあ……」という、奇跡に感謝する気持ちが、その声にやどっていたっけ。
 ひとつ越えるごとに難易度が上がるんかあ……と一瞬おもったけど、
「あれ? それって逆で、こっち側からだと、いきなり最初に『不可能!』にぶち当たるんじゃね?」
 まあ……悩んでも仕方がないよね。
 行ってみないことには、何もわからない。

          ◯

 早朝の五時。
 北京時間での五時なので、実質にちかいウイグル時間では午前三時という計算になる。
 早朝にもほどがある。
 ちなみに、東京と北京では、その時差1時間。
 いかに、ウイグルの土地が遠く隔たっているか、実感できる。

 真っ暗な中で、むくりと起きると、同室の日本人たちはぐっすり眠っていた。
 4人部屋のドミトリーなので、宿泊費が安い。
 起こさないよう、そっとベッドを抜け出し、波村さんたち他の日本人3人とロビーで合流。
 タクシーは、約束通りに来てくれていた。
 真夜の闇のなかへ、タクシーは走り出し、いざ、南へ。
 他の仲間たちが、互いにコントのような会話で盛り上がっていて、
(体力、大丈夫なん?)
 心配になったが、わたしは眠っておく。
 ただ、その会話が面白すぎて、つい吹き出してしまうので、安眠妨害も甚だしい。

 やがて、夜明けちかく。
 周囲の景色がぼんやりと曙光に浮き出てきた頃合い、崖崩れ地点へ到達した。
 いつの間にか眠っていた。
 寝ぼけまなこをこすりつつ、外へ出てみると、
「すごい急流だなあ……」
 道のすぐ左手、1メートルほど下に、いかにも激しそうな音をたてて川が流れていた。

 そして肝心の道はというと……。
「なるほど、こりゃ崩れてるわ……」
「怪獣がかじった跡みたいに、すっぽり無くなってるなあ」
「ここで記念撮影でもする? 遺影の準備も必要だろうし」
 縁起でもないことを言う人がいる!

 タクシーは去った。
 わたし達4人は、崩れた崖を見上げ、ちょっとどころではない絶望を喰らっていた。

 ……つづく。

カラコルム・ハイウェイの景色

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